聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
上 下
359 / 803
第二部 宰相閣下の謹慎事情

407 王女様のお茶会(2)

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 白く塗られたガーデンテーブルに、色とりどりのお菓子や軽食が載せてあるのは、いかにも年若い王女の心尽くし――と言った感じだった。

 今までに見たドーム型の天井を持つガゼボとは違って、長方形の天井を4本の柱で支えてある、大きなガゼボも後ろにあって、布地で覆われた上から、季節の花を散らばせたり挿したりしてある。
 ただそっちには今は何も置かれていないので、もしかしたら悪天候だった場合の事を考えて、飾りつけだけが為されているのかも知れなかった。

「テオお祖父様!」

 高音、だけど澄んだ可愛らしい声。
 卑屈や拗れを知らない、純な少女の声。

 そして、そんな声を裏切らない美少女。

(うん、頭の両方にリボンを付けて似合うのは、王女様の年齢くらいまでだよねー……)

 ツインテールとは違う。
 ふわふわの、肘の辺りまで伸びる長い髪を生かして、少し掬い取ってリボンで巻いているだけだ。

 ミルテ・バリエンダール王女は、静止画スチル通りの超絶美少女でした。ハイ。

 テオドル大公を見て、喜色満面と言った表情を浮かべたものの、今日はお茶会!と、ハッと思い出したらしく、その場で慌てて〝カーテシー〟の姿勢をとった。

 ここまでの美少女だったら、そのくらいはきっと周囲の皆が受け入れるような気もした。
 実際「お祖父様」と呼ばれたテオドル大公の相好も、ちょっと崩れている。

「今日はわたくしのお茶会にようこそお越し下さいました。本日はゆっくり楽しんで下さいませ」

「うむ。其方も大きくなったな!ミラン殿下からは、今日が初めての主催と聞いておる。この年寄り程度、いくらでも練習台にすると良い。次はユリアとまた来ようぞ」

「はい!ユリアお祖母様の〝ルーネベリタルト〟には及ばないかも知れませんけれど、今、バリエンダールで人気のお菓子なんかも取り寄せましたの。お祖父様には少し甘いかも知れませんけど、そこはお祖母様の為にぜひ味わって頂きたいです!」

 そんな風に顔を輝かせていたミルテ王女の視線が、ふと私の方を捉えた。

「テオお祖父様、こちらのかたが……?」

「書記官が女性と言うのは、上層部にまでは届いておらんかったようだ。謁見の際に知ったミラン殿下が、急遽儂と一緒に参加してはどうかとな。驚かせて済まなかったな」

 テオドル大公の言葉に合わせて、私もなるべく低い姿勢の〝カーテシー〟をとった。
 何と言っても相手は王女様。私の方から何が言える筈もない。

「ああ、何やら妙な噂が流れておったようだが、この其方そなたの兄の相手に連れて来た訳ではないからな。そんな事をすれば、国に戻ってから儂が婚約者の公爵に殺されるわ」

 そしてどうやら、さっきの話を聞いたテオドル大公は、早いうちに噂の火消しを試みてくれたようだ。
 事実、この場のあちらこちらで「まあ…」と言った囁きも聞こえて来る。

「遠路はるばる、ようこそお越し下さいました、レイナ・ユングベリ嬢。わたくしがバリエンダール王国第一王女ミルテです。聞けば商会も経営されていて、多くの国の言葉を話されて、現地にも行かれておいでとか。兄のミランが、良い刺激になるだろうと言っておりましたものですから、楽しみにしておりましたの。後でお話、お聞かせ下さいませね?」

「勿体ないお言葉です、王女殿下。既にご準備も整われていたであろうところ、急なご参加をお認め下さった点、深謝申し上げます。本日は宜しくお願い致します」

 一連のやり取りから考える限りは、静止画スチル通りの見た目はさておき、まるで病弱と言う感じがしない。

 これが〝蘇芳戦記〟の元の設定からずれてしまったからか、それとも過去は病弱でも今は克服したとか、そう言う設定なのか――会ったばかりの今は、とてもまだ判断がつかなかった。

 その後、テオドル大公と一緒に、ミルテ王女から紹介されたところによると、その他、ミラン王太子の婚約者であるフランカ・ハールマン侯爵令嬢とその母親、バリエンダールの当代〝扉の守護者ゲートキーパー〟だと言うマリーカ・ノヴェッラ女伯爵、王女の親友だと言うオリエッタ・ロサーナ公爵令嬢が、今日の参加者と言う事だった。

 バリエンダールの当代〝扉の守護者ゲートキーパー〟は女性、すなわち「聖女」サマらしい。
 女傑風でもゴスロリ風でも年齢不詳に目立つ女性ひとでもないけれど、嫌味のない、清楚な雰囲気の女性だった。

 イリナ・ハルヴァラ伯爵夫人がもう少し年齢を重ねたら、こんな風になるかも…そんな感じだ。

 年齢としてはフランカ嬢の母、ハールマン侯爵夫人と同世代に見える感じだなと思っていたら、こちらはどうやら、今回のお茶会には欠席、テオドル大公曰く長い間社交の表舞台からは遠ざかっている、ベネデッタ正妃と幼馴染の関係にあるとの事だった。

 本来はオルミ地方にあるガラス工房の職人の娘さんだったそうだけど、ガラス作りの為の魔道具の使い方を覚えるにあたって、内包する魔力が桁違いである事が発覚し、当代〝扉の守護者ゲートキーパー〟になる事が決定した時点で、一代限りの、領地を持たない女伯爵としての地位が与えられたんだそうだ。

 後継者のいなくなった爵位が論功行賞の対象になると言う、バリエンダールのシステムに添った結果だろう。

 当初は両親も一緒に王都へ…との話だったらしいが、両親はそれを固辞、オルミでガラスを作り続ける事を選んで、今はもう二人とも没しているとの事だった。
 一人娘のいなくなった工房に跡取りはおらず、今は別の工房から独立した職人が、その場所を全て引き継いでいると言う。

 まだご両親が健在、あるいは後継者がいたなら、一度話をしてみても良かったけれど、そこは残念ながら諦めざるを得なかった。

 現時点で、このお茶会に出席する男性がテオドル大公だけと言うのも、普段からの交流ぶりが伺えて凄いと思うけど、恐らくは国王や王太子が後から顔を出す事が見込まれているんだろう。

「ええと…きょうはまず、王宮の晩餐会などでも振る舞われている紅茶を淹れさせて頂きます。バリエンダールと言えばコーヒーと思われがちですけれど、昨今、他国に倣って紅茶にも力を入れ始めております。王都から少し西にあるサビーノと言う街にある工房で丹念にブレンドされた、華やかなお花と天然フルーツの甘い香りで、独特の味わいが楽しめる紅茶ですの。ぜひ味わってみて下さいませ」

 ギリギリまで、きっと一生懸命暗記していたんだろう。
 親友だと言うオリエッタ・ロサーナ公爵令嬢含め、周囲の皆が、手に汗握ると表現しても過言じゃない空気を醸し出しながら、ハラハラとそれを見守っていた。

 この様子だと、少なくともこの中にはお茶会テンプレ、飲み物をぶちまけるような意地悪令嬢、夫人はいないのかも知れない。

 私自身、仲良くなる前のシャルリーヌ相手にガゼボでお茶会を開いたっきりなので、王女様の緊張は良く分かる。

 この時は、私もまだ呑気に王女様の口上と、紅茶の支度を見守っていた。





*******************************

2021年、最後の更新です。
年明け2日頃には「カクヨム」様に追いつきますので、それ以降は
1日1話更新となる予定です。

第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞もいただき、充実した1年となりました。

完結およびもう1つの愛称発表(笑)に向けて頑張りますので、来年も
引き続きどうぞ宜しくお願い致します!!
しおりを挟む
685 忘れじの膝枕 とも連動! 
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!

2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!

そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra 

今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
感想 1,407

あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。 「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」 遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。 こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。 その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

お前のせいで不幸になったと姉が乗り込んできました、ご自分から彼を奪っておいて何なの?

coco
恋愛
お前のせいで不幸になった、責任取りなさいと、姉が押しかけてきました。 ご自分から彼を奪っておいて、一体何なの─?

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。