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第三部 宰相閣下の婚約者
701 姐さんの真骨頂(ホンキ)(前)
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「さて、まあユングベリ商会長も知っての通り、ジェイの漁場詐欺の話の裏で未承認のおかしな茶葉が流通しているらしいとの話があって、商業ギルドとしても放ってはおけないと、探れるだけ探ってみたワケなんだが」
全員が腰を下ろしたのを見計らって、口火を切ったのはリーリャギルド長だった。
カールフェルド商会長代理は商談中らしく、終わり次第駆けつけるとの話で、それまでに出来る話はしておこうと言うことで、話は始まった。
「既に奴さんとは多少の情報共有はしているからね。で、茶葉の話が先にあってそれを覆い隠すための詐欺話だったか……? まあそれ以上はギルドの手に余る話だから、そっちはお偉いさんに任せるとして、とりあえず茶葉の話をさせて貰うよ」
自警団のラジス副団長やイフナースから、高等法院のオノレ子爵に話が通ったと聞いたところで、リーリャギルド長は資金回収面以外での詐欺話には首をつっこまないことを決めたらしい。
商会の名義貸しの話すらも、フォルシアン公爵家とダリアン侯爵家の話し合いを待たなくてはならなくなったのだから、後回しにせざるを得なかったとも言えた。
「アズレート」
「はい」
リーリャギルド長の一声で、アズレート副ギルド長が手にしていた書面をテーブルの上へと広げた。
彼はイフナースと違いスリアンさんが呼んだワケではなく、スリアンさんの「捕獲!」の声にいち早く反応してここにやって来ていたのだ。
他の面々はどうやら既に一度それを目にしていたらしいので、その書面を前傾姿勢で覗き込んだのは私一人だった。
「……地図」
よく見ればそれは、海を挟んでバリエンダールとアンジェスとが書かれた国の地図でありそこには複数個所の丸い印があって、それぞれが直線で繋がっていた。
「さすがにこの短時間で、全部が全部〝痺れ茶〟だとまでは特定出来ていないんだがね。少なくとも、これまでアンジェス国内で見ることのなかった新種の茶葉と言う括りで回答のあった地域がコレさ」
「!」
直線がバリエンダールに向かう海の途中で止まっているのは、まだ確証のない現段階では隣国にまで調査の手を伸ばせなかったからだろう。
海の途中から発生している直線が、まずはコンティオラ公爵領内、カプート子爵領と書かれている海岸線から、それらを囲うナルディーニ侯爵領領都へと延びていた。
「ここに関しては茶葉に限った話ではなくてね。バリエンダールからの海産物の多くがこのルートを通る。海産交易路の出発地なのさ」
私の視線の先を見ながら、そう言葉を続けてくれるリーリャギルド長に「なるほど」と私は頷く。
ジェイの話もこの周辺で水揚げされると聞いていたから、さもありなんだ。
だからこそ、新しい漁場と言う話にも一応の説得力はあったんだろう。
「カプート子爵家は、ナルディーニ侯爵家が寄り親だと言っても、当代の領主は領都ブラーガの元領都商業ギルド長。子爵家に入り婿として入っているお人なのさ。基本的にお偉いさんに尻尾を振るような為人はしていないはずなんだ」
むしろ海産物関連の利益を独占することはせず、ジェイであれば子爵領産の中からブラーガ領産を切り離して高級化を図り、領都自体には個人商店から大手商会から多くの行き来を可能にし、ギルドに対しては店舗設立の許可を緩め、雇用の掘り起こしと漁獲量の調整を図って乱獲を阻止してきたのだと言う。
他の魚や貝でも似たようなことを行ってきている、と。
カプート子爵領内の各商業ギルドは、むしろ元ギルド長である子爵に頭が上がらないらしい。
だからこそ、いくら王の他にその膝は折らないと言っても、事実上の顧問扱いになっている子爵に対しては、王都商業ギルドとしても気は遣っているんだそうだ。
特に人事異動に関しては、子爵領に赴任させる人選に関して新人は遣れないと、毎回知恵を絞っているのだとリーリャギルド長は苦笑した。
「現時点でラヴォリ商会は店舗を構えているし、例えばユングベリ商会が新規参入すると言ったところで、子爵ならば喜んで許可を出すだろうさ。だがまあ、今回はその寛容さが、裏で未承認の茶葉を通しちまったんだろうねぇ……」
街が活気づいて様々な人や物資が流入をすれば、監視の目をすり抜ける人や物が出て来ることも、残念ながら枚挙に遑がない。
問題の〝痺れ茶〟の流通経路に見立てたと思われる直線は、そこからヴァジム子爵領へと抜け、クヴィスト公爵領内フラーヴェク子爵領を通り、王族つまりレイフ殿下の直轄地であるブラーム領から、イデオン公爵領内アルノシュト伯爵領を経由して、最後はフォルシアン公爵領下コデルリーエ男爵領にまで伸ばされていた。
絡んでいると思われる商会の名前としては、実体の有る無しを含めてブロッカ商会、シャプル商会、チェルースト商会、フラーヴェク商会、ボードストレーム商会……と、書き出されていて、私は思わず息を呑んでしまった。
「ボードストレーム商会……」
「ああ、ちょっと今は銀相場の乱高下で大人しくなっちまっているが、元々はラヴォリ商会とあちらこちらで衝突するような強引な商売をしていたところさ。今回ラヴォリ商会が大きく動いているのも、一つにはそれがあるんだろうねぇ」
ボードストレーム商会は、むしろこちらの方が縁深い。
何せアルノシュト伯爵夫人は関係者だ。
希望的観測で、アルノシュト伯爵家は無関係であることを願っていたものの、どうやらそれは、むしろ杞憂の通りになってしまいそうだった。
全員が腰を下ろしたのを見計らって、口火を切ったのはリーリャギルド長だった。
カールフェルド商会長代理は商談中らしく、終わり次第駆けつけるとの話で、それまでに出来る話はしておこうと言うことで、話は始まった。
「既に奴さんとは多少の情報共有はしているからね。で、茶葉の話が先にあってそれを覆い隠すための詐欺話だったか……? まあそれ以上はギルドの手に余る話だから、そっちはお偉いさんに任せるとして、とりあえず茶葉の話をさせて貰うよ」
自警団のラジス副団長やイフナースから、高等法院のオノレ子爵に話が通ったと聞いたところで、リーリャギルド長は資金回収面以外での詐欺話には首をつっこまないことを決めたらしい。
商会の名義貸しの話すらも、フォルシアン公爵家とダリアン侯爵家の話し合いを待たなくてはならなくなったのだから、後回しにせざるを得なかったとも言えた。
「アズレート」
「はい」
リーリャギルド長の一声で、アズレート副ギルド長が手にしていた書面をテーブルの上へと広げた。
彼はイフナースと違いスリアンさんが呼んだワケではなく、スリアンさんの「捕獲!」の声にいち早く反応してここにやって来ていたのだ。
他の面々はどうやら既に一度それを目にしていたらしいので、その書面を前傾姿勢で覗き込んだのは私一人だった。
「……地図」
よく見ればそれは、海を挟んでバリエンダールとアンジェスとが書かれた国の地図でありそこには複数個所の丸い印があって、それぞれが直線で繋がっていた。
「さすがにこの短時間で、全部が全部〝痺れ茶〟だとまでは特定出来ていないんだがね。少なくとも、これまでアンジェス国内で見ることのなかった新種の茶葉と言う括りで回答のあった地域がコレさ」
「!」
直線がバリエンダールに向かう海の途中で止まっているのは、まだ確証のない現段階では隣国にまで調査の手を伸ばせなかったからだろう。
海の途中から発生している直線が、まずはコンティオラ公爵領内、カプート子爵領と書かれている海岸線から、それらを囲うナルディーニ侯爵領領都へと延びていた。
「ここに関しては茶葉に限った話ではなくてね。バリエンダールからの海産物の多くがこのルートを通る。海産交易路の出発地なのさ」
私の視線の先を見ながら、そう言葉を続けてくれるリーリャギルド長に「なるほど」と私は頷く。
ジェイの話もこの周辺で水揚げされると聞いていたから、さもありなんだ。
だからこそ、新しい漁場と言う話にも一応の説得力はあったんだろう。
「カプート子爵家は、ナルディーニ侯爵家が寄り親だと言っても、当代の領主は領都ブラーガの元領都商業ギルド長。子爵家に入り婿として入っているお人なのさ。基本的にお偉いさんに尻尾を振るような為人はしていないはずなんだ」
むしろ海産物関連の利益を独占することはせず、ジェイであれば子爵領産の中からブラーガ領産を切り離して高級化を図り、領都自体には個人商店から大手商会から多くの行き来を可能にし、ギルドに対しては店舗設立の許可を緩め、雇用の掘り起こしと漁獲量の調整を図って乱獲を阻止してきたのだと言う。
他の魚や貝でも似たようなことを行ってきている、と。
カプート子爵領内の各商業ギルドは、むしろ元ギルド長である子爵に頭が上がらないらしい。
だからこそ、いくら王の他にその膝は折らないと言っても、事実上の顧問扱いになっている子爵に対しては、王都商業ギルドとしても気は遣っているんだそうだ。
特に人事異動に関しては、子爵領に赴任させる人選に関して新人は遣れないと、毎回知恵を絞っているのだとリーリャギルド長は苦笑した。
「現時点でラヴォリ商会は店舗を構えているし、例えばユングベリ商会が新規参入すると言ったところで、子爵ならば喜んで許可を出すだろうさ。だがまあ、今回はその寛容さが、裏で未承認の茶葉を通しちまったんだろうねぇ……」
街が活気づいて様々な人や物資が流入をすれば、監視の目をすり抜ける人や物が出て来ることも、残念ながら枚挙に遑がない。
問題の〝痺れ茶〟の流通経路に見立てたと思われる直線は、そこからヴァジム子爵領へと抜け、クヴィスト公爵領内フラーヴェク子爵領を通り、王族つまりレイフ殿下の直轄地であるブラーム領から、イデオン公爵領内アルノシュト伯爵領を経由して、最後はフォルシアン公爵領下コデルリーエ男爵領にまで伸ばされていた。
絡んでいると思われる商会の名前としては、実体の有る無しを含めてブロッカ商会、シャプル商会、チェルースト商会、フラーヴェク商会、ボードストレーム商会……と、書き出されていて、私は思わず息を呑んでしまった。
「ボードストレーム商会……」
「ああ、ちょっと今は銀相場の乱高下で大人しくなっちまっているが、元々はラヴォリ商会とあちらこちらで衝突するような強引な商売をしていたところさ。今回ラヴォリ商会が大きく動いているのも、一つにはそれがあるんだろうねぇ」
ボードストレーム商会は、むしろこちらの方が縁深い。
何せアルノシュト伯爵夫人は関係者だ。
希望的観測で、アルノシュト伯爵家は無関係であることを願っていたものの、どうやらそれは、むしろ杞憂の通りになってしまいそうだった。
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