聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
上 下
325 / 803
第二部 宰相閣下の謹慎事情

【ハルヴァラSide】ミカと家令の追憶(前)

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 そもそもは、レイナ様とシャルリーヌ様と、イデオン公爵邸で〝てんぷらパーティー〟と言う名の昼食会をする予定だったから、僕は楽しみにしていたんだけど、なんでも「一言で語れないアレコレ」があったとかで、結果的にその昼食会は、イデオン公爵様どころかフォルシアン公爵様にコンティオラ公爵様、スヴェンテ老公爵様までが加わっての、僕には主旨の良く分からない昼食会になっていた。

 ああ、でも、スヴェンテ老公爵様は、以前の定例報告の時に父上と会ったり、そのまた父上――こちらはちゃんと「お祖父さま」で良いかな――と王都学園で一緒に勉強した、なんて言う話も聞けたから、これは帰ったら母上に話をしてあげなくちゃ!と、内心で喜んでいたんだ。

 そのままスヴェンテ老公爵様の邸宅おやしきで、もっと話を聞かせて貰える…なんて聞いちゃったら、とてもじゃないけれど「行かない」なんて言えなかった。

「僕、レイナ様と行きたい!スヴェンテ老公爵様も、今日のお料理の話とか、レイナ様とももう少し話をしてみたいって仰ってたよ?」

 そろそろ、僕はハルヴァラ領に帰らないといけない。
 そんな空気は、僕にも読み取れる。

 だけど、だからこそ、なるべくレイナ様と過ごしたい!
 イデオン公爵様は毎日一緒なんだから、こんな時くらい、ワガママ言っても良いよね⁉︎

 元々、王都中心街の洋菓子店でのお店番をしていた子が戻って来ていて、それも、僕が引き上げる良い機会だと思われたみたいだった。

 最初は、レイナ様の事を探りにギーレンから来ていたって聞いて、僕はあんまり良い気がしなかったんだけど、があって、当面は敵対しないと言う事になったらしいと、ウルリック副長が説明してくれた。

 ――お店は辞めるらしい。

 思ったよりケガの回復が進まなくて、いつまでも休んでいたら迷惑をかける…と言う事にしたみたいだった。

 洋菓子店の店長には、一緒に来ていた双子の兄が、この日は妹になりすまして来ていて、実際には〝鷹の眼〟からつけられたらしい傷を、それらしく見せながら、そんな風に退職理由を説明していた。

 いつでも戻って来て良いからね…と、裏のない笑顔で言える〝イクスゴード〟の店長は、本当にイイ人だと思う。

 そして、まるでそれを待っていたかの様に、僕が領に戻る日も決まった。

 スヴェンテ老公爵様の邸宅おやしきに行って、その足で帰るって!…って、さすがにビックリしたけど、ウルリック副長は、何だか乾いた笑い声を洩らしていた。

「まぁ…今、お館様も余裕がない状態ですからね……」

 ウルリック副長が更に遠い目になった意味は良く分からなかったけど、こればかりは、あと10年くらいしないと、僕には分からないだろうと言う事らしい。

 確かに僕は未だ、イデオン公爵様やレイナ様の話す事に耳を傾けても、一度では理解出来ない事の方が多い。
 少し簡単な言葉で言い換えて貰って、何とか分かるかどうか…と言ったところだ。

 まだ6歳で、何も出来ないこの身体がホントに悔しい!

 でも今は、帰ったらチャペックにいっぱいいっぱい聞いて、勉強しなきゃと思う事しか出来ない。

 ウルリック副長も「それが一番の近道です」と、微笑わらって保証してくれたくらいだから、頑張らないとね!

「携帯用の簡易型とは言え、転移装置の使用を許可されるなどと、異例中の異例ですよ。恐らくは二度とない事でしょうね」

 ただでさえ、帰国日が延び延びになっていたから、その装置を使わせて貰う事で、何とか、最初に予定していた帰郷日と、1日2日の誤差で戻る事が出来ると言う事らしかった。

 イデオン公爵様に余裕がない、ウルリック副長も僕を送ったらその足ですぐさま装置を使って王都に戻る――サレステーデ国から困った王族が来ているのはチラッと見たけど、そんなに大変なコトになっているのに、僕は領に戻らなくちゃいけないのは、やっぱりちょっと悔しい。

 だけど、学園に入学あるいは王宮行事で呼ばれた時以外に、必要以上に領を離れるのは、次期領主として領民の信頼を落とす行為に繋がると言われれば、残りたいなんてワガママは言える筈もない。

 せめて勉強の進捗状況をこまめにレイナ様に知らせて、僕の存在を忘れないで!って主張しよう。

 そう言い聞かせて、ようやくちょっとだけ自分の中で折り合いをつけた。

 それから何日かたって訪れたスヴェンテ老公爵様の邸宅おやしきは、広さも使用人の数も、ほぼ同じくらいに見えた。
 何にしても、ハルヴァラ領の邸宅おやしきとは規模が違った。

「こ…こんにちは……リオル・スヴェンテ…です……」

 チャペックからは、僕は13歳になったら5年間、王都学園に入学をする、それは爵位のある貴族家の男子に例外なく課せられている義務なんだと聞いている。

 ウルリック副長からは、8歳から13歳までの間は、子爵男爵と言った下位貴族限定で、王都学園への入学準備としての教育を地元で受けるように義務付けられているのだとも聞いた。

 なんでも、王都学園は表面上は生徒間の平等を謳っていても、そこには働いている職員もいれば教師もいる訳で、そんな彼らに下手に無礼を働かないように、高位貴族間の力関係を予め学んでおくためと言う事らしい。

 それと高位貴族家は大抵、早くから家に家庭教師を招いている場合はほとんどで、財政力の差で学力に大幅な差が出ないよう、下位貴族には国が学びの場を提供した上で、王都学園入学時には、本人の才覚以外の差をなるべく少なくしておく――そんな仕組みになっているんだそうだ。

 確かに、僕はもうチャペックから少しずつ勉強を教わり始めているし、ちょっとオドオドとした挨拶をしている彼も、4歳と聞いたけど、老公爵様からもう手ほどきを受け始めているっぽい。

 僕が伯爵家、彼が公爵家と言う事は、彼が13歳になったところで、また学園で会うと言う事なんだろうけど、何となく周りの空気は、それまでに仲良く出来ればそれに越した事はないって言う感じだった。

 きっとお祖父様同士がそうだったみたいに、同い年じゃないけど、それでも仲良くして欲しいんだろうな。

「イデオン公とご令嬢は庭園の方へ案内させよう」

 何でもこの邸宅にはすごく有名な庭園があって、中にあるガゼボでは、季節ごとに収穫出来る果実で作ったお菓子なんかも食べられるんだって!

 レイナ様と公爵様は先にそこに行くけど、僕も老公爵様や老公爵夫人から父上やお祖父様の話を聞いたら、そこで一緒にお菓子を食べられるって事だから、しょうがないから二人で行かせてあげるよ!

 だけど僕の分のお菓子は残しておいてね、レイナ様!
しおりを挟む
685 忘れじの膝枕 とも連動! 
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!

2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!

そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra 

今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
感想 1,407

あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。