聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
235 / 815
第二部 宰相閣下の謹慎事情

299 ロビー活動っぽくないですか?

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 コンティオラ公爵は「海鮮カルグクス」もどき、スヴェンテ老公爵はラムチョップを、それぞれおかわりをしたのか、まだ口にしている途中だった。

 いきなりフォルシアン公爵から視線を向けられて、表情が戸惑いに満ちている。

「ああ、コンティオラ公には、そちらの『海鮮バーミセリ』の話もありましたね」

 問われたコンティオラ公爵は、一度フォークとスプーンを置いて、軽く咳払いをした。

「ああ。これは多分、魚介類の漁を生業にする者たちの、手頃で良い食事となる。サンテリ伯爵領か、その隣のリギエーリ伯爵領の、海沿いの卸売市場近くにレストランを新しく作るのも良い気がしていますよ。この細長い〝バーミセリ〟の部分に関しては、ハーグルンド伯爵と相談する必要があるのかも知れないが……」

 初対面の時ほどの驚きはない。
 ないけれど、やっぱりちょっとお声は小さい。

 それでも聞き取れるようになってきたのは――慣れだろうか、やっぱり。

「それならコンティオラ公爵閣下、この〝バーミセリ〟の長さなり薄さなりを変えるって言うのは如何ですか?私の居た国だと、平打ちって言って、もっと薄めの平べったい〝バーミセリ〟もあったりするんですよ」

 あー…きしめん?と呟いたのは、シャルリーヌだ。
 私は無言で頷いておいた。

「逆でも良いですけどね?海鮮版はこのままで、野菜スープつけ汁版の方を平打ちにする、みたいな。とりあえずそうすれば、それぞれにレシピ申請が出来ますよね?」

「……なるほど」

 完全に前向きになっているコンティオラ公爵に、エドヴァルドが「ヤンネの心配をしたのは表向きか?」と、もはや苦笑いを浮かべている。

 コンティオラ公爵の方は、一考の余地はあるとばかりに頷いている。

「だが、その〝スヴァレーフ〟の素揚げにチョコレートがけをした方に関しては、その新しく作るレストランに置くのも良いかと思ったんだが……よく考えれば、アムレアン侯爵領からチョコレートを運ぶのは、費用やかかる日数を考えると、やや現実味に欠けると言うか……」

「まあ確かに、それこそ小型の『物質転移装置』を手に入れるなり何なりして、領同士で繋ぐ必要が出て来るだろうからね。費用対効果の面からいっても、微妙なところではある」

 フォルシアン公爵の方もそう言って頷いているので、私はふと、思い立ってエドヴァルドの服の袖を引いた。

「エドヴァルド様、ちょっとお耳を」

 そう言って片手で口元を見えないようにしたところで、気付いたエドヴァルドが、少し屈みがちになって、こちらに耳を寄せて来てくれた。

「新しい、バーレント領の木綿製品のお店に置くのは、ナシですか?」

 フェリクス・ヘルマン監修の、セカンドラインのドレス店に関しては、どこまで話して良いものやら判断がつかなかったから、とりあえずはエドヴァルドにだけ聞こえる様に聞いてみたのだ。

 シャルリーヌにまだ広告塔の話もしていないし、お店の候補地もまだだし、準備段階の初歩の初歩な事甚だしい。

 ただ、いつかはヘルマンさん「監修」ではなく、直々のデザインドレスを着てみたいと思う客層ならば、同じ様に「いつか〝ヘンリエッタ〟に行ってみたい」「いつも人がいっぱいで入れない」と思っていそうな気はする。

 エッカランタの〝スヴァレーフ〟を味わって貰うのも兼ねて、取り扱うのもアリなのではないだろうか。

「試食とお持ち帰りだけにして、ドレスが汚れると困るので、使い捨ての手袋を用意しておくとかすれば……」

「それならば〝ヘンリエッタ〟で調理だけして貰って、納品を新しい店に入れれば済む、か……」

 その様子に、声が聞こえなかった周囲の人達が、何か信じられないものを見ている目をしていた事は、私もエドヴァルドも気付かずじまいだった。

 かろうじてフォルシアン公爵が「イデオン公……?」と、恐る恐る声をかけてきたところで、エドヴァルドがスッと屈んでいた身体を伸ばした。

「いや……まあ、ここだけの話にして欲しいんだが、今、バーレント伯爵領の木綿を使った製品を色々と開発中で、近々専門の店を王都内に作るつもりをしている」

 エドヴァルドの発言に、何故かスヴェンテ老公爵以外の全員の目が、私の方に向いたんだけれど。

「皆の疑問は間違ってはいない。この部屋の料理と同様に、提案をしたのは彼女だ。バーレント伯爵も、次期伯爵となるディルクも、既にそれを受け入れて、開業の準備を進めている。どんな新製品になるかは、特許権に関わるから、ここでは伏せさせて貰うが」

「あー…まぁ、そもそも今日の料理も特許権案件だらけだろうが、基本的に土砂災害に遭ったハーグルンド領の為だからこそ、我々にも手の内を晒してくれたのだろうしね」

 納得をしたように頷きつつ「それで?」と、フォルシアン公爵が続きを促している。

 と言うかその前の、なんだ真面目な話か…って、どう言う意味ですか、公爵。

「この〝スヴァレーフ〟のチョコレートがけだが〝カフェ・キヴェカス〟では難しくとも、その新規店舗なら〝ヘンリエッタ〟で調理さえ頼めるなら、委託販売として置けるのではないかと――私ではなく、彼女が」

 エドヴァルドはエドヴァルドで、こちらがせっかく小声で言ったのに、盛大にネタばらしをされてしまった。
 もうこうなると、私は困った様に笑う事しか出来ない。

「エッカランタの〝スヴァレーフ〟なら、もともと定期的に我が公爵邸に入って来るからな。問題はサンテリ側の〝スヴァレーフ〟をどうするかと言うところだが……これはまあ、味が変わらなければ双方から一定量仕入れても良いだろうし、味に多少なりと違いがあるなら、食べ比べを兼ねて二種類作るのも面白いかもしれないし、その辺りは要相談だろうな」

「では近いうちにサンテリ領から仕入れた〝スヴァレーフ〟を公爵邸こちらに届けさせよう。話はそれからと言う事で良いだろうか」

「ああ。新店舗の開業準備がもう少し進めば、バーレント伯爵なり令息なりがまた王都へ来る。その時にこちらから話を通しておくと言う事で良いか?」

「なら、この〝スヴァレーフ〟のチョコレートがけは、少し持ち帰りをさせて貰っても?ウチの〝ヘンリエッタ〟の厨房でも試食をさせて、根回しをしておく必要はあるだろう」

 どうやらあっと言う間に、三公爵の間で話がまとまったっぽい。
 着々と裏側で話が進む――まるで「ロビー活動」だ。

「……レイナ嬢」

 と、そこへ、それまでじっと事の成り行きを伺っていたフォルシアン公爵夫人が話しかけて来た。

 扇を開いて、声を落として、ミカ君やシャルリーヌには聞こえない程度の囁き声が聞こえる。

「今〝ヘンリエッタ〟で試行錯誤している、オルセンのワインやユルハのシーベリーを使った商品や、今日ここに出てきた〝スヴァレーフ〟のチョコレートがけ、よければ今度のユティラの茶会でも出してみませんこと?」

「えっ」

「夫には私からお願いしてみますわ。ですからレイナ嬢も、今夜にでもイデオン公に話してみて下さる?皆、流行に敏感なご令嬢方ですから、感想を聞かせて欲しいと言えば喜んで味わって下さるでしょうし、レイナ嬢を知っていただく上でも最適なのではと、今日ここに来て思いましたわ」

「フォルシアン公爵夫人……」

「――エリサベトで構いませんわ」

 夫人はそう言って、傾城傾国とはかくや…と言った笑みを浮かべてみせた。
しおりを挟む
感想 1,453

あなたにおすすめの小説

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。