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第二部 宰相閣下の謹慎事情
【宰相Side】エドヴァルドの誤謬(中)
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
ドナート第二王子やドロテア第一王女の怯え具合、特使一行の中にいた、ベルセリウスやファルコですら警戒をしている男の存在を考えると、滞在中に何か仕掛けてくるだろう事は確定事項であるかの様に思えた。
ただ、替え玉とは言ったものの、当初は王宮護衛騎士であるトーカレヴァ・サタノフに言って、二人の背格好に該当しそうな騎士を見繕わせるつもりだった。
(お館様。宰相室にお戻りの前に、どこか話せる場所はないですか)
そんな中、魔道具を使った、他者には聞こえないファルコの〝声〟が聞こえて、私は気取られない範囲で眉を顰めた。
少し考えてはみたが、現状、この部屋を一番最後に出るのが最も自然な気がしたので、私は陛下や他の公爵家代表連中をさりげなく先に退出させて、改めてファルコの名を呼んだ。
「ファルコ、何だ」
私が廊下に出て来ないのを気にしたのか、ファルコの言う「話」の内容に関係するのか、ベルセリウスとウルリックも、扉の外の警護を止めて、謁見の間の中へと入って来た。
――が。
「離せよ、オッサン!俺は荷物じゃねぇし、妹はネコじゃねぇっ‼︎」
「……何?」
入って来たベルセリウスは、片方の肩に少年を荷物の如く担ぎ上げていて、反対の手は同じ年頃の少年?少女?を、確かにネコの如く首根っこを摘み上げていた。
「よく回る口だな!私はまだ、オッサンなどと呼ばれる年齢ではないぞ!そこにいるファルコと同い年なのだからな‼︎」
「なら十分、オッサンじゃねぇか!」
「オルヴォと一緒にすんじゃねぇ、王宮の窓から放り出すぞガキンチョ!」
「…何でも良いですから、ここは謁見の間なんです、もう少し静かに…」
ウルリックが呆れた様に頭を振っているのに、私も賛成したい気分ではある。
と、言うか。
「何故、ここにいる。――シーグリック」
ついこの前、ギーレンで別れたばかりの筈の、エドベリ王子の配下の双子が、何故かベルセリウスに「捕獲」されて、目の前にいた。
「えー…あー…話せば長く……?」
「要点をまとめて話せ。まさかどこぞの王子にもそんな報告の仕方をしている訳じゃないだろう」
未だベルセリウスに担がれたままの状態で、双子の片割れ、兄の方がうっ…と言葉に詰まっていた。
「なんでこの俺が歯が立たないヤツなんてのが、よりによってアンジェスにうじゃうじゃいんだよ……」
「……兄さん、私、前にこの人に捕まったの。だから多分暴れても無駄……」
妹の呟きに、兄が愕然とした様だった。
「報告はこれか、ファルコ?」
とりあえず双子の事は横に置いて確認をすれば「ええ、まあ」とファルコからは肯定の言葉が返ってきた。
「こいつら、サレステーデからの特使一行の中に紛れてやがったんですよ。で、謁見の間の外をコソコソ嗅ぎ回ってたんで、俺が追い込んでオルヴォがとっ捕まえたワケなんですが」
「サレステーデだと?」
私の声が苛立たしげになっている事に気付いたのか、兄の方が「分かった!話すから下ろせ‼」とベルセリウスの肩に乗せられたまま喚いた。
「とある貴人女性に頼まれたんだよ!義理の息子の正妃候補の情報を、外を回って集めて来いって!俺、謹慎になったからちょうど良いだろうって!でもって、得た情報をレイナ嬢なりイデオン宰相なりとすり合わせが出来たらなお良いって仰るから来たんだよ!」
「「「は?」」」
私とファルコ、ベルセリウスの声が思いがけず重なっていたが、リックは構わず話を続けた。
「それで、たまたまサレステーデにいて、次、バリエンダールに移動しようかと思ってたら、向こうの王宮が急に慌ただしくなって……アンジェスに行く、なんて話をしているのを聞いたから、一度アンジェスに寄っておくのもアリかと思って、紛れ込んだんだよ!妹も、潜入先として働いていた洋菓子店の様子が気になるって言ったし……」
とある貴人女性、と言われてもピンと来ないベルセリウスが、本当の話かと、捕まえたままの両手それぞれに力をこめようとしたため、私の方が片手を上げてそれを遮った。
「下ろしてやれ、ベルセリウス」
「しかし、お館様……」
「謹慎の意味を真面目に問うた方が良いのかも知れんが、その女性ならば言ったとて不思議ではないからな」
「―――」
謹慎の意味。
それを私が言うのかと、そう言う空気は周囲から感じるが、私は気付かぬフリを通した。
「だがその話、しばらくは我が国主導で良い筈ではなかったか?」
「…だからと言って、何もしない訳にはいかない、と。アンジェスだって、自国に都合の悪い情報は伏せるだろうし、こちらは、こちらの視点で情報を掴んでおかないと…と」
話の途中から、私は自分の表情が苦いものになるのを感じた。
さすがはエヴェリーナ妃だ。
もしもこちらの動きが鈍いようであれば、盤上の駒をいつでもひっくり返せる――そんな風にしておきたいのだろう。
あくまで今はまだ、レイナが敷いた道筋の方が、王家にとっても損害が少ないから、そうしているだけだと、こちらへの警告もこめて、シーグリックを動かしてきたに違いない。
「既にサレステーデ王宮は探って来たと言う事だな」
「あと、ベルィフも」
その辺りは、隠す事でもないと思ったのか、リックが普通に答えていた。
「ホントなら、その後でアンジェスには来る予定だったんだよ。だけどまあ、サレステーデ王家、縁組以前の話で問題噴出だし、アンジェスで何かやらかす気でいるみたいだったから、だったらバリエンダールに行く前に一度寄って、話くらいはしておいた方が良いかと思ったんだよ」
「えらく親切な話だな。その『貴人女性』はそこまで指示をしているのか?情報は我が国と共有しろと?」
何せ相手は、あのエヴェリーナ妃だ。
私が猜疑心も露にリックを見やると、兄はチラリと妹の方を見て、あからさまに顔を歪めていた。
「まあ、情報を共有しろと言われた事は確かだけど。一番の要因は、イザクだっけ?ギーレンに残っているヤツ。ソイツが王立植物園で妹に言ったんだってよ。『万一お館様とお嬢さんにとって不利になる様な動きをしたなら、二人とも二度と主に仕えられなくしてやる』――って。可哀想に、妹が涙目で俺のところへ駆け込んで来たんだぜ⁉幼気な妹を虐めて楽しいのかよ、あの男‼」
「……イザクが?」
恐らくはシーグが植物園を一時離れるにあたって、イザクに話をしない訳にもいかなかったんだろう。
彼は彼で、件の〝霊薬〟風の薬が完成しない事にはそこを離れられないのだから、せいぜい双子を脅しておく事くらいしか出来なかったのかも知れない。
――ギーレン王宮の暗部に属する少女をつかまえて、幼気も何もあったものではないと思うが。
レイナやファルコが、さんざんに兄の妹溺愛が重症だと言っていたところの一端を垣間見た気はした。
「…あれは、冗談の言える男ではないからな。そう言っていたなら、蔑ろにはしない事だ」
私の言葉に、舌打ちはすれど反発はしないところからも、彼自身もそれは感じているのだろう。
「ガキンチョ……おまえ、俺とオルヴォは『オッサン』呼ばわりしておきながら、イザクは何で名前呼びだ?ケンカ売ってんのか。今すぐ買うぞ?」
「っせぇな、妹の信頼度の差だよ!何でわざわざ妹に嫌われなきゃなんねぇんだって話だよ!」
「「はぁ⁉」」
「――将軍、ファルコ、話がずれてますよ。そんなだから、対応に差が出てるんじゃないですか」
私が何かを言うよりも早く、ウルリックの方がバッサリとベルセリウスとファルコを切り捨てていた。
それはもう、リックが一緒に怯むくらいには冷やかだった。
私も、そこは敢えて会話に参加しない事にした。
恐らくは、15歳の双子から見れば、この場にいる皆、ほぼ同じだろうと…地味に自分も傷つきそうだからだ。
当然、口には出さないが。
「おまえがサレステーデやベルィフの王宮で見てきた話には興味があるな。まさに今、その事で色々と考える必要が出てきているからだ。じっくり話は聞きたいところだが、まずはこの後の夕食会を乗り切らない事には何も進められない」
「あ、ああ。俺やシーグから見ても、明らかに普通じゃない男が混じってるし――」
私の言葉に首肯しかけた双子は、何故かそこでピシリと固まっていた。
「ああ……おまえたち、ちょうど良いところに来てくれたな」
「「⁉」」
「ここに、王子と王女の替え玉に、これ以上はない適任がいるじゃないか」
私がそう言って微かに口の端を上げれば、更に二人ともが表情を盛大に痙攣らせた。
「な、何を――」
「何、簡単な話だ。この後、この王宮内ではサレステーデの特使一行を招いての夕食会が行われる。その間、ちょっと二人で貴族牢にこもって、物騒な連中が来た場合には蹴散らしておいてくれ」
「――はあっ⁉」
「先にこの国に来ていた、ドナート第二王子とドロテア第一王女を狙って、特使の中から誰か仕掛けてくる可能性が高い。当の二人は変装させて、夕食会に紛れ込ませるつもりをしているが、その間、牢に護衛騎士の誰を配置すべきか、ちょうど悩んでいたところだった」
「ちょっ……待て……何言って……」
「夕食会まで時間がない。何、コトが終わればゆっくりと話も聞くし、公爵邸で毒入りじゃない美味い食事は振る舞ってやる」
さっと私が片手を上げると「ああ、それは良い案だ、お館様」と、満面の笑みを浮かべたファルコが近づいてきて、双子の腕を問答無用で掴んでいた。
「ファルコ、サタノフに言って、王子と王女が着替えた後の服を回収して、この二人の所に届けさせろ。ああ、二人とも逆らえるとは思うな?王宮内でベルセリウスに捕獲された時点で、既に罪人扱いだ。だが私は優しいからな。この任務を上手くこなせたら、恩赦扱いで不法侵入はなかった事にしてやろう」
「――優しくねぇっ!それは悪辣って言うんだよっ‼」
ファルコに文字通り引きずられながら、兄の方が最後まで何かを叫んでいたが、途中から私は聞き流した。
ドナート第二王子やドロテア第一王女の怯え具合、特使一行の中にいた、ベルセリウスやファルコですら警戒をしている男の存在を考えると、滞在中に何か仕掛けてくるだろう事は確定事項であるかの様に思えた。
ただ、替え玉とは言ったものの、当初は王宮護衛騎士であるトーカレヴァ・サタノフに言って、二人の背格好に該当しそうな騎士を見繕わせるつもりだった。
(お館様。宰相室にお戻りの前に、どこか話せる場所はないですか)
そんな中、魔道具を使った、他者には聞こえないファルコの〝声〟が聞こえて、私は気取られない範囲で眉を顰めた。
少し考えてはみたが、現状、この部屋を一番最後に出るのが最も自然な気がしたので、私は陛下や他の公爵家代表連中をさりげなく先に退出させて、改めてファルコの名を呼んだ。
「ファルコ、何だ」
私が廊下に出て来ないのを気にしたのか、ファルコの言う「話」の内容に関係するのか、ベルセリウスとウルリックも、扉の外の警護を止めて、謁見の間の中へと入って来た。
――が。
「離せよ、オッサン!俺は荷物じゃねぇし、妹はネコじゃねぇっ‼︎」
「……何?」
入って来たベルセリウスは、片方の肩に少年を荷物の如く担ぎ上げていて、反対の手は同じ年頃の少年?少女?を、確かにネコの如く首根っこを摘み上げていた。
「よく回る口だな!私はまだ、オッサンなどと呼ばれる年齢ではないぞ!そこにいるファルコと同い年なのだからな‼︎」
「なら十分、オッサンじゃねぇか!」
「オルヴォと一緒にすんじゃねぇ、王宮の窓から放り出すぞガキンチョ!」
「…何でも良いですから、ここは謁見の間なんです、もう少し静かに…」
ウルリックが呆れた様に頭を振っているのに、私も賛成したい気分ではある。
と、言うか。
「何故、ここにいる。――シーグリック」
ついこの前、ギーレンで別れたばかりの筈の、エドベリ王子の配下の双子が、何故かベルセリウスに「捕獲」されて、目の前にいた。
「えー…あー…話せば長く……?」
「要点をまとめて話せ。まさかどこぞの王子にもそんな報告の仕方をしている訳じゃないだろう」
未だベルセリウスに担がれたままの状態で、双子の片割れ、兄の方がうっ…と言葉に詰まっていた。
「なんでこの俺が歯が立たないヤツなんてのが、よりによってアンジェスにうじゃうじゃいんだよ……」
「……兄さん、私、前にこの人に捕まったの。だから多分暴れても無駄……」
妹の呟きに、兄が愕然とした様だった。
「報告はこれか、ファルコ?」
とりあえず双子の事は横に置いて確認をすれば「ええ、まあ」とファルコからは肯定の言葉が返ってきた。
「こいつら、サレステーデからの特使一行の中に紛れてやがったんですよ。で、謁見の間の外をコソコソ嗅ぎ回ってたんで、俺が追い込んでオルヴォがとっ捕まえたワケなんですが」
「サレステーデだと?」
私の声が苛立たしげになっている事に気付いたのか、兄の方が「分かった!話すから下ろせ‼」とベルセリウスの肩に乗せられたまま喚いた。
「とある貴人女性に頼まれたんだよ!義理の息子の正妃候補の情報を、外を回って集めて来いって!俺、謹慎になったからちょうど良いだろうって!でもって、得た情報をレイナ嬢なりイデオン宰相なりとすり合わせが出来たらなお良いって仰るから来たんだよ!」
「「「は?」」」
私とファルコ、ベルセリウスの声が思いがけず重なっていたが、リックは構わず話を続けた。
「それで、たまたまサレステーデにいて、次、バリエンダールに移動しようかと思ってたら、向こうの王宮が急に慌ただしくなって……アンジェスに行く、なんて話をしているのを聞いたから、一度アンジェスに寄っておくのもアリかと思って、紛れ込んだんだよ!妹も、潜入先として働いていた洋菓子店の様子が気になるって言ったし……」
とある貴人女性、と言われてもピンと来ないベルセリウスが、本当の話かと、捕まえたままの両手それぞれに力をこめようとしたため、私の方が片手を上げてそれを遮った。
「下ろしてやれ、ベルセリウス」
「しかし、お館様……」
「謹慎の意味を真面目に問うた方が良いのかも知れんが、その女性ならば言ったとて不思議ではないからな」
「―――」
謹慎の意味。
それを私が言うのかと、そう言う空気は周囲から感じるが、私は気付かぬフリを通した。
「だがその話、しばらくは我が国主導で良い筈ではなかったか?」
「…だからと言って、何もしない訳にはいかない、と。アンジェスだって、自国に都合の悪い情報は伏せるだろうし、こちらは、こちらの視点で情報を掴んでおかないと…と」
話の途中から、私は自分の表情が苦いものになるのを感じた。
さすがはエヴェリーナ妃だ。
もしもこちらの動きが鈍いようであれば、盤上の駒をいつでもひっくり返せる――そんな風にしておきたいのだろう。
あくまで今はまだ、レイナが敷いた道筋の方が、王家にとっても損害が少ないから、そうしているだけだと、こちらへの警告もこめて、シーグリックを動かしてきたに違いない。
「既にサレステーデ王宮は探って来たと言う事だな」
「あと、ベルィフも」
その辺りは、隠す事でもないと思ったのか、リックが普通に答えていた。
「ホントなら、その後でアンジェスには来る予定だったんだよ。だけどまあ、サレステーデ王家、縁組以前の話で問題噴出だし、アンジェスで何かやらかす気でいるみたいだったから、だったらバリエンダールに行く前に一度寄って、話くらいはしておいた方が良いかと思ったんだよ」
「えらく親切な話だな。その『貴人女性』はそこまで指示をしているのか?情報は我が国と共有しろと?」
何せ相手は、あのエヴェリーナ妃だ。
私が猜疑心も露にリックを見やると、兄はチラリと妹の方を見て、あからさまに顔を歪めていた。
「まあ、情報を共有しろと言われた事は確かだけど。一番の要因は、イザクだっけ?ギーレンに残っているヤツ。ソイツが王立植物園で妹に言ったんだってよ。『万一お館様とお嬢さんにとって不利になる様な動きをしたなら、二人とも二度と主に仕えられなくしてやる』――って。可哀想に、妹が涙目で俺のところへ駆け込んで来たんだぜ⁉幼気な妹を虐めて楽しいのかよ、あの男‼」
「……イザクが?」
恐らくはシーグが植物園を一時離れるにあたって、イザクに話をしない訳にもいかなかったんだろう。
彼は彼で、件の〝霊薬〟風の薬が完成しない事にはそこを離れられないのだから、せいぜい双子を脅しておく事くらいしか出来なかったのかも知れない。
――ギーレン王宮の暗部に属する少女をつかまえて、幼気も何もあったものではないと思うが。
レイナやファルコが、さんざんに兄の妹溺愛が重症だと言っていたところの一端を垣間見た気はした。
「…あれは、冗談の言える男ではないからな。そう言っていたなら、蔑ろにはしない事だ」
私の言葉に、舌打ちはすれど反発はしないところからも、彼自身もそれは感じているのだろう。
「ガキンチョ……おまえ、俺とオルヴォは『オッサン』呼ばわりしておきながら、イザクは何で名前呼びだ?ケンカ売ってんのか。今すぐ買うぞ?」
「っせぇな、妹の信頼度の差だよ!何でわざわざ妹に嫌われなきゃなんねぇんだって話だよ!」
「「はぁ⁉」」
「――将軍、ファルコ、話がずれてますよ。そんなだから、対応に差が出てるんじゃないですか」
私が何かを言うよりも早く、ウルリックの方がバッサリとベルセリウスとファルコを切り捨てていた。
それはもう、リックが一緒に怯むくらいには冷やかだった。
私も、そこは敢えて会話に参加しない事にした。
恐らくは、15歳の双子から見れば、この場にいる皆、ほぼ同じだろうと…地味に自分も傷つきそうだからだ。
当然、口には出さないが。
「おまえがサレステーデやベルィフの王宮で見てきた話には興味があるな。まさに今、その事で色々と考える必要が出てきているからだ。じっくり話は聞きたいところだが、まずはこの後の夕食会を乗り切らない事には何も進められない」
「あ、ああ。俺やシーグから見ても、明らかに普通じゃない男が混じってるし――」
私の言葉に首肯しかけた双子は、何故かそこでピシリと固まっていた。
「ああ……おまえたち、ちょうど良いところに来てくれたな」
「「⁉」」
「ここに、王子と王女の替え玉に、これ以上はない適任がいるじゃないか」
私がそう言って微かに口の端を上げれば、更に二人ともが表情を盛大に痙攣らせた。
「な、何を――」
「何、簡単な話だ。この後、この王宮内ではサレステーデの特使一行を招いての夕食会が行われる。その間、ちょっと二人で貴族牢にこもって、物騒な連中が来た場合には蹴散らしておいてくれ」
「――はあっ⁉」
「先にこの国に来ていた、ドナート第二王子とドロテア第一王女を狙って、特使の中から誰か仕掛けてくる可能性が高い。当の二人は変装させて、夕食会に紛れ込ませるつもりをしているが、その間、牢に護衛騎士の誰を配置すべきか、ちょうど悩んでいたところだった」
「ちょっ……待て……何言って……」
「夕食会まで時間がない。何、コトが終わればゆっくりと話も聞くし、公爵邸で毒入りじゃない美味い食事は振る舞ってやる」
さっと私が片手を上げると「ああ、それは良い案だ、お館様」と、満面の笑みを浮かべたファルコが近づいてきて、双子の腕を問答無用で掴んでいた。
「ファルコ、サタノフに言って、王子と王女が着替えた後の服を回収して、この二人の所に届けさせろ。ああ、二人とも逆らえるとは思うな?王宮内でベルセリウスに捕獲された時点で、既に罪人扱いだ。だが私は優しいからな。この任務を上手くこなせたら、恩赦扱いで不法侵入はなかった事にしてやろう」
「――優しくねぇっ!それは悪辣って言うんだよっ‼」
ファルコに文字通り引きずられながら、兄の方が最後まで何かを叫んでいたが、途中から私は聞き流した。
885
685 忘れじの膝枕 とも連動!
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!
2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!
そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra
今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!
2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!
そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra
今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
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