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第二部 宰相閣下の謹慎事情
445 まさかのサンプル完成
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「これはこれは、国王陛下。ご無沙汰しております」
王都商業ギルド長として、膝を折る唯一の人物――国王陛下に対して、ナザリオギルド長はまず、胸に手を当てて一礼していた。
「うむ。其方の活躍は複数の者から聞き及んでおるが、顔を合わせる事自体は久しぶりだったかも知れんな。息災そうで何よりだ」
「それは僕が言うべきコトですよ、陛下。昨今また、頭痛の種も増えたようですし?」
国王陛下にウインクしてどうするんだろうと思ったけど、天才ギルド長の考える事なんて、所詮誰も推し量れない。
メダルド国王も困った様に微笑っただけだった。
「それで、其方何を届けに来たのだ?」
「ああ、海産物と、ユングベリ商会が今後北方遊牧民たちと取引したい品物のサンプル?ジーノにも言いましたけど、海産物は今日持って帰れないでしょうし、いったん王宮の厨房で買い上げて貰えます?サンプルは、ちょうど良いから今、持って行けば良いと思って、職人ギルドにもちょっと協力して貰いましたよ。それでもし、今回の揉め事が上手く収まったら、王宮案件で請求書回して良いですよね?」
「……うん?」
怒涛の勢いで話すナザリオギルド長に、メダルド国王が面食らっている間に、テーブルの上に音を立てて、中身の詰まった革袋が置かれた。
置いたのは、シレアンさんだ。
何か遠い目になっているのは、ナザリオギルド長の破天荒ぶりに、何も言えなくなっているからかな。
淡々と袋の綴じ紐を解いて、中身を出してくれたけど、その瞬間に、今度は私の目が点になった。
「――ええっ⁉」
チェーリアさんのお店に置いてきたバスソルトに、何かが入っているらしい細長い木箱、極めつけは民族衣装を着た15cmくらいの人形が出てきたからだ。
思わず声を上げた私に、ナザリオギルド長が悪戯っ子の様な笑みを閃かせた。
「その入浴剤だっけ?それはユングベリ商会長が市場で働くハタラ族の女性にプレゼントしたヤツをちょっと借りたよ。あとその木箱は〝イユノヴァ・シルバーギャラリー〟からの借りモノ。中にアクセサリー入ってる。イラクシ族も協力するって言う良い証明になるだろうから」
「に、人形は……」
「ああ、それはね、髪とか帽子とか衣装とかはそのハタラ族の女性に、布と糸と融通して貰って、職人ギルドにあった木製の人形を拝借して、そのままギルドで縫って着せて貰ったんだ。要はイメージが掴めれば良いワケだし、職人ギルドなら初見の人形だったとしても情報は洩れないしね。まあ、木製にするか身体も縫製するかは、要相談にすれば良いだろう?」
カワイイかどうかはこの際目を瞑ってくれる?などと、ナザリオギルド長はあっけらかんと笑っているけど、こちらとしてはその行動力の凄まじさに、言葉が出ない。
「あ、何でそこまで…とか思ってる?それは簡単。時勢の読めないバカでなければ、各民族の族長とて、この話に喰いつくよ。僕としては、より少数民族の立場が上向いて、僕やシレアンが狙われる可能性を少なくしたいワケだから、見返りはあると思ってやっているんだよ」
元々の特産品であるカラハティ製品に関しては、各民族ごとにいくつか自薦して貰うと良いと、ナザリオギルド長は言った。
それはいくらでも彼らの手元にあるだろうから、と言う事らしい。
「すまぬな。ベッカリーア公爵家と〝ソラータ〟の件が上手く片付けば、狙われる事もほぼなくなるとは思うのだが」
狙われる、との言葉に反応したメダルド国王が、頭は下げない代わりに言葉と声で謝罪の意を示した。
普通なら恐縮をするところ、ナザリオギルド長はどこまでもマイペースだった。
「さすがに今回は何とかして下さいよ、陛下?もはや国際問題待ったなしでしょう」
「そうだな。其方も今回は大きく動いてくれている事だしな」
「一応僕は、国際問題が勃発した時の為に王都に残りますよ。北部地域にはこのシレアンをギルド長代理として行かせます」
万一、アンジェスから誰か抗議に来た時には、ナザリオギルド長が直々に、ユングベリ商会の立ち位置と意図は説明してくれると言う事らしい。
……大丈夫だろうか。
何だか、このギルド長を残して出発するのが、物凄く不安だ。
シレアンさんが、諦めろと言わんばかりに首を振っているのが、尚更に。
「――ナザリオっ!」
そして珍しく慌てた様子でジーノ青年が部屋に駆け込んで来たところからして、自分の到着に際して、何か妙な伝言を預けたに違いなかった。
「…っ、失礼いたしました、陛下、王太子殿下」
「ああ、いや、気持ちは分かるから構わんよ」
メダルド国王も、気を遣っているのではなく、本音だと言う風に見えた。
「本当に見本を用意してきたのか……」
そしてジーノ青年の目は、机の上にある人形やバスソルトに釘付けになった。
ああ…ねえ、さすがに人形は驚くよね…。
「ジーノ、僕は誰かな?」
「王都商業ギルドの本気を垣間見た……」
「うん、分かってくれれば良いよ。僕がここまでお膳立てしたんだからさ、ちゃんと交渉して、契約は成立させてきて欲しいね。それと、シレアンにケガはさせないように。何しろ次のギルド長なんだからさ」
「分かっている。なるべく、イラクシ族の当該者たちへの経済封鎖のみで音を上げさせたいと思っているんだ。武力行使には出ないつもりだ」
「長引くと商業ギルドにも影響が出かねないから、そのあたりは匙加減間違えないでくれよ?念押ししておくよ」
「……最善は尽くす」
そう言ったジーノ青年は、改めてメダルド国王に頭を下げた。
「危急時と言えど、蟄居中の身を北部に遣わせて下さる事、感謝の念に堪えません。ユレルミ族の血を持つ者として、此度の件必ずや収束させてまいります」
「うむ。私に言えた義理ではないのかも知れぬが、頼んだぞ。王宮内、宰相には手出しはさせぬ。そう言った脅し文句が出ても、揺らぐ必要はないと断言しておこう」
「――宜しくお願い致します」
頭を上げたジーノ青年は、そこでぐるりとこちらを見回した。
「皆さま方には〝転移扉〟の準備が整いましたので、その連絡に参りました。部屋の移動をお願いして宜しいでしょうか?」
「…承知した」
アンジェス組を代表する形でマトヴェイ外交部長が一言答えて、立ち上がる。
ジーノ青年が、じっとこちらを見ていた気がしたけど、マトヴェイ外交部長がさりげなくエスコートを申し出る形で軽く肘を曲げてくれたので、さっとそれに便乗させて貰う事にした。
ナザリオギルド長持参の革袋に関しては、いったん中身ごとお借りする形で、バルトリに持って貰った。
「では、ご案内します」
この場の全員が、その言葉に従う様に歩き始めた。
王都商業ギルド長として、膝を折る唯一の人物――国王陛下に対して、ナザリオギルド長はまず、胸に手を当てて一礼していた。
「うむ。其方の活躍は複数の者から聞き及んでおるが、顔を合わせる事自体は久しぶりだったかも知れんな。息災そうで何よりだ」
「それは僕が言うべきコトですよ、陛下。昨今また、頭痛の種も増えたようですし?」
国王陛下にウインクしてどうするんだろうと思ったけど、天才ギルド長の考える事なんて、所詮誰も推し量れない。
メダルド国王も困った様に微笑っただけだった。
「それで、其方何を届けに来たのだ?」
「ああ、海産物と、ユングベリ商会が今後北方遊牧民たちと取引したい品物のサンプル?ジーノにも言いましたけど、海産物は今日持って帰れないでしょうし、いったん王宮の厨房で買い上げて貰えます?サンプルは、ちょうど良いから今、持って行けば良いと思って、職人ギルドにもちょっと協力して貰いましたよ。それでもし、今回の揉め事が上手く収まったら、王宮案件で請求書回して良いですよね?」
「……うん?」
怒涛の勢いで話すナザリオギルド長に、メダルド国王が面食らっている間に、テーブルの上に音を立てて、中身の詰まった革袋が置かれた。
置いたのは、シレアンさんだ。
何か遠い目になっているのは、ナザリオギルド長の破天荒ぶりに、何も言えなくなっているからかな。
淡々と袋の綴じ紐を解いて、中身を出してくれたけど、その瞬間に、今度は私の目が点になった。
「――ええっ⁉」
チェーリアさんのお店に置いてきたバスソルトに、何かが入っているらしい細長い木箱、極めつけは民族衣装を着た15cmくらいの人形が出てきたからだ。
思わず声を上げた私に、ナザリオギルド長が悪戯っ子の様な笑みを閃かせた。
「その入浴剤だっけ?それはユングベリ商会長が市場で働くハタラ族の女性にプレゼントしたヤツをちょっと借りたよ。あとその木箱は〝イユノヴァ・シルバーギャラリー〟からの借りモノ。中にアクセサリー入ってる。イラクシ族も協力するって言う良い証明になるだろうから」
「に、人形は……」
「ああ、それはね、髪とか帽子とか衣装とかはそのハタラ族の女性に、布と糸と融通して貰って、職人ギルドにあった木製の人形を拝借して、そのままギルドで縫って着せて貰ったんだ。要はイメージが掴めれば良いワケだし、職人ギルドなら初見の人形だったとしても情報は洩れないしね。まあ、木製にするか身体も縫製するかは、要相談にすれば良いだろう?」
カワイイかどうかはこの際目を瞑ってくれる?などと、ナザリオギルド長はあっけらかんと笑っているけど、こちらとしてはその行動力の凄まじさに、言葉が出ない。
「あ、何でそこまで…とか思ってる?それは簡単。時勢の読めないバカでなければ、各民族の族長とて、この話に喰いつくよ。僕としては、より少数民族の立場が上向いて、僕やシレアンが狙われる可能性を少なくしたいワケだから、見返りはあると思ってやっているんだよ」
元々の特産品であるカラハティ製品に関しては、各民族ごとにいくつか自薦して貰うと良いと、ナザリオギルド長は言った。
それはいくらでも彼らの手元にあるだろうから、と言う事らしい。
「すまぬな。ベッカリーア公爵家と〝ソラータ〟の件が上手く片付けば、狙われる事もほぼなくなるとは思うのだが」
狙われる、との言葉に反応したメダルド国王が、頭は下げない代わりに言葉と声で謝罪の意を示した。
普通なら恐縮をするところ、ナザリオギルド長はどこまでもマイペースだった。
「さすがに今回は何とかして下さいよ、陛下?もはや国際問題待ったなしでしょう」
「そうだな。其方も今回は大きく動いてくれている事だしな」
「一応僕は、国際問題が勃発した時の為に王都に残りますよ。北部地域にはこのシレアンをギルド長代理として行かせます」
万一、アンジェスから誰か抗議に来た時には、ナザリオギルド長が直々に、ユングベリ商会の立ち位置と意図は説明してくれると言う事らしい。
……大丈夫だろうか。
何だか、このギルド長を残して出発するのが、物凄く不安だ。
シレアンさんが、諦めろと言わんばかりに首を振っているのが、尚更に。
「――ナザリオっ!」
そして珍しく慌てた様子でジーノ青年が部屋に駆け込んで来たところからして、自分の到着に際して、何か妙な伝言を預けたに違いなかった。
「…っ、失礼いたしました、陛下、王太子殿下」
「ああ、いや、気持ちは分かるから構わんよ」
メダルド国王も、気を遣っているのではなく、本音だと言う風に見えた。
「本当に見本を用意してきたのか……」
そしてジーノ青年の目は、机の上にある人形やバスソルトに釘付けになった。
ああ…ねえ、さすがに人形は驚くよね…。
「ジーノ、僕は誰かな?」
「王都商業ギルドの本気を垣間見た……」
「うん、分かってくれれば良いよ。僕がここまでお膳立てしたんだからさ、ちゃんと交渉して、契約は成立させてきて欲しいね。それと、シレアンにケガはさせないように。何しろ次のギルド長なんだからさ」
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「うむ。私に言えた義理ではないのかも知れぬが、頼んだぞ。王宮内、宰相には手出しはさせぬ。そう言った脅し文句が出ても、揺らぐ必要はないと断言しておこう」
「――宜しくお願い致します」
頭を上げたジーノ青年は、そこでぐるりとこちらを見回した。
「皆さま方には〝転移扉〟の準備が整いましたので、その連絡に参りました。部屋の移動をお願いして宜しいでしょうか?」
「…承知した」
アンジェス組を代表する形でマトヴェイ外交部長が一言答えて、立ち上がる。
ジーノ青年が、じっとこちらを見ていた気がしたけど、マトヴェイ外交部長がさりげなくエスコートを申し出る形で軽く肘を曲げてくれたので、さっとそれに便乗させて貰う事にした。
ナザリオギルド長持参の革袋に関しては、いったん中身ごとお借りする形で、バルトリに持って貰った。
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