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第三部 宰相閣下の婚約者
646 繊細な魔道具
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どうやら私が「霊媒師的会話」とずっと思っていたのは〝鷹の眼〟の間では「念話」と呼ばれているらしい。
ゲームや小説の世界だと超能力的な話になるところが、この世界ではブローチ型の魔道具が、持っている者同士の頭の中だけでの会話を可能にしているとの話だった。
なるほどグザヴィエの胸元には、それまで気にしたこともなかったけれど、小さなブローチが胸元に飾られていた。
そんな魔道具があるなら誰でも使えるんじゃないかと思った私の表情を読んだのか、グザヴィエが「耐久性と言葉が届く距離が、本人の魔力量に左右される」と教えてくれた。
何でも注ぐ魔力が多すぎると壊れ、少なすぎると隣の人間にも言葉は届かないらしい。
その魔道具に合う魔力量の人間だけが使用可能なんだそうだ。
えらく繊細な魔道具だ……と言うか、エドヴァルドが使えない理由も、それで納得がいった。
まだまだ改良中の魔道具ではあるらしい。
「エドヴァルド様は多すぎで、フィトは少なすぎる――と」
「つっても、繊細なのは魔道具であってグザヴィエやゲルトナーじゃないからな」
そう言ってニヤリと笑うフィトに、ちょっと親近感は湧いた。
そうこうしている間に、どうやら回線が繋がったらしく、グザヴィエがゲルトナーを通す形で、エドヴァルドがフォルシアン公爵邸を出てからの話をかいつまんで説明していた。
ナルディーニ侯爵の弟夫人の話を伝えたあたりで、どうやら何かしらの反応があったらしい。
グザヴィエが冷や汗か脂汗かをかいているような気がしてきた。
「……『投資詐欺だけなら、最悪ブロッカ商会長と夫人を平民に落として、一般市民間の揉め事として、陛下には事後報告だけで済ます策もあったんだが』……と、お館様は宰相室で頭を抱えているらしい」
「……わぁ」
確かに、銀よりホタテより〝痺れ茶〟の方がタチが悪い。
ほとんどまだ流通していなかったとは言え、早晩、禁止薬物扱いになったであろう品物だ。
しかも、自国どころか海を隔てた向こう側の国にまで影響を及ぼしていて、それがベッカリーア公爵家絡みとなれば、メダルド国王あるいはミラン王太子への連絡は必須。
国王陛下を無視するわけにはいかない。
領主交代で済めば良いが、下手をすれば取り潰しによる領の解体も視野に入れなくてはならない。
更にダリアン侯爵家による、コデルリーエ男爵領の監督不行き届きを問われた場合には、イル義父様も無傷で済まない可能性がある上に、コンティオラ公爵に至っては、三つある侯爵家の内、二つが犯罪に関わっている。
フィルバートの意思として、五公爵家そのものを潰すつもりがないとは言え、コンティオラ公爵は、今のままであればエドヴァルドの「謹慎」よりも重い処罰を下さざるを得ない。
クヴィスト公爵とは違い、コンティオラ公爵を「残す」方向に舵を切るのならば、エドヴァルドの処分を「謹慎」よりも軽くして、コンティオラ公爵こそを「謹慎」とする可能性があるのだ。
そして多分、本人も分かっている。
……怖くて言えないけど。
「お嬢さん、お館様が『コンティオラ公爵邸に入って、詐欺現場を押さえる予定は変わらないのか』……と。計画そのものより、お嬢さんが付いて行くのを心配していらっしゃる、とゲルトナーが」
「ああ、うん。エドヴァルド様に『ラヴォリ商会の商会長代理から託されてますから』って、伝えて貰えるかな」
これからのことを考えれば、ラヴォリ商会から信用を得ておくのは大事なことの筈だ。
伝えた後で、グザヴィエがもの凄く顔を顰めているのは、私は気が付かないフリをしておいた。
……宰相室、冷房が効いてるくらいで済んでいれば良いけど。
「それと……『ベルセリウス派遣の件は理解した。王都の外、セルマの件の戦力に数えるのが一番だろう』と言うことらしい。早速ファルコに連絡しても?」
ゲルトナーからの話を聞きながら、グザヴィエが言う。
そんな両立が出来るのなら、私としてはもう、首を縦に振るしかない。
ちなみに言い訳としては「コンティオラ公爵領防衛軍関係者がたまたま宿に滞在していると聞いて、挨拶に向かう途中だった」と言う話にするらしい。
マトヴェイ卿に言って、適当に誰か事後承諾で名前だけ借りておけば良い――と。
「……『セルマで「誰」を捕まえたかによっては、王宮に連れて来て貰わねばならない場合もある。皆なるべく生け捕りの方向で』だそうだ」
「そのままファルコに伝えてくれる?」
「分かった」
「ええっと、それから……『貴女はせめて前に出るな。証言者として留まるだけにしてくれ』――と」
「分かりました、と伝えてくれる?」
軽いなー、とフィトが呟いたのは無視だ、無視。
基本的に口を出すつもりはありません!
多分ヒース君が途中でキレないように様子見するので、いっぱいいっぱいになりそうな気がするもの。
「……『カタが付いたら、陛下に王宮に呼ばれる可能性がある。あまり寛がずに待っていて欲しい』とも」
「なるほど」
バリエンダールに連絡を入れる前に、事情聴取。
当然と言えば、当然だ。
多分そこから、自分がどこに噛めそうかを探すんだろう。
相手を王宮に呼びつけるのか、あるいはその陣地に飛び込むのか。
「……『くれぐれも、くれぐれも、貴女は無茶をしないで欲しい。陛下が乗り込むような隙を作らないでくれ』……と」
この後の行く先はコンティオラ公爵邸。
王族であるフィルバートが乗り込んだとしてもおかしくない家柄であり、こちら側は断れる立場にない。
と言うか、隙なのか。そうか。
――重々承知しています、としか返すことが出来なかった。
ゲームや小説の世界だと超能力的な話になるところが、この世界ではブローチ型の魔道具が、持っている者同士の頭の中だけでの会話を可能にしているとの話だった。
なるほどグザヴィエの胸元には、それまで気にしたこともなかったけれど、小さなブローチが胸元に飾られていた。
そんな魔道具があるなら誰でも使えるんじゃないかと思った私の表情を読んだのか、グザヴィエが「耐久性と言葉が届く距離が、本人の魔力量に左右される」と教えてくれた。
何でも注ぐ魔力が多すぎると壊れ、少なすぎると隣の人間にも言葉は届かないらしい。
その魔道具に合う魔力量の人間だけが使用可能なんだそうだ。
えらく繊細な魔道具だ……と言うか、エドヴァルドが使えない理由も、それで納得がいった。
まだまだ改良中の魔道具ではあるらしい。
「エドヴァルド様は多すぎで、フィトは少なすぎる――と」
「つっても、繊細なのは魔道具であってグザヴィエやゲルトナーじゃないからな」
そう言ってニヤリと笑うフィトに、ちょっと親近感は湧いた。
そうこうしている間に、どうやら回線が繋がったらしく、グザヴィエがゲルトナーを通す形で、エドヴァルドがフォルシアン公爵邸を出てからの話をかいつまんで説明していた。
ナルディーニ侯爵の弟夫人の話を伝えたあたりで、どうやら何かしらの反応があったらしい。
グザヴィエが冷や汗か脂汗かをかいているような気がしてきた。
「……『投資詐欺だけなら、最悪ブロッカ商会長と夫人を平民に落として、一般市民間の揉め事として、陛下には事後報告だけで済ます策もあったんだが』……と、お館様は宰相室で頭を抱えているらしい」
「……わぁ」
確かに、銀よりホタテより〝痺れ茶〟の方がタチが悪い。
ほとんどまだ流通していなかったとは言え、早晩、禁止薬物扱いになったであろう品物だ。
しかも、自国どころか海を隔てた向こう側の国にまで影響を及ぼしていて、それがベッカリーア公爵家絡みとなれば、メダルド国王あるいはミラン王太子への連絡は必須。
国王陛下を無視するわけにはいかない。
領主交代で済めば良いが、下手をすれば取り潰しによる領の解体も視野に入れなくてはならない。
更にダリアン侯爵家による、コデルリーエ男爵領の監督不行き届きを問われた場合には、イル義父様も無傷で済まない可能性がある上に、コンティオラ公爵に至っては、三つある侯爵家の内、二つが犯罪に関わっている。
フィルバートの意思として、五公爵家そのものを潰すつもりがないとは言え、コンティオラ公爵は、今のままであればエドヴァルドの「謹慎」よりも重い処罰を下さざるを得ない。
クヴィスト公爵とは違い、コンティオラ公爵を「残す」方向に舵を切るのならば、エドヴァルドの処分を「謹慎」よりも軽くして、コンティオラ公爵こそを「謹慎」とする可能性があるのだ。
そして多分、本人も分かっている。
……怖くて言えないけど。
「お嬢さん、お館様が『コンティオラ公爵邸に入って、詐欺現場を押さえる予定は変わらないのか』……と。計画そのものより、お嬢さんが付いて行くのを心配していらっしゃる、とゲルトナーが」
「ああ、うん。エドヴァルド様に『ラヴォリ商会の商会長代理から託されてますから』って、伝えて貰えるかな」
これからのことを考えれば、ラヴォリ商会から信用を得ておくのは大事なことの筈だ。
伝えた後で、グザヴィエがもの凄く顔を顰めているのは、私は気が付かないフリをしておいた。
……宰相室、冷房が効いてるくらいで済んでいれば良いけど。
「それと……『ベルセリウス派遣の件は理解した。王都の外、セルマの件の戦力に数えるのが一番だろう』と言うことらしい。早速ファルコに連絡しても?」
ゲルトナーからの話を聞きながら、グザヴィエが言う。
そんな両立が出来るのなら、私としてはもう、首を縦に振るしかない。
ちなみに言い訳としては「コンティオラ公爵領防衛軍関係者がたまたま宿に滞在していると聞いて、挨拶に向かう途中だった」と言う話にするらしい。
マトヴェイ卿に言って、適当に誰か事後承諾で名前だけ借りておけば良い――と。
「……『セルマで「誰」を捕まえたかによっては、王宮に連れて来て貰わねばならない場合もある。皆なるべく生け捕りの方向で』だそうだ」
「そのままファルコに伝えてくれる?」
「分かった」
「ええっと、それから……『貴女はせめて前に出るな。証言者として留まるだけにしてくれ』――と」
「分かりました、と伝えてくれる?」
軽いなー、とフィトが呟いたのは無視だ、無視。
基本的に口を出すつもりはありません!
多分ヒース君が途中でキレないように様子見するので、いっぱいいっぱいになりそうな気がするもの。
「……『カタが付いたら、陛下に王宮に呼ばれる可能性がある。あまり寛がずに待っていて欲しい』とも」
「なるほど」
バリエンダールに連絡を入れる前に、事情聴取。
当然と言えば、当然だ。
多分そこから、自分がどこに噛めそうかを探すんだろう。
相手を王宮に呼びつけるのか、あるいはその陣地に飛び込むのか。
「……『くれぐれも、くれぐれも、貴女は無茶をしないで欲しい。陛下が乗り込むような隙を作らないでくれ』……と」
この後の行く先はコンティオラ公爵邸。
王族であるフィルバートが乗り込んだとしてもおかしくない家柄であり、こちら側は断れる立場にない。
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