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第二部 宰相閣下の謹慎事情
【宰相Side】エドヴァルドの疑念
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結局、王宮管理部からは腕輪型の魔道具を渡された。
私自身が、自分の意志で内包する魔力をコントロール出来る訳ではないため、先に魔力をその腕輪に逃がす事が出来ず、内側から魔力が溢れ出るような事態が起きた時に、その腕輪が溢れた魔力を吸収すると言う形にしたらしい。
灯りを点ける際に魔力を自動吸収する仕組みの応用だと、管理部の術者は言っていた。
実験の結果、四六時中魔力を吸い上げていると、腕輪が早々に壊れるか本人が倒れるか…と言う事になりかねないとの話になり、普段はただの腕輪、魔力が溢れそうになったら吸収――と言う形で試してみようとの話になった。
とは言え、いつ溢れるか分からず「怒ってみて下さい」と言われても困る。
多分レイナ絡みでしか、魔力が溢れるほど、どうこう言う事態にならない気がするが、わざわざそれを管理部に告げる気もない。
その為、試作品の試用と言う形で、今は無理矢理腕輪を付けさせられている状態だった。
壊れた時点で、また持って来いとの事らしい。
それで原因を探って、許容量を見極めていく――と言う事は、今回で管理部に行く必要がなくなった訳でもなく、地味にイラッとさせられる話ではあった。
「旦那様、王都商業ギルドから〝ドーイェンの庭〟宛に、本日も手紙が届いております」
言外に「レイナ様からでは?」と言う意味も含みながら、朝食後すぐのところで、セルヴァンに手紙を差し出された。
「………は?」
ざっと目を通して――その内容に、絶句する。
「茶会で薬を盛られた?」
「「⁉」」
どうやら声に出ていたらしく、セルヴァンやヨンナが近くでギョッとしている。
「旦那様……」
「ああ、いや、レイナが狙われた訳ではない。同席していた王女が標的だったらしい。らしいが、しかし――」
イザクやナシオが調合改良した万能解毒薬が今回は功を奏したようだが、まかり間違えば、レイナやテオドル大公とて、その薬を口にする可能性があった。
宰相とは政略結婚で不仲だったらしい側室夫人と、その息子の仕業とは言え、王都に住まう宰相家関係者全員が一時的に拘束されているのは、さもありなんと言うべきだろう。
(正室夫人は30年程前から、王都から離れた島で暮らしている…か)
レイナが、敢えて自らの感情や意見を排して、事実のみを記した報告書を送ってきたのは、恐らくはこれが原因か。
間違いなく意図的に名は伏せられているが、正室夫人の名は――年の離れた実の異母姉、キアラだ。
離縁すら仄めかせて、夫であるフォサーティ宰相の元から離れたのは、恐らくは実父アロルド・オーグレーンの暴挙に理由の全てがあると言って良い筈だ。
オーグレーン家の血を「繋ぐに値しない血」だと、判断をしたに違いなかった。
彼女の実母であるカリタ妃は、ギーレン王妃の座を密かに狙っていたと聞く。
彼女の実父も実母も、身の丈以上の事を堂々と行っており、それを考えると、先祖返りでもしたのかと言いたくなる、冷静で的確な状況判断を下している様に思えた。
私の継承権放棄宣誓書面に「二度と関わらないよう」念を押しながらも、密かに署名をしてくれた程なのだから、少なくとも側室夫人よりは、宰相家夫人としての能力も心構えもしっかりと持っているに違いなかった。
「………王宮へ行って来る」
宰相家の正室夫人の話や、ラヴォリ商会の商会長と会う件に関しては、敢えて報告はせずとも問題ないだろうが、この茶会の件は、国王陛下に報告しない訳にはいかない。
私は、またしても朝から王の執務室に乗り込む形になっていた。
「…この前の夕食会は別にして、ここしばらくアンジェスではそんな物騒な茶会の話は聞いていないな。やれ、平和になったものだな」
感心するところは、そこじゃないだろう!と、声を荒げたくなる様な事を、不穏な笑みと共にフィルバートは呟き…と言うか、愚痴っている様に聞こえた。
むしろ「つまらん」と言う内心の声が表情にダダ洩れていた。
「要は愚かな公爵家が、宰相家の乗っ取りと、北部地域の利権の独占を狙って、阿呆な事をしでかしたと言う事で良いんだな?」
その上、身も蓋もない事を言っているが、恐らくは事態はその通りだろうと、私も頷いた。
「どうやら先代国王に優遇されていた時代の旨味が忘れられないらしい。当代国王が、先代とは真逆の政策を推し進めていると言う事を、どうしても受け入れられないんだろう」
「ふん…で、例の『自称・王弟』の件は?」
「報告書に詳しく書かれていなかった。が、だからこそ逆に、書けない話が何か埋もれている可能性が高い」
ユングベリ商会の販路をもって、自治領化を受け入れる方向に舵を切ろうとしている――と言う事は、第三王子はもちろんの事、あのビリエルを御輿に担ぐ事も諦めたと言う事だ。
仮に本当に王弟だったとしても、公には出来ない何かがそこにあると、認めているも同然だった。
「普通なら、裏ばかり読むのも大概にしておけと言うところだが、おまえと姉君との会話となるとなぁ……あながち否定も出来んな」
くつくつと低く笑うフィルバートに、私は呆れた視線を向ける。
だが確かに、レイナがこの手紙に書いていない事が、他にもある気はしていた。
何故と問われたところで、経験からくる勘としか言い様はないのだが。
「…私と彼女をどうこう言う前に、素直に自分もその展開を期待していると言った方が良いんじゃないのか」
「だから、否定はしないと言っているだろう?まあ、ギーレンは単に欲深い国王の所為で対立していただけだが、バリエンダールとも遺恨がなかった訳ではないからな。両王家共に、多少なりと過去を呑み込めるのであれば、それも悪い話ではないだろうよ」
遺恨。
私やフィルバートは、まだ今のミカ・ハルヴァラくらいの年齢で、当時何が出来た訳でもなかったが、先々代と先代の国王が、あまり褒められた為人でなかった事くらいは把握している。
過去の王家の愚行を清算してしまいたいのは、何もバリエンダール王家に限った話ではないのだ。
「今回の話が上手くまとまって、現地が落ち着いたなら、トーレン大叔父上の代わりに、向こうに花でも手向けに行って来るか?場所ならテオドル大公がよく分かっているだろうし、ほぼ接点のなかった私がどうこうするよりも、よほど良いだろうしな」
「―――」
「何だ、その激しく意外そうな表情は。鉄壁宰相の名が泣くぞ」
「…いや。どの口がそんな情緒的な提案を、と」
死者に花を手向ける。
そんな発想がこの国王にあったとは。
私の表情からそこまでを読んだのか「あ?」と、フィルバートの眉間に皺が寄った。
「おまえ、私を何だと――と言いたいところだが、まあ、アンジェス国は北方遊牧民族に対しても敬意をもって接する事が出来ると、姉君の動きに合わせて喧伝したい側面があるのも否定はしない。恐らく大叔父上と北方の姫の『悲恋』は、向こうのある程度上の世代には知られているだろうからな」
「……接点がなかったと言う割には、知っていたのか」
「本人に会わずとも、王宮内で生活をしていれば、自然と耳に入ってくる話もある。中には聞くに堪えない下衆な話もあったが、繋ぎ合わせればある程度の想像はつくしな」
縁談を壊したのは、バリエンダール側だ。
代替わりをしても、アンジェス側が姫の故郷を気にかけていると分かれば、世論は確実にアンジェスの側に傾く。
レイナが噂一つでギーレン王家の評判を落として退けたように、フィルバートは噂と言うよりもむしろ事実一つで、アンジェス王家の評判を、バリエンダールより上に置こうとしているのかも知れなかった。
「今更掘り起こすな、と思うか?」
そう言って、チラリとこちらの様子を窺うフィルバートに、私は緩々と首を横に振った。
「確かにその策は有効だろうな。次に向こうから自治領化承諾の使者が来る時に、話を持ちかけてみても良いかも知れない」
「そうだろう。おまえこそ、公務で姉君と国外に出られるかも知れないと、素直に私に感謝したらどうだ?寛大な国王だろう?一生仕えたくなるだろう?」
「………条件は何だ」
素直に感謝出来ないのは、我が身を振り返れ…と言ったところで、フィルバートは大して堪えた風もなく肩をすくめていた。
「人聞きが悪いな。まあ、敢えて言うならおまえがいずれバリエンダールに墓参りと称して行けば、それこそ友好の為と称してミルテ王女を私へ…との話が出るかも知れない。その時は全力をあげて却下してこい。血塗れだの鬼畜だのと言われる分にはまったく気にしないが、幼女好きの変態と言われるのはさすがに許容しかねる」
一瞬、私はフィルバートが何を言っているのか把握しそこねてしまったが、意外に本人は大真面目だった。
今更、結婚相手もその年齢も、どうでも良いと思っている様に見えていたが。
「王女は別に幼女と言う程では――」
さすがに自分の半分の年齢までいってしまうと、思うところは出て来るのだろうか。
そこじゃない、とフィルバート本人からはツッコまれてしまったが。
「私は可能性の話をしている。今回の事がなければ、私みたいに評判の悪い男にどうのと言う話も出ないだろうがな。自治領化の話で手を組むにあたって、両国の友好を手っ取り早くアピール出来るのが婚姻話だろう。国王や王太子は口にしないかも知れないが、周囲に言い出す連中の一人や二人は出て来るだろうよ」
「それは……」
「婚約をアピールしなければ、真っ先におまえが槍玉に上がる話でもあるぞ、宰相。冷徹だろうが何だろうが、私よりはマシな評判の筈だからな。王女は聖女の為にもギーレンに嫁いで貰うのだろう?ならば、何とかしろ。出来ないと言うならバリエンダール行きの話は却下だな。せいぜい王宮で仕事に励め」
どこの暴君だ!と思わず叫んだ私に、フィルバートは明らかに揶揄いの表情で口の端を歪めていた。
「出来ない事をやれとは言っていないぞ、宰相。むしろ私からの婚約祝いくらいに思えば良いだろう」
「……っ」
「ま、いずれにせよ話は皆が戻って来てからだな」
――微妙に腕輪が熱を帯びたのは気のせいだっただろうか。
私自身が、自分の意志で内包する魔力をコントロール出来る訳ではないため、先に魔力をその腕輪に逃がす事が出来ず、内側から魔力が溢れ出るような事態が起きた時に、その腕輪が溢れた魔力を吸収すると言う形にしたらしい。
灯りを点ける際に魔力を自動吸収する仕組みの応用だと、管理部の術者は言っていた。
実験の結果、四六時中魔力を吸い上げていると、腕輪が早々に壊れるか本人が倒れるか…と言う事になりかねないとの話になり、普段はただの腕輪、魔力が溢れそうになったら吸収――と言う形で試してみようとの話になった。
とは言え、いつ溢れるか分からず「怒ってみて下さい」と言われても困る。
多分レイナ絡みでしか、魔力が溢れるほど、どうこう言う事態にならない気がするが、わざわざそれを管理部に告げる気もない。
その為、試作品の試用と言う形で、今は無理矢理腕輪を付けさせられている状態だった。
壊れた時点で、また持って来いとの事らしい。
それで原因を探って、許容量を見極めていく――と言う事は、今回で管理部に行く必要がなくなった訳でもなく、地味にイラッとさせられる話ではあった。
「旦那様、王都商業ギルドから〝ドーイェンの庭〟宛に、本日も手紙が届いております」
言外に「レイナ様からでは?」と言う意味も含みながら、朝食後すぐのところで、セルヴァンに手紙を差し出された。
「………は?」
ざっと目を通して――その内容に、絶句する。
「茶会で薬を盛られた?」
「「⁉」」
どうやら声に出ていたらしく、セルヴァンやヨンナが近くでギョッとしている。
「旦那様……」
「ああ、いや、レイナが狙われた訳ではない。同席していた王女が標的だったらしい。らしいが、しかし――」
イザクやナシオが調合改良した万能解毒薬が今回は功を奏したようだが、まかり間違えば、レイナやテオドル大公とて、その薬を口にする可能性があった。
宰相とは政略結婚で不仲だったらしい側室夫人と、その息子の仕業とは言え、王都に住まう宰相家関係者全員が一時的に拘束されているのは、さもありなんと言うべきだろう。
(正室夫人は30年程前から、王都から離れた島で暮らしている…か)
レイナが、敢えて自らの感情や意見を排して、事実のみを記した報告書を送ってきたのは、恐らくはこれが原因か。
間違いなく意図的に名は伏せられているが、正室夫人の名は――年の離れた実の異母姉、キアラだ。
離縁すら仄めかせて、夫であるフォサーティ宰相の元から離れたのは、恐らくは実父アロルド・オーグレーンの暴挙に理由の全てがあると言って良い筈だ。
オーグレーン家の血を「繋ぐに値しない血」だと、判断をしたに違いなかった。
彼女の実母であるカリタ妃は、ギーレン王妃の座を密かに狙っていたと聞く。
彼女の実父も実母も、身の丈以上の事を堂々と行っており、それを考えると、先祖返りでもしたのかと言いたくなる、冷静で的確な状況判断を下している様に思えた。
私の継承権放棄宣誓書面に「二度と関わらないよう」念を押しながらも、密かに署名をしてくれた程なのだから、少なくとも側室夫人よりは、宰相家夫人としての能力も心構えもしっかりと持っているに違いなかった。
「………王宮へ行って来る」
宰相家の正室夫人の話や、ラヴォリ商会の商会長と会う件に関しては、敢えて報告はせずとも問題ないだろうが、この茶会の件は、国王陛下に報告しない訳にはいかない。
私は、またしても朝から王の執務室に乗り込む形になっていた。
「…この前の夕食会は別にして、ここしばらくアンジェスではそんな物騒な茶会の話は聞いていないな。やれ、平和になったものだな」
感心するところは、そこじゃないだろう!と、声を荒げたくなる様な事を、不穏な笑みと共にフィルバートは呟き…と言うか、愚痴っている様に聞こえた。
むしろ「つまらん」と言う内心の声が表情にダダ洩れていた。
「要は愚かな公爵家が、宰相家の乗っ取りと、北部地域の利権の独占を狙って、阿呆な事をしでかしたと言う事で良いんだな?」
その上、身も蓋もない事を言っているが、恐らくは事態はその通りだろうと、私も頷いた。
「どうやら先代国王に優遇されていた時代の旨味が忘れられないらしい。当代国王が、先代とは真逆の政策を推し進めていると言う事を、どうしても受け入れられないんだろう」
「ふん…で、例の『自称・王弟』の件は?」
「報告書に詳しく書かれていなかった。が、だからこそ逆に、書けない話が何か埋もれている可能性が高い」
ユングベリ商会の販路をもって、自治領化を受け入れる方向に舵を切ろうとしている――と言う事は、第三王子はもちろんの事、あのビリエルを御輿に担ぐ事も諦めたと言う事だ。
仮に本当に王弟だったとしても、公には出来ない何かがそこにあると、認めているも同然だった。
「普通なら、裏ばかり読むのも大概にしておけと言うところだが、おまえと姉君との会話となるとなぁ……あながち否定も出来んな」
くつくつと低く笑うフィルバートに、私は呆れた視線を向ける。
だが確かに、レイナがこの手紙に書いていない事が、他にもある気はしていた。
何故と問われたところで、経験からくる勘としか言い様はないのだが。
「…私と彼女をどうこう言う前に、素直に自分もその展開を期待していると言った方が良いんじゃないのか」
「だから、否定はしないと言っているだろう?まあ、ギーレンは単に欲深い国王の所為で対立していただけだが、バリエンダールとも遺恨がなかった訳ではないからな。両王家共に、多少なりと過去を呑み込めるのであれば、それも悪い話ではないだろうよ」
遺恨。
私やフィルバートは、まだ今のミカ・ハルヴァラくらいの年齢で、当時何が出来た訳でもなかったが、先々代と先代の国王が、あまり褒められた為人でなかった事くらいは把握している。
過去の王家の愚行を清算してしまいたいのは、何もバリエンダール王家に限った話ではないのだ。
「今回の話が上手くまとまって、現地が落ち着いたなら、トーレン大叔父上の代わりに、向こうに花でも手向けに行って来るか?場所ならテオドル大公がよく分かっているだろうし、ほぼ接点のなかった私がどうこうするよりも、よほど良いだろうしな」
「―――」
「何だ、その激しく意外そうな表情は。鉄壁宰相の名が泣くぞ」
「…いや。どの口がそんな情緒的な提案を、と」
死者に花を手向ける。
そんな発想がこの国王にあったとは。
私の表情からそこまでを読んだのか「あ?」と、フィルバートの眉間に皺が寄った。
「おまえ、私を何だと――と言いたいところだが、まあ、アンジェス国は北方遊牧民族に対しても敬意をもって接する事が出来ると、姉君の動きに合わせて喧伝したい側面があるのも否定はしない。恐らく大叔父上と北方の姫の『悲恋』は、向こうのある程度上の世代には知られているだろうからな」
「……接点がなかったと言う割には、知っていたのか」
「本人に会わずとも、王宮内で生活をしていれば、自然と耳に入ってくる話もある。中には聞くに堪えない下衆な話もあったが、繋ぎ合わせればある程度の想像はつくしな」
縁談を壊したのは、バリエンダール側だ。
代替わりをしても、アンジェス側が姫の故郷を気にかけていると分かれば、世論は確実にアンジェスの側に傾く。
レイナが噂一つでギーレン王家の評判を落として退けたように、フィルバートは噂と言うよりもむしろ事実一つで、アンジェス王家の評判を、バリエンダールより上に置こうとしているのかも知れなかった。
「今更掘り起こすな、と思うか?」
そう言って、チラリとこちらの様子を窺うフィルバートに、私は緩々と首を横に振った。
「確かにその策は有効だろうな。次に向こうから自治領化承諾の使者が来る時に、話を持ちかけてみても良いかも知れない」
「そうだろう。おまえこそ、公務で姉君と国外に出られるかも知れないと、素直に私に感謝したらどうだ?寛大な国王だろう?一生仕えたくなるだろう?」
「………条件は何だ」
素直に感謝出来ないのは、我が身を振り返れ…と言ったところで、フィルバートは大して堪えた風もなく肩をすくめていた。
「人聞きが悪いな。まあ、敢えて言うならおまえがいずれバリエンダールに墓参りと称して行けば、それこそ友好の為と称してミルテ王女を私へ…との話が出るかも知れない。その時は全力をあげて却下してこい。血塗れだの鬼畜だのと言われる分にはまったく気にしないが、幼女好きの変態と言われるのはさすがに許容しかねる」
一瞬、私はフィルバートが何を言っているのか把握しそこねてしまったが、意外に本人は大真面目だった。
今更、結婚相手もその年齢も、どうでも良いと思っている様に見えていたが。
「王女は別に幼女と言う程では――」
さすがに自分の半分の年齢までいってしまうと、思うところは出て来るのだろうか。
そこじゃない、とフィルバート本人からはツッコまれてしまったが。
「私は可能性の話をしている。今回の事がなければ、私みたいに評判の悪い男にどうのと言う話も出ないだろうがな。自治領化の話で手を組むにあたって、両国の友好を手っ取り早くアピール出来るのが婚姻話だろう。国王や王太子は口にしないかも知れないが、周囲に言い出す連中の一人や二人は出て来るだろうよ」
「それは……」
「婚約をアピールしなければ、真っ先におまえが槍玉に上がる話でもあるぞ、宰相。冷徹だろうが何だろうが、私よりはマシな評判の筈だからな。王女は聖女の為にもギーレンに嫁いで貰うのだろう?ならば、何とかしろ。出来ないと言うならバリエンダール行きの話は却下だな。せいぜい王宮で仕事に励め」
どこの暴君だ!と思わず叫んだ私に、フィルバートは明らかに揶揄いの表情で口の端を歪めていた。
「出来ない事をやれとは言っていないぞ、宰相。むしろ私からの婚約祝いくらいに思えば良いだろう」
「……っ」
「ま、いずれにせよ話は皆が戻って来てからだな」
――微妙に腕輪が熱を帯びたのは気のせいだっただろうか。
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