聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

639 明かされる内部(前)

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「お嬢さん、あらかた状況が分かってきたぞ」

 まさかリファちゃんに気を遣ってくれたとは思わないけど、ファルコはどこからともなく、音もたてず食堂ダイニングに現れた。

「さっすが皆、仕事早いねー」

 私は素で答えただけだ。
 すぐ近くにいたキーロも頷いているから、お世辞でも冗談でもない事は分かった筈だ。

「でも、とりあえず人数揃ってからで良い?多分、そろそろ皆ここに戻って来るだろうし」

 そう言いながら、私はリファちゃんが眠るハンカチをそっと持ち上げて、部屋の隅にある飾り棚の上に置いた。

 起こすまで、気にしないで寝ていて良いからね?とも小声で囁く。

 多分無意識でもリファちゃんは理解しているだろう。
 そう言うものだと思うことにしている。

 飾り棚の前で「可愛いー」と呟いていたら、ファルコにごほごほと咳払いをされた。
 脱線するなとでも言いたそうだ。

 キーロはキーロで、自分の言語で『そりゃぁ、レヴも預ける筈だ』と微笑わらっている。

 そんなコトをしている間に、まずラジス副団長が「マジで起きてたんか」と呟きながら戻って来て、そのすぐ後にお義兄様ユセフとエリィ義母様が中に入って来た。

 どうやら入口手前のところでばったりと会った結果のようだった。

「やっぱり、いらしたんですね」

 私がそうエリィ義母様に言えば「当たり前でしょう?」と、にこやかな返しを受けてしまった。

「コンティオラ公爵夫人も、色々ありすぎて、お休みいただくのに少し時間がかかってしまったけど……ね」

「いえ。それでも……有難うございました、エリィ義母様。事故の後遺症がないか確認するにも、一度は休んで頂いた方が良いので……」

「そうね。明日、事態が落ち着いたところで我が家のお抱え医師にも来ていただきましょう。それでレイナちゃん、我が家の護衛の長ゼイルスがどうやら外から戻って来たみたいなんだけど、ここに来させた方が良いかしら?なければ、コンティオラ公爵邸にする手筈を整えたいみたいなんだけど」

 チラ、とお義兄様ユセフを見ながら言うからには、もしかしたら本来はお義兄様ユセフが言わんとしていたことなのかも知れない。

 私がそう思いながら二人を見比べると、エリィ義母様はそれを肯定せんばかりの溜息を零した。

「どうやって話しかけたら良いのか、なんて今更思春期の少年のようなコトを葛藤している時間はないのよ、ユセフ」

「なっ」

「とりあえず、今回の件がひと段落したら、一度家族で食事の席につきなさい。ユティラが帰って来てもその態度のままじゃ、示しがつかなくてよ」

 ぴしゃりと言い切ったエリィ義母様は、それでどうするのか、と再度こちらを向いた。

「あ、えーっと……そっちのファルコが、コンティオラ公爵邸に入ったイデオン家の護衛から、今の邸宅おやしきの中の情報を聞いてきたみたいなので、一緒に話を聞いて貰った方が良いんじゃないかと……」

 もう……?と思わず言葉が零れ落ちていたのはお義兄様ユセフで、エリィ義母様は軽く目を瞠っただけだったけど、やっぱり驚いていることには変わりなかった。

「……ゼイルス」

 お義兄様ユセフが、どこを見るでもなくそう声を出すと、入口の扉が静かに開いて、顔の右半分が髪で覆われた、臙脂えんじ色の髪の青年が姿を現した。

 昔に受けた刀傷を、なるべく衆目に晒さないようにしていると言っていた、フォルシアン公爵家の護衛の長――ゼイルスだ。

 ここにいる護衛、自警団、王都警備隊諸々の中では一番若く見えている。

 ただ、実際の年齢は知らないものの、何と言っても主がフォルシアン公爵なので、見た目よりは上だったりしないか……などと密かに思っている。

 閑話休題それはさておき

 情報のすり合わせをしない?と、聞く私に一瞬だけ考える仕種を見せたものの「……確かに、大事だ」と、納得したみたいに頷いて、その場に留まった。

「じゃあ、どうしよう……まずはファルコから、いこうか」

 セルマの街についてや王都内で仲間がいるらしい宿に関しては、あくまで副産物であり、メインはあくまでもコンティオラ公爵邸だ。

 ファルコもここは何も混ぜ返さず、軽く頷いて了解の意を示した。

「とりあえず、入れ替わりは成功した。今、この時点でコンティオラ家の護衛ウリッセを名乗っているのはウチのハジェスだ」

 更にマリセラ嬢とデリツィア夫人には、特別に「朝まで深く眠れるお香」を焚いて貰うように侍女長を誘導したらしい。

 コンティオラ公爵夫人が、出がけに「ぜひ使ってみて欲しいと言っていた」と言うていで渡したようだ。

「……大丈夫なの、それ?」
「時間調整はナシオがちゃんとやってたから大丈夫だろ」
「……あ、そう」

 ナシオは、イザクがギーレンにいる間は、イデオン邸の薬を扱う責任者だ。
 今ここで「すみません」と断りを入れるべきコンティオラ公爵夫人は別室で休んでいるため、ここはどうしたって受け入れるしかない。

 私は諦めてファルコに続きを促した。

「二人が眠ったところで、コンティオラ家の坊ちゃんも交えてウリッセに事情を確認した。――結論から言えば、妹を人質に取られて脅されていたのは、間違いなかった」

 皆がそれぞれ目を瞠っているところに、ファルコが更に続ける。

「それとソイツ曰く、弟夫人の方もダンナのことで何か弱みは握られているようだと言っていたな。物理的な拘束をすればさすがに犯罪として上層部うえが動くから、何か別の方向から圧力をかけているようだ、と」

「じゃあ、そのウリッセの妹さんって言うのも身体的拘束はないってコトなのかな」

 確かに脅しの方法は、何も攫って閉じ込めておくことだけじゃない。
 ファルコも「推測だけどな」と賛意を示した。

「少なくともソイツはそう言う認識でいると思うぞ」

「――いや」

 そこで、あくまでコンティオラ邸の内部からの情報を伝えいたファルコに、待ったをかけた人物がいた。

「多分、その妹とやらは……セルマの街の宿で拘束されている」


 それは、強行軍でセルマの街まで往復をしてきたという――ゼイルスだった。






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