聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
上 下
692 / 803
第三部 宰相閣下の婚約者

701 姐さんの真骨頂(ホンキ)(前)

しおりを挟む
「さて、まあユングベリ商会長も知っての通り、ジェイの漁場詐欺の話の裏で未承認のおかしな茶葉が流通しているらしいとの話があって、商業ギルドとしても放ってはおけないと、探れるだけ探ってみたワケなんだが」

 全員が腰を下ろしたのを見計らって、口火を切ったのはリーリャギルド長だった。

 カールフェルド商会長代理は商談中らしく、終わり次第駆けつけるとの話で、それまでに出来る話はしておこうと言うことで、話は始まった。

「既にやっこさんとは多少の情報共有はしているからね。で、茶葉の話が先にあってそれを覆い隠すための詐欺話だったか……? まあそれ以上はギルドこちらの手に余る話だから、そっちはお偉いさんに任せるとして、とりあえず茶葉の話をさせて貰うよ」

 自警団のラジス副団長やイフナースから、高等法院のオノレ子爵に話が通ったと聞いたところで、リーリャギルド長は資金回収面以外での詐欺話には首をつっこまないことを決めたらしい。

 商会の名義貸しの話すらも、フォルシアン公爵家とダリアン侯爵家のを待たなくてはならなくなったのだから、後回しにせざるを得なかったとも言えた。

「アズレート」
「はい」

 リーリャギルド長の一声で、アズレート副ギルド長が手にしていた書面をテーブルの上へと広げた。

 彼はイフナースと違いスリアンさんが呼んだワケではなく、スリアンさんの「捕獲!」の声にいち早く反応してここにやって来ていたのだ。

 他の面々はどうやら既に一度それを目にしていたらしいので、その書面を前傾姿勢で覗き込んだのは私一人だった。

「……地図」

 よく見ればそれは、海を挟んでバリエンダールとアンジェスとが書かれた国の地図でありそこには複数個所の丸い印があって、それぞれが直線で繋がっていた。

「さすがにこの短時間で、全部が全部〝痺れ茶〟だとまでは特定出来ていないんだがね。少なくとも、これまでアンジェス国内で見ることのなかった新種の茶葉と言う括りで回答のあった地域がコレさ」

「!」

 直線がバリエンダールに向かう海の途中で止まっているのは、まだ確証のない現段階では隣国にまで調査の手を伸ばせなかったからだろう。

 海の途中から発生している直線が、まずはコンティオラ公爵領内、カプート子爵領と書かれている海岸線から、それらを囲うナルディーニ侯爵領領都へと延びていた。

「ここに関しては茶葉に限った話ではなくてね。バリエンダールからの海産物の多くがこのルートを通る。海産交易路の出発地なのさ」

 私の視線の先を見ながら、そう言葉を続けてくれるリーリャギルド長に「なるほど」と私は頷く。

 ジェイほたての話もこの周辺で水揚げされると聞いていたから、さもありなんだ。
 だからこそ、新しい漁場と言う話にも一応の説得力はあったんだろう。

「カプート子爵家は、ナルディーニ侯爵家が寄り親だと言っても、当代いまの領主は領都ブラーガの元領都商業ギルド長。子爵家に入り婿として入っているお人なのさ。基本的にお偉いさんに尻尾を振るような為人ひととなりはしていないはずなんだ」

 むしろ海産物関連の利益を独占することはせず、ジェイほたてであれば子爵領産の中からブラーガ領産を切り離して高級化を図り、領都自体には個人商店から大手商会から多くの行き来を可能にし、ギルドに対しては店舗設立の許可を緩め、雇用の掘り起こしと漁獲量の調整を図って乱獲を阻止してきたのだと言う。

 他の魚や貝でも似たようなことを行ってきている、と。
 カプート子爵領内の各商業ギルドは、むしろ元ギルド長である子爵に頭が上がらないらしい。

 だからこそ、いくら王の他にその膝は折らないと言っても、事実上の顧問扱いになっている子爵に対しては、王都商業ギルドとしても気は遣っているんだそうだ。
 特に人事異動に関しては、子爵領に赴任させる人選に関して新人はれないと、毎回知恵を絞っているのだとリーリャギルド長は苦笑した。

「現時点でラヴォリ商会は店舗を構えているし、例えばユングベリ商会が新規参入すると言ったところで、子爵カレならば喜んで許可を出すだろうさ。だがまあ、今回はその寛容さが、裏で未承認の茶葉を通しちまったんだろうねぇ……」

 街が活気づいて様々な人や物資が流入をすれば、監視の目をすり抜ける人や物が出て来ることも、残念ながら枚挙にいとまがない。

 問題の〝痺れ茶〟の流通経路に見立てたと思われる直線は、そこからヴァジム子爵領へと抜け、クヴィスト公爵領内フラーヴェク子爵領を通り、王族つまりレイフ殿下の直轄地であるブラーム領から、イデオン公爵領内アルノシュト伯爵領を経由して、最後はフォルシアン公爵領下コデルリーエ男爵領にまで伸ばされていた。

 絡んでいると思われる商会の名前としては、実体の有る無しを含めてブロッカ商会、シャプル商会、チェルースト商会、フラーヴェク商会、ボードストレーム商会……と、書き出されていて、私は思わず息を呑んでしまった。

「ボードストレーム商会……」

「ああ、ちょっと今は銀相場の乱高下で大人しくなっちまっているが、元々はラヴォリ商会とあちらこちらで衝突するような強引な商売をしていたところさ。今回ラヴォリ商会が大きく動いているのも、一つにはそれがあるんだろうねぇ」

 ボードストレーム商会は、むしろこちらの方が縁深い。
 何せアルノシュト伯爵夫人は関係者だ。

 希望的観測で、アルノシュト伯爵家は無関係であることを願っていたものの、どうやらそれは、むしろ杞憂の通りになってしまいそうだった。
しおりを挟む
685 忘れじの膝枕 とも連動! 
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!

2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!

そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra 

今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
感想 1,407

あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。