聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

391 妹>兄

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「失礼致します」

 バリエンダールの王宮侍女に、部屋の灯りは消さないようにとお願いをして、下がって貰った筈が、それほどの間を置かずして、扉が再びコンコンとノックされた。

「――にございます、お嬢様」

「⁉」

 さっきのバルトリもそうだったけど、バリエンダール王宮、警備は大丈夫なのか。

「ご指示頂いておりました品物が手に入りましたので、お持ち致しました」

 品物と言うのは、明日の散策衣装だろうか。
 
 眉を顰めはしたものの、声は間違いなく〝シーグ〟のソレだ。

「……イオタ、外に回れる?」
「はい⁉」

 一応、ここは1階じゃない。
 すぐに扉を開ける愚は犯したくないので、どう言う反応をするかと思って何気なく聞いてみたら、素で声が裏返っていた。

「ここ、アンジェスでもギーレンでもありませんけど、不法侵入者扱いされたらちゃんと責任とって下さるんですよね?」

 反発しない。
 無理とも言わない。
 そう返せるからには、誰かに脅されて立っているって事もなさそうだ。

 いやぁ、お兄ちゃんより遥かに成長したねシーグ。

「冗談、冗談、今開けるから」

 そう言って私はようやく、シーグを部屋の中へと招き入れた。

「って言うか、そもそもイオタこそ既に不法侵入じゃないの。しれっと王宮侍女のフリなんかして。さっき来たバルトリもそうだったけど、どうやって王宮に入ってきているの?」

 ちょっとした私のイヤミにも、シーグは動じた風ではなかった。

「そのバルトリさんに、認識疎外の魔道具を貸して貰ったんですが」

 そして投げたイヤミの球を想定外の方向に打ち返された私が固まった。

「え…認識疎外の魔道具って、透明人間にもなれるの……?」

「その『とうめいにんげん』なるものが私にはよく分かりませんが、それを持っていると、他の人からは存在が見えなくなるんだそうで。景色を変えるだけならギーレンやサレステーデにもありますが、人となるとアンジェス王宮管理部の門外不出の設計になるそうで。今回の為に特別に、バルトリさんには複数個融通されているらしいですよ」

 殿下の所に持ち帰れないのが残念です、と真顔で語るシーグ。

 リファちゃんが付けている魔道具もそうだけど、既存の品をドンドンと改良してのける、突き抜けたオタクっぷりがもはや怖いよ、王宮管理部。

「……バルトリには「さん」付なの、イオタ?」

 不意に気付いた疑問を口にしてみれば、シーグ自身も無自覚だったのか「ああ…」と、軽く目を見開いていた。

「衣装のせいなのか、独特の雰囲気があると言うか、呼び捨てにしづらいと言うか……」

「まあ、確かに分からなくはないけどね。それで今、バルトリは?」

「多分まだ、この衣装を貸してくれたと言う人と話をしてるんじゃないかと。なのでリックと今、手分けして衣装を各部屋に届けてました」

 私の部屋が最後、と言う事でシーグが手にしていた服をソファの背もたれに広げて見せてくれた。

「うわぁ……」

 赤と青がメインカラーになっていて、青いプリーツがたっぷり入ったワンピースは女性用と言う事だろう。
 襟元、袖口、裾は赤を基調とした刺繍が丁寧に施されていた。

 バルトリからの又聞きと言う事でシーグが説明してくれたところによると、民族ごとにメインカラーや刺繍の模様が違ったり、模様なしで単一色の袖口だったりする事もあるそう。

 そして耳当て付の刺繍入り帽子とショールに関しては、公的な場、正式な会がある時などに羽織るのだそうで、ショールに関してはフリンジ部分が普通のショールよりも割合が多く、目立つ形になっていた。

 男性用に関しては、女性と同じデザインのシャツに、カラハティの皮で作られたパンツを合わせるのだそうだ。
 
 あとは男女とも、足元にはカラハティの皮や毛皮でできた靴を履くのが正式な出で立ちらしい。

「ただ靴だけは、雪の大地で歩く事を想定しているから、王都で使用するのは、あまり向いていないんだそうです。貸して下さった方も、そこは環境に合わせるべき――と、刺繍だけを残して、ブーツに改良されたらしいですよ」

「ああ、なるほど」

 と言う事は、将来における己の民族の在り様についても、比較的柔軟な思考の持ち主なのかも知れない。
 ならそれなりに明日は、実のある話が出来るのかも知れない。

「衣装の件は、ありがと。明日は『ユングベリ商会従業員』として宜しくね?」
「ええ…まあ――」
「――それでね」

 頷きかけたシーグを遮るように私が顔を覗き込めば、どこかのタイミングで聞かれるだろうと思っていたっぽいシーグは、ちょっと表情かお痙攣ひきつらせていた。

の収穫はあった?」
「……っ」

 敢えてニッコリ笑えば、案の定ドン引いている。
 仕方がないので、ちょっとだけ手札を見せる事にする。

「ここに来る前も一度言ったけど、私としてはまだデビュタント前だけど、ここの王女様を推したいと思ってるの。あくまで今のところだけど」

「え…王女様って確か……」

「15歳。だけど貴族の結婚としては、それほどおかしな年齢差じゃないでしょ」

 ギーレンのエドベリ王子は25歳。
 別に現代日本でもそれほどおかしな年齢差じゃないけど、そこは比較対象にならないので口にしない。

「それに、が落ち着く頃でもあるし」

 王子様と聖女様の婚姻――なんて言う「夢と感動の物語(!)」は、成立させないワケにはいかない。

 結婚式もそうだし、王太子として立太子される儀式もいずれこなさなくてはならない。

 アレコレ準備しこみを考えるとするならば、実はミルテ王女がまだデビュー前だと言うのは、諸々都合の良い話ではあるのだ。

 そんなコトを若干嚙み砕いて説明すると、シーグはすぐには言葉を続けられなくなっていた。

「ただ、肝心の王女様がどこぞの聖女サマみたくお花畑の住民じゃ意味ないから、明日のお茶会で見てみたいとは思っているんだけど」

「そ…れは……確かに」

「シーグとリックは、来てすぐに王宮の王女サマだ王太子サマだって言ってもさすがに探れないだろうから、今日はとりあえず王家に嫁げそうな血筋のお嬢様方の情報を集めたんじゃないの?どうだった?明日のお茶会にもいるかも知れないし、教えて?」

 明日は朝早いのに良いのか、とその目が語っているけれど、そもそも衣装を持って部屋に来ている時点で、聞かれないとでも思っていたんだろうか。

 ちょいちょい、と向かいのソファを指させば、シーグも渋々と言ったていで腰を下ろした。
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