聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

426 そう言う事は早く言おう

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『な…んってモノを預かって来てるんですか――っ‼』

 小声の叫びって器用だな、と私は驚く前に逆に感心してしまった。

 バンッと、バルトリがブローチの置かれたテーブルを思い切り叩いていて、私よりも双子シーグリックがビックリしていた。

『これは部族の、次の部族長だと言う証のブローチですよ!族長には族長の別のブローチがありますけど、その族長が後継者を定めた際に渡す物で、手にする事を許されているのは、当人以外にはその配偶者か更なる後継者だと言われているようなシロモノなんですよ!』

『えーっと…バルトリは、持ってない…?』

『俺はただのネーミ族の端くれ、それもアンジェスに逃げ延びた身です!模様は違いますが、それでもその伝統は、ネーミにもありますからね…って、そう言う事じゃないんですよ!』

『いやっ、うん、何かありそうだとは思ったから、最初は受け取らないでおこうかと思ったんだけどね?』

 ウルリック副長も真っ青の迫力に、私は慌てて両手をブンブンと横に振った。

『なら、何でここにあるんです』

『ミラン王太子が「余計な意味は持たせないから、これを使って早急に諸々開拓してこい」って』

『王太子殿下が?』

『そう。多分、お茶会で側室夫人と息子グイドが馬鹿な事をして、宰相家そのものの存続が危ぶまれている以上、今すぐにでも北部地域との取引にメドをつけて、その功績を持って、当事者二人以外は処罰の対象から外したいんだと思うのよ』

『なるほど…だから余計な意味は持たせない、と。それにしても、よくその意図に気付きましたね』

 は鈍そうなのに――は、余計なお世話よバルトリ。

『……ウルリック副長が「さすがに自分が獲物になってるのは分かったでしょう」なんて言うから』

 とは言え、取り繕っても誰も信じなそうなので、ブツブツと事実を呟けば、三人には物凄く残念な子を見る目をされた。

『だから、とりあえずコレはバルトリが持っててよ。明日物件の見学先や商品取引の話が出来そうな人と会うのに、必要だったらバルトリの方からコレをチラ見させて牽制して貰えば良いかと思って。ラヴォリ商会の商会長と会うのには要らないだろうから、その間はバルトリがベッカリーア公爵家周辺を探るのに必要なら使えば良いし』

『まあ……そう言う事でしたら』

 渋々と言った態で封筒ごとブローチを片付けるバルトリに『その公爵家の話だったら――』と、リックの方が不意に口を開いた。

『何か、先々代の国王のオトシダネ?って言う、30代の男とか女とか、金使ってアレコレ探してたみたいだぜ?何でも近々高位貴族のから、そこに送り込む良い理由になる…とかって。こっちもさ、そんなトコロから後日ウチギーレンに縁談ねじこまれても困るワケだし?明日もうちょっと追いかけてみようかと思ってたんだけどな』

『『‼』』

 リックーっ!と、今度は私が小声の叫び声をあげて、リックの両肩を揺さぶってしまった。

『そう言う事は、もっと早く言って!場の空気読んで!』

『んだよっ!そもそも、こっちは縁談の下調べに来てるんであって、んなもん、そっちの欲しい情報とどう絡んでるとか分かんねぇだろう⁉』

 そうか。
 ベッカリーア公爵家が考えていた事にはいくつかの段階があった訳だ。

・ミルテ王女をグイド・フォサーティに降嫁させて、フォサーティ宰相家を事実上乗っ取る。

・お茶会にしくじった場合は、現宰相家の面々を全員追放した上で、先々代の国王陛下の血を引いて、ベッカリーア公爵家が後ろ楯となれる男女を複数名寄せ集めて、新たな宰相家を興させる。

 あるいは王女の降嫁案は、グイド・フォサーティの器を見て、端から諦めていた可能性もある。
 むしろ積極的に宰相家全員の追放を狙っているかも知れない。

 私は人差し指でグリグリとこめかみを揉み解した。

『……分かった、じゃあ双子は、片方は明日はこっちに来なくて良いから、そっちに集中して?もう片方は、一応ユングベリ商会のギーレン支部職員として立ち会って貰わないと困るから、バルトリに午後から合流させる。出来れば、そのオトシダネを買収するなり恐喝するなりしている現場を押さえるか、証拠が集められれば一番理想的なんだけど』

『現場、ですか?』

『宰相家の処分が決まるまで、あんまり時間がないだろうから、何ならバルトリがそのオトシダネに化けて証拠を掴んでくれても良いよ?双子じゃちょっと年齢的に難しいだろうから』

『……しれっと無茶ぶりしましたね』

『何なら、軍の三人衆の誰かも連れて行く?さすがに将軍と副長とマトヴェイ卿は難しいと思うし』

『いや、そもそもその三人はこちらが「使う」のには恐れ多すぎですよ!まあ確かに、防衛軍の中から一人貸して頂けるなら助かりますけどね』

『うん。いざと言う時の証言者として、実家爵位持ちの発言力は大きいと思うしね』

 同じ実家爵位持ちなら、トーカレヴァやノーイェルもそうだが、何かあった時の口止めは、王宮護衛騎士よりイデオン公爵領防衛軍士官の方がしやすい。

『多分〝ソラータ〟を挑発して動かすのが一番容易そうだけどね。そうしたら〝ダーチャ〟の面々は自分たちの主の為に自主的に協力しそうだし、そのあたりはバルトリに任せるよ。防衛軍から一人出す件に関しては、明日の朝食時に将軍と副長に相談するから、続きは商業ギルドで――かな』

『確認ですけど、お茶会での愚行を唆したのが誰かと言う事を調べれば良いんですね?そのとがで宰相家を潰す事が目的だったと証明出来れば理想的――と』

『まあ、もちろんバリエンダール王宮側からも調査の人間は出ているだろうから、現場でぶつからないとなると、オトシダネとしての囮かなと思うのよね。双子も、これが上手くいけば、それこそおかしな縁談が国に持ち込まれる事を未然に防げる訳だから、協力は必然だよね?』

 ね?と念押しするように首を傾げれば、双子シーグリックは明らかに表情を痙攣ひきつらせて「う…」とか「え…」とか、口をパクパクさせていた。

『ここまでの一連の様子を見ていても、みんなが窮地に陥るような凄腕の雇われ者はいないと思うんだけど、まあ、確実とは言い切れないから、身の危険を感じたら、一度退いて報告してくれる?その時は王太子なり宰相様なりに掛け合ってみるから』

 お茶会程度の計略しか立てられないのであれば、まあ大丈夫だろうとは思うけど。

『……分かりました。確かに、お茶会程度と言われれば、そうかも知れませんしね』

 さも、仕方がないとばかりにバルトリはため息をついているけれど、多分、同じ少数民族の血を持つ者同士、ジーノ青年やチェーリアさんをわざわざ危険な立ち位置に晒したくはない筈だ。

 細かい事は言わず任せておけば、恐らくはベッカリーア公爵家の企みを、ある程度は潰してくるような気がしていた。

『『縁談の為……』』

 ――うん、双子シーグリックの方は念押ししなくて大丈夫だね。
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