聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

657 ヒミツの地下牢

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 ブロッカ商会かシャプル商会か。
 とにかく今回の詐欺に関わっていた商会の関係者の内、まずはコンティオラ公爵邸に来ていた連中が捕まったと言う。

「じゃあ〝ブルクハウセン〟の宿に向かった方は、どうなったか分かる?」

 確認します、とルヴェックは言い、それを待つ傍らで私はヒース君の方へと向き直った。

「この邸宅おやしきって、地下でも地上でも良いんですけど、牢はあります?」

「え?」

 最初こそ面食らっていたヒース君だけど、門の外にいた集団が捕まったと聞いて、ハッと目を見開いた。

 イデオン公爵邸には、絶対に見せて貰えないけど、それらしき牢があるらしいことは〝鷹の眼〟やセルヴァンの会話の端々から分かっている。ただ、それが他の公爵邸でも標準装備だとは限らないのだ。

 フォルシアン公爵邸に関しても、お世話になり始めたばかりで、まだそこまでのことは聞けていない。

 ここ何年も学園にいるヒース君も、まだそう言ったの説明を父親なり家令なりからは受けていなかったのか「イレネオ」と、コンティオラ家の家令へと向き直っていた。

「……ええ。ご案内は出来かねますが、ございます」

 問われた初老の家令は、静かにそう答える。
 どうやらどこの家でも「牢」に関しては秘匿案件らしい。

「ああ、大丈夫。見せてくれとかは、言わないので。ただ、表で捕まえた詐欺集団を、王宮に連絡して対応方の指示が来るまで放り込んでおいて貰えないかと思って」

 私の話にヒース君は納得したように頷き、家令イレネオも「そう言うことでしたら……」と首肯していた。

「あと、その中から邸宅やしき内で詐欺を働いた主犯格の男と、外で待機していた連中を束ねていた男……とりあえず、その二人がいれば話は聞けるかな?こっちに引っ張って来て貰えるかな」

「え、この部屋でですか?」

 ざっと部屋の中を見て、自分で自分の身を守れそうにない人間が多々いることは分かるのだろう。

 ヒース君は困ったように眉をひそめていた。

「大丈夫、大丈夫。イデオン家の護衛の皆も優秀だし、外の捕り物に加わっていたコンティオラ公爵家の護衛も何人か戻せば、今更暴れられないでしょ」

 マリセラ嬢からお金を巻き上げた男は恐らく商会の人間で腕力自慢ではない筈だし、ラジス副団長やキーロもいる時点で、既に過剰戦力だ。

内通していた護衛ウリッセからも話は聞かなきゃだし、ただ王宮からの指示を待っているだけじゃ、ラジス副団長やキーロに立ち会って貰っている意味も半減だし、ここは今から取り調べをさせて貰わないと」

 半ばヒース君に向けて言った言葉ながら、ラジス副団長とキーロも「それはそうだ」と言わんばかりの表情を見せていた。

「まあ、最終的に王宮に引き渡すにしろ、話は聞いておかないとギルドとしても恰好がつかん。ここまで引っ掻き回されて『政治案件』で片付けられるのはゴメンだしな。多分ギルド長も許可しないだろうよ」

「ワタシ、多分、王宮で説明させられる可能性たかい。ソゾンのなまえ、あるから。たぶん、ひきわたしもワタシ。なら、説明、今、聞く」

 王都警備隊は、王宮護衛騎士たちとの繋がりがあり、捕らえた人間の立場如何で王宮内の牢や高等法院が管理する判決待ちの特別室とやらに連行をしたりしているらしい。

 特別室。どんな部屋か、機会があったらお義兄様ユセフに聞いてみよう。

 それはともかくとして、キーロは領主でも直系でもないものの、現時点で貴族籍はあるため、王宮への出入りに関しては最低限の手続きで済む。

 警備隊長も恐らくは引き渡しを自分に命じる筈だと言ったのだ。
 カタコトな部分は恐らくトーカレヴァが補うだろうから――と。

「え、レヴはキーロの言葉出来るんだ?」
「レヴは潜入、とくい。ことば、複数できる」

 そう言えば最初はエッカランタ伯爵の縁者に化けてもいたし、そもそもギーレンに付いて来ていたことから言っても、ギーレン語は堪能だった。

 伊達に特殊部隊には所属していなかったと言うことだろう。

「お義兄様も、ここである程度話を聞く形で良いですか?」

 それまでのやりとりにほとんど口を挟んでこなかったお義兄様ユセフは「構わない」と、静かに答えた。

「詐欺の余波の大きさを令嬢に自覚して貰うと言う話なら、ここで事情聴取をするのが一番だろうしな」

「……っ」

 どうやら私やヒース君からので表情も身体も強張らせているマリセラ嬢に、お義兄様ユセフは1ミリも心を動かされていないらしい。

「コンティオラ公爵令息も、話をするなら事情聴取をしながらにしたらどうだ?その方が理解も早いと思うが」

「…………なるほど。そうかも知れませんね」

 ヒース君は納得したと言わんばかりの表情になったけど、いや、捕まえた詐欺師を連れて来て、騙される方が悪いと言わんばかりの手口話を聞かせる方が、実は結構ヒドいのではと思いつつ――そうは言ってもお義兄様ユセフの意見も至極真っ当ではあるため、私も反対の言葉は言えなかった。

「レイナ様」

 そこへ〝ブルクハウセン〟組と連絡が取れたらしいルヴェックが、再びこちらへと近づいてきた。

「向こうも無事片付いたようですよ?さっきまでの話を聞いて、こっちに連れて来るように頼みましたけど、構いませんよね?」

「あ、そうだね。まとめて放り込んでおく方が良いものね。助かる」

 私とルヴェックとの話にヒース君とお義兄様ユセフが怪訝そうな表情を見せたので、とりあえず中心街の宿〝ブルクハウセン〟で待機していたらしい仲間も捕らえたと、私は報告した。

「あとはセルマの街ですけど……多分そっちも大丈夫だと思います」

 どう考えても、ベルセリウス将軍が行っている時点でそっちも過剰戦力だろうから。


 ――そこへ、扉が軽くノックされた音が耳に入って来た。

「お嬢さん、ご希望のホンモノの護衛、連れてきましたよ」

 そう言ったコトヴァの声と共に……見知らぬ一人の男が、扉の向こうから姿を現した。
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