326 / 803
第二部 宰相閣下の謹慎事情
【ハルヴァラSide】ミカと家令の追憶(後)
しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
イデオン公爵様は、忙し過ぎて何年も食事会ひとつ開けなかったらしいんだけど、スヴェンテ公爵家は少し事情が違うみたいだった。
多分、僕やリオル君にも分かる様にと少し簡単に説明をしてくれたんだろうけど、整理してみたところ「リオル君のお祖父さん、つまり先代スヴェンテ公爵が、やって良いことと悪いことの区別がつかずに、国王陛下に迷惑をかけた」「それは、ごめんなさいだけでは済まない程の事だった」「家が潰れない代わりに、家族離れ離れに暮らすようにと言われて、リオル君は曾祖父の下にいる」――と、言う事みたいだった。
あからさまには誰も言わないけれど、リオル君のお祖父さんと、伯父さん――本来なら次のスヴェンテ公爵になる筈だった人は、もうこの世の人ではない、って言う空気をヒシヒシと感じる。
だからかも知れないけど、イデオン公爵様は、僕とリオル君が友達になるのはまだ早いって言う立場に立っている様に見えた。
リオル君のお祖父さんが、そんなにダメな事をしてしまったんだったら、きっと表舞台に立つ時に、あることないこと言う人が出るだろうからって言う事なんだろう。
母上の父上も「やって良いことと悪いことの区別がつかずに、王都で色んな人に迷惑をかけた」事を考えれば、僕とリオル君の立場は、ちょっと似ているのかも知れない。
案内された老公爵夫人の部屋で、もうハルヴァラ伯爵邸には、僕の家族が母上しかいない事や、父上に恩があるって言う家令がいなかったら、領は回っていないかも知れないって僕が言ったら、老公爵様も老公爵夫人も涙ぐんでいたんだ。
「チャペックとレイナ様は、僕の中では別格なんです!母上も僕も、二人がいなかったら、今ここでこうしていられたかどうかは分からないから!」
そして老公爵様は、成人まで自分の事は、お祖父様の代わりと思ってくれて良いとまで言ってくれた。
ホントに僕のお祖父様と仲良かったんだなぁ……。
セラシフェラの実を漬け込んで出来たお酒は、父上もお祖父様も好んで飲んでいたんだって!
母上はあまり飲まない…と言うか飲めないみたいだから、チャペックに持って帰ってあげよう!
同じ実を使って出来ている〝クラフティ〟って言うお菓子は、伯爵邸みんなの分もあるみたいだから、これはこれで母上とチャペックと三人でお茶が出来るかな⁉
「ぼ、僕、来年、母上と来ます!定例報告の後にこの庭園にも寄らせて頂きますから!」
うん、きっと僕とリオル君も、将来良い友達になれると思うよ!
話の途中で、老公爵夫人のお部屋で眠ってしまったリオル君を思い返しながら、僕はそんな風に確信していた。
「――また来年かな、ミカ君?」
レイナ様はどうしてか、僕がチャペックの話をすると、毎回ちょっと表情を痙攣らせている。
チャペックもチャペックで、この前手紙を読んで物凄く複雑そうな表情を見せていたから、きっと、今の僕には分からない何かがあるのかも知れない。
やっぱり、もっともっと僕には勉強が必要なんだろうな。
「スヴェンテ老公爵様、今日はありがとうございました。イデオン公爵様、レイナ様、お世話になりました」
僕はそう言って頭を下げた後、ウルリック副長に付いて来て貰って、ハルヴァラ伯爵邸へと戻ったんだ。
「――ミカ!」
「ミカ様」
スヴェンテ公爵邸の扉が一瞬光を放って、僕とウルリック副長とがその先へと歩を進めると、次に視界に現れたのは、見慣れたハルヴァラ伯爵邸の玄関ホールだった。
「ただいま、母上!チャペック!」
簡易型と言っても〝転移扉〟を通る事自体が生まれて初めての経験で、僕はまずは、ちゃんと魔道具に行先登録が出来ていて、ハルヴァラ伯爵邸に戻って来れた事に胸を撫で下ろした。
どうやら僕の知らないところで、公爵様とウルリック副長が、僕が帰る事を連絡していたみたいで、玄関ホールには、母上もチャペックも待ってくれていて、嬉しいような、安心したような、そんな笑みで僕を出迎えてくれたんだ。
「ウルリック様、ミカ様をお送り下さって深謝申し上げます。この様な帰還方法となったからには、差し迫る事情もあろうかと拝察致しますが、お茶の一杯も許される状況にはなくていらっしゃいますか」
まず御礼と頭を下げた後で、そう言ってウルリック副長の様子を窺うチャペックに、副長の口元がちょっとひくついていた。
これは確かに、お館様がすぐ帰れと釘を刺す訳だ…なんて呟きが、僕の耳にも届いた。
言いながら上着の内ポケットから、公爵様に手渡されていた手紙を、チャペックに渡している。
「委細はこちらに。出来れば一人で読むようにとの、公爵閣下からの伝言付で」
「―――」
「ミカ殿。家令には果実酒と菓子を渡して、まずは公爵閣下からの手紙に目を通して貰うと良いですよ。その間、ミカ殿は御母堂と、果実ジュースと菓子を味わいながら、土産話をたくさんして差し上げるのはどうでしょう」
「…そっか、そうするよ!」
チャペックとウルリック副長との間で意味ありげな視線が交錯していたけど、あの様子じゃ詳しくは聞けないだろうなと、僕自身は諦めるしかなかった。
「ではミカ殿、私はこれで。また定例報告あるいは王宮行事でお会い出来るのを、将軍共々楽しみにしていますよ」
「あっ、ハイ!副長、ありがとう!将軍にも御礼お願いします!さっきちゃんと言えなかったから!」
「分かりました、伝言預かりますよ。ウチの上司単純ですし、子供と女性には怯えられがちだから、喜ぶと思いますよ。今度会った時は抱きつきに行ってあげて下さい」
…僕に分かったのは、副長多分、チャペックより上手かも知れないってコトだけだ。
最後、いつもの副長節を残して、ハルヴァラ伯爵邸の面々に御礼以上の事を言わせない内に、手にしていた転移装置で王都のイデオン公爵邸へと戻って行った。
「ミカ様、先程ウルリック様がお酒やケーキと仰っていたのは、あの木箱の中身ですか?」
チャペックの言葉に、僕はあっ!と、木箱の存在を思い出した。
戻って来て早々、ウルリック副長は抱えていた木箱を3人ほどの侍女に手分けして渡していた。
ああ言うのって、転移中に落っことしたら何処にいっちゃうんだろう…とか一瞬思ったけど、誰も答えてくれなそうなのでその疑問は胸の中にしまっておいた。
いつか、誰か答えてくれるかな。
「…ミカ様?」
「ああっ、えと、ゴメン!それ、お茶会に招いて貰った、スヴェンテ公爵家の庭園に咲いてた〝セラシフェラ〟って言う花の実を漬け込んで出来た、お酒とジュースと、あとお茶会の名物お菓子で〝クラフティ〟って言うタルトが入ってるんだ!お祖父様と王都学園で親しかったって言う、先々代の公爵様が、持って帰って、伯爵邸の皆で食べると良いよって!」
「―――」
母上は「まあ、公爵家のお茶会!」ってビックリしていたけど、どちらかと言うとチャペックは、言葉を空気と一緒に呑み込んで、顔色を変えているみたいに見えた。
だから僕は慌てて「レイナ様やイデオン公爵様も一緒だったから、失礼な事はしていないよ⁉︎」って、チャペックに両手を振ってみせたんだけど、チャペックの顔色は冴えないままだった。
「…ちなみに、どんな話を?」
「ええと、定例報告に行った時に父上やお祖父様がよく立ち寄ってたって事かな。僕が領主になったら、父上やお祖父様が好きだったお酒を教えてくれるって。それまで頑張って長生きするから、曾孫のリオル君とも仲良くして欲しいって言われたかな?」
「曾孫……」
僕が、大体が父上とお祖父様の話、あとは学園の事とかかな?って首を傾げると、何故だかチャペックはちょっとホッとした表情になって、手元の手紙に視線を落としていた。
「……ダフネ侍女長、ミカ様とイリナ様にお茶の用意を。あと、スヴェンテ公爵様からの心遣いです。お二人に取り分けた残りを、皆でいただきましょう」
一礼した侍女長がダイニングに向かうのに、チャペックも続こうと背を向けたので、僕は思わず「チャペック!」って、声を上げていた。
「手紙を読む間に、チャペックも食べてね⁉︎」
「………有難うございます、ミカ様」
何だろう、いつも穏やかで、感情を露にする事が少ないチャペックの表情が、ちょっと泣き笑い…と言うか、どう言う表情をすれば良いのか、困っている風に見えた。
その後、僕が母上とダイニングでお茶をしている間、チャペックはしばらく執務室から出て来なくて、やっと出て来たと思ったら、ちょっと目が赤くなっていた気がした。
「ミカ様、明日から少し、各国の王族の事を勉強しましょうか」
そんな風にチャペックが言うくらいだから、手紙はきっと、サレステーデの残念な王族の話に触れられていたんだろう。
ダフネ侍女長が、チャペックにも果実酒とお菓子を届けた後、一人きりの部屋から嗚咽に似た声が聞こえた――なんて言ってはいたけど、チャペックの態度が、何も聞かないようにと全身で主張している気がした。
前にレイナ様が、僕もあっという間に、無邪気なままではいられなくなるんだって、愚痴みたいに呟いてたけど、きっと、こんな風に相手が出す空気を感じ取れるようになってきたのが、そう言う事なのかも知れない。
「……チャペックは、これからも伯爵邸にいてくれるの?」
「もちろんです。私の忠誠は亡くなられても、変わらず旦那様の上にあります。そしてミカ様とイリナ様に引き継がれたのです。そこだけは、何があっても揺らぎません」
過去に何かあったのかも知れない。
だけど、父上が信じたチャペックを、僕も信じないと!
落ち着いたら、伯爵邸でも〝セラシフェラ〟が育つのか、庭師にこっそり聞いてみよう――。
イデオン公爵様は、忙し過ぎて何年も食事会ひとつ開けなかったらしいんだけど、スヴェンテ公爵家は少し事情が違うみたいだった。
多分、僕やリオル君にも分かる様にと少し簡単に説明をしてくれたんだろうけど、整理してみたところ「リオル君のお祖父さん、つまり先代スヴェンテ公爵が、やって良いことと悪いことの区別がつかずに、国王陛下に迷惑をかけた」「それは、ごめんなさいだけでは済まない程の事だった」「家が潰れない代わりに、家族離れ離れに暮らすようにと言われて、リオル君は曾祖父の下にいる」――と、言う事みたいだった。
あからさまには誰も言わないけれど、リオル君のお祖父さんと、伯父さん――本来なら次のスヴェンテ公爵になる筈だった人は、もうこの世の人ではない、って言う空気をヒシヒシと感じる。
だからかも知れないけど、イデオン公爵様は、僕とリオル君が友達になるのはまだ早いって言う立場に立っている様に見えた。
リオル君のお祖父さんが、そんなにダメな事をしてしまったんだったら、きっと表舞台に立つ時に、あることないこと言う人が出るだろうからって言う事なんだろう。
母上の父上も「やって良いことと悪いことの区別がつかずに、王都で色んな人に迷惑をかけた」事を考えれば、僕とリオル君の立場は、ちょっと似ているのかも知れない。
案内された老公爵夫人の部屋で、もうハルヴァラ伯爵邸には、僕の家族が母上しかいない事や、父上に恩があるって言う家令がいなかったら、領は回っていないかも知れないって僕が言ったら、老公爵様も老公爵夫人も涙ぐんでいたんだ。
「チャペックとレイナ様は、僕の中では別格なんです!母上も僕も、二人がいなかったら、今ここでこうしていられたかどうかは分からないから!」
そして老公爵様は、成人まで自分の事は、お祖父様の代わりと思ってくれて良いとまで言ってくれた。
ホントに僕のお祖父様と仲良かったんだなぁ……。
セラシフェラの実を漬け込んで出来たお酒は、父上もお祖父様も好んで飲んでいたんだって!
母上はあまり飲まない…と言うか飲めないみたいだから、チャペックに持って帰ってあげよう!
同じ実を使って出来ている〝クラフティ〟って言うお菓子は、伯爵邸みんなの分もあるみたいだから、これはこれで母上とチャペックと三人でお茶が出来るかな⁉
「ぼ、僕、来年、母上と来ます!定例報告の後にこの庭園にも寄らせて頂きますから!」
うん、きっと僕とリオル君も、将来良い友達になれると思うよ!
話の途中で、老公爵夫人のお部屋で眠ってしまったリオル君を思い返しながら、僕はそんな風に確信していた。
「――また来年かな、ミカ君?」
レイナ様はどうしてか、僕がチャペックの話をすると、毎回ちょっと表情を痙攣らせている。
チャペックもチャペックで、この前手紙を読んで物凄く複雑そうな表情を見せていたから、きっと、今の僕には分からない何かがあるのかも知れない。
やっぱり、もっともっと僕には勉強が必要なんだろうな。
「スヴェンテ老公爵様、今日はありがとうございました。イデオン公爵様、レイナ様、お世話になりました」
僕はそう言って頭を下げた後、ウルリック副長に付いて来て貰って、ハルヴァラ伯爵邸へと戻ったんだ。
「――ミカ!」
「ミカ様」
スヴェンテ公爵邸の扉が一瞬光を放って、僕とウルリック副長とがその先へと歩を進めると、次に視界に現れたのは、見慣れたハルヴァラ伯爵邸の玄関ホールだった。
「ただいま、母上!チャペック!」
簡易型と言っても〝転移扉〟を通る事自体が生まれて初めての経験で、僕はまずは、ちゃんと魔道具に行先登録が出来ていて、ハルヴァラ伯爵邸に戻って来れた事に胸を撫で下ろした。
どうやら僕の知らないところで、公爵様とウルリック副長が、僕が帰る事を連絡していたみたいで、玄関ホールには、母上もチャペックも待ってくれていて、嬉しいような、安心したような、そんな笑みで僕を出迎えてくれたんだ。
「ウルリック様、ミカ様をお送り下さって深謝申し上げます。この様な帰還方法となったからには、差し迫る事情もあろうかと拝察致しますが、お茶の一杯も許される状況にはなくていらっしゃいますか」
まず御礼と頭を下げた後で、そう言ってウルリック副長の様子を窺うチャペックに、副長の口元がちょっとひくついていた。
これは確かに、お館様がすぐ帰れと釘を刺す訳だ…なんて呟きが、僕の耳にも届いた。
言いながら上着の内ポケットから、公爵様に手渡されていた手紙を、チャペックに渡している。
「委細はこちらに。出来れば一人で読むようにとの、公爵閣下からの伝言付で」
「―――」
「ミカ殿。家令には果実酒と菓子を渡して、まずは公爵閣下からの手紙に目を通して貰うと良いですよ。その間、ミカ殿は御母堂と、果実ジュースと菓子を味わいながら、土産話をたくさんして差し上げるのはどうでしょう」
「…そっか、そうするよ!」
チャペックとウルリック副長との間で意味ありげな視線が交錯していたけど、あの様子じゃ詳しくは聞けないだろうなと、僕自身は諦めるしかなかった。
「ではミカ殿、私はこれで。また定例報告あるいは王宮行事でお会い出来るのを、将軍共々楽しみにしていますよ」
「あっ、ハイ!副長、ありがとう!将軍にも御礼お願いします!さっきちゃんと言えなかったから!」
「分かりました、伝言預かりますよ。ウチの上司単純ですし、子供と女性には怯えられがちだから、喜ぶと思いますよ。今度会った時は抱きつきに行ってあげて下さい」
…僕に分かったのは、副長多分、チャペックより上手かも知れないってコトだけだ。
最後、いつもの副長節を残して、ハルヴァラ伯爵邸の面々に御礼以上の事を言わせない内に、手にしていた転移装置で王都のイデオン公爵邸へと戻って行った。
「ミカ様、先程ウルリック様がお酒やケーキと仰っていたのは、あの木箱の中身ですか?」
チャペックの言葉に、僕はあっ!と、木箱の存在を思い出した。
戻って来て早々、ウルリック副長は抱えていた木箱を3人ほどの侍女に手分けして渡していた。
ああ言うのって、転移中に落っことしたら何処にいっちゃうんだろう…とか一瞬思ったけど、誰も答えてくれなそうなのでその疑問は胸の中にしまっておいた。
いつか、誰か答えてくれるかな。
「…ミカ様?」
「ああっ、えと、ゴメン!それ、お茶会に招いて貰った、スヴェンテ公爵家の庭園に咲いてた〝セラシフェラ〟って言う花の実を漬け込んで出来た、お酒とジュースと、あとお茶会の名物お菓子で〝クラフティ〟って言うタルトが入ってるんだ!お祖父様と王都学園で親しかったって言う、先々代の公爵様が、持って帰って、伯爵邸の皆で食べると良いよって!」
「―――」
母上は「まあ、公爵家のお茶会!」ってビックリしていたけど、どちらかと言うとチャペックは、言葉を空気と一緒に呑み込んで、顔色を変えているみたいに見えた。
だから僕は慌てて「レイナ様やイデオン公爵様も一緒だったから、失礼な事はしていないよ⁉︎」って、チャペックに両手を振ってみせたんだけど、チャペックの顔色は冴えないままだった。
「…ちなみに、どんな話を?」
「ええと、定例報告に行った時に父上やお祖父様がよく立ち寄ってたって事かな。僕が領主になったら、父上やお祖父様が好きだったお酒を教えてくれるって。それまで頑張って長生きするから、曾孫のリオル君とも仲良くして欲しいって言われたかな?」
「曾孫……」
僕が、大体が父上とお祖父様の話、あとは学園の事とかかな?って首を傾げると、何故だかチャペックはちょっとホッとした表情になって、手元の手紙に視線を落としていた。
「……ダフネ侍女長、ミカ様とイリナ様にお茶の用意を。あと、スヴェンテ公爵様からの心遣いです。お二人に取り分けた残りを、皆でいただきましょう」
一礼した侍女長がダイニングに向かうのに、チャペックも続こうと背を向けたので、僕は思わず「チャペック!」って、声を上げていた。
「手紙を読む間に、チャペックも食べてね⁉︎」
「………有難うございます、ミカ様」
何だろう、いつも穏やかで、感情を露にする事が少ないチャペックの表情が、ちょっと泣き笑い…と言うか、どう言う表情をすれば良いのか、困っている風に見えた。
その後、僕が母上とダイニングでお茶をしている間、チャペックはしばらく執務室から出て来なくて、やっと出て来たと思ったら、ちょっと目が赤くなっていた気がした。
「ミカ様、明日から少し、各国の王族の事を勉強しましょうか」
そんな風にチャペックが言うくらいだから、手紙はきっと、サレステーデの残念な王族の話に触れられていたんだろう。
ダフネ侍女長が、チャペックにも果実酒とお菓子を届けた後、一人きりの部屋から嗚咽に似た声が聞こえた――なんて言ってはいたけど、チャペックの態度が、何も聞かないようにと全身で主張している気がした。
前にレイナ様が、僕もあっという間に、無邪気なままではいられなくなるんだって、愚痴みたいに呟いてたけど、きっと、こんな風に相手が出す空気を感じ取れるようになってきたのが、そう言う事なのかも知れない。
「……チャペックは、これからも伯爵邸にいてくれるの?」
「もちろんです。私の忠誠は亡くなられても、変わらず旦那様の上にあります。そしてミカ様とイリナ様に引き継がれたのです。そこだけは、何があっても揺らぎません」
過去に何かあったのかも知れない。
だけど、父上が信じたチャペックを、僕も信じないと!
落ち着いたら、伯爵邸でも〝セラシフェラ〟が育つのか、庭師にこっそり聞いてみよう――。
813
685 忘れじの膝枕 とも連動!
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!
2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!
そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra
今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!
2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!
そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra
今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
お気に入りに追加
12,979
あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら
冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。
アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。
国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。
ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。
エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます
音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。
こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。
その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

お前のせいで不幸になったと姉が乗り込んできました、ご自分から彼を奪っておいて何なの?
coco
恋愛
お前のせいで不幸になった、責任取りなさいと、姉が押しかけてきました。
ご自分から彼を奪っておいて、一体何なの─?

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。