聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
上 下
98 / 803
第一部 宰相家の居候

192 姐さんの親友だそうで

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 オネエこと、レノーイ・リーフェフットと、あねさんことリーリャ・イッターシュは、それぞれがギルド長になる以前、今、パトリック元第一王子が配されている辺境伯領で、同じギルドにいた事があるとの話だった。

 ギルド長たるもの、一度は他国も見ておけとの不文律で、ギルド長になるためには、必ず他国での研修が必須になるとか。

 レノーイは、バリエンダール国で研修を受けた後、ギーレンに戻って来てすぐの配属だったらしい。

 ともかくもリーリャさんは、特にレノーイに宛てて紹介状を書いた訳ではなく、どこのギルド長が目を通しても良いようにと、多少はぼかした書き方で、私の身元を保証しようとしてくれていたらしい。

 当時、親友と言っていい「飲み仲間」だったと聞けば、妙に納得をしてしまう。

 ちなみに現・王都商業ギルド長であるシルデル・ファンバステンは、レノーイと王都の学園で同期だったと、これは後から副ギルド長に聞いた。

「ちょっと、何よコレ⁉」

 そしてタブロイド判の「恋愛小説」編集ダイジェスト版を呼んだレノーイが、まずは反応を示した。
 ある意味、予想通りに。

 女性の心を持つ男性、と言うところにレノーイが分類されるのなら、確実に「身分差」だの「立ちふさがる壁」だのと言った恋愛ハー〇クイン要素に揺さぶられると思ったのだ。

「どうですか、この編集版を読んだ後に書籍化がされれば、そちらの購入意欲ってそそられますか?」

「買うわよ!買うに決まってるわ!この公爵サマは、異国から無理矢理連れて来られたところを助けた、この少女を選ぶのよね⁉隣国で提示された地位も名誉も蹴り飛ばして、手に手を取って旅立つのよね⁉」

「良かったです。その反応がいただけるなら、心置きなくこの紙面は配布出来そうです。許可頂けますか?」

 私が、さりげなくネタばらしを回避して問いかけてきた事に、レノーイはちょっと口惜しそうだったけど。

「――待て、リーフェフット」

 そうしてこちらも、インテリヤクザ的な見た目そのままに、冷や水を浴びせかけるかのような声が発せられた。

「書き手の能力は素直に称賛しよう。通常ふつうなら確かに王都でだって売れるだろう。だが、この話の元ネタは大問題だ。余程のバカでなければ察しがつくぞ」

 王都商業ギルド長シルデル・ファンバステンが苦い表情かおで、手にしていた紙面を指で弾く。

「あら、実名じゃないんだからイイじゃない。実名を想像させる、この絶妙さ加減が読み手を煽るんじゃないの」

「絶妙どころか、ほぼあからさまじゃないか。下手をすれば王家に潰されるぞ!」

 シルデルから紙面を受け取った副ギルド長ロナートが、顔色を変えている。
 ただ、レノーイ自身は涼しい顔をしていた。

「いやだわ。それこそユングベリ商会とやらの自己責任じゃないの。だから敢えての初回無料配布なんでしょう?商売じゃないから、ギルドは無関係で通せる――いいえ、通せって言ってるのよねぇ?」

 さすが姐さんリーリャの親友は、タダモノじゃありませんでした。

 絶句して言葉を呑み込んだらしいシルデルに、私はとりあえず微笑わらっておいた。

「ちゃんと第二弾は、王立植物園監修で、街のお店の広告宣伝込みで園内図と開花情報紙を予定していますから、何もリスクだけを押し付けるつもりはないですよ?」

「あら、そうなの?」

「広告宣伝費に二の足を踏みそうなお店でも、今回のこの記事がもし爆発的に広がれば、イヤでもその効果は実感するでしょう?最終的に広告掲載費だけで印刷費を賄えるようになれば、結果として長く出版出来るようになるでしょうし。一回や二回で企画倒れするのは本意じゃないですからね」

「そこに先々、ユングベリ商会で取扱う商品の宣伝も混ぜていくなら、例え初回が全額持ち出しでも、アナタの所もいずれは儲けに変わるって寸法ねらいなのね」

「まあ、そんなところです。ちなみに第二弾に関しては、元はチェルハ出版からの内容提案で、植物園の研究施設サイドのキスト室長の許可は貰いました。一般開放区側の園長とは、明日、キスト室長を交えて話を詰める予定です」

「やぁね、仕事の早いコト。植物園のソルディーニ園長より、研究施設のキスト室長の方がおおやけの立場は上だから、キスト室長が許可を出したなら、事実上認可されたも同じコトになるわね」

 それは知らなかった。
 次男とは言え、辺境伯家の肩書がきっと効いているのだろう。 

「そーゆーコトなら、シーカサーリの商業ギルドは、初回のには目を瞑るわ。シルデルも、聞かなかったコトに出来るわよね?」

 話を振られた方は一瞬言い淀んでレノーイを睨みつけていたけれど、やがて折れたと言わんばかりに、大きく息を吐き出した。

「……まあ、話題になるだろうからと、ギルドに筋を通しに来た点は評価しておこう。王都店舗でのバラ巻きは許可しないが、シーカサーリで紙面を手にした連中が、王都に分には止めはしない。私に言えるのは、そこまでだ」

「いやね、相変わらず四角四面カタブツのオトコだわ」

「好き勝手したいからと、シーカサーリに留まった男にあれこれ言われる覚えはない。文句があるなら、おまえが王都のギルドに来い、リーフェフット。いつでもギルド長の地位は譲ってやるぞ」

「そんなモノ貰ったって、何の旨味も有難みもないじゃないのよ!」

 あの二人はいつもあんな感じですから、お気になさらず――と、ロナート副ギルド長がこっそり耳打ちしてきた。

 王都商業ギルド長は、事実上のギルドのトップだ。 

 そこの長ともなると、叩き上げの清廉潔白を絵に描いたような人種か、王家に擦り寄ろうとする権力志向の人種か、どちらかに傾くのが常で、シルデルは前者、それも歴代でも指折りの潔癖ぶりらしい。

 シーカサーリで出会ったのがたまたまだったとは言え、筋を通しに来たその姿勢は、ワケありなりに評価されたと言う事だろう。

「あ、ねえねえ、帰るまでに聞いておくわ」

 そこで、さも今思い出したとばかりに、レノーイがこちらを振り向いた。

?」

「……っ」

 目を瞠ったのは、私だけじゃなかった。

 シルデルも、ロナートも、同様の反応を見せて、レノーイを凝視している。

「……こちらのギルド長は、想像力が豊かですね」

 イエスともノーとも言わずレノーイを見れば、挑戦的な笑みを閃かせていた。

「あら、ありがと。いつかアタシもユングベリ商会の後ろ楯貰って、恋愛小説の作家デビューしようかしら」

「作品の持ち込みはいつでも歓迎しますよ。今回は少し、起承転結が足りないようですけど」

「いやだわ、手厳しい編集者だこと。流石にリーリャが目をかけているだけのコトはあるわ」

「有難うございます。じゃあ、お礼にネタバレを少しだけ」

 ハッキリ言って、私のウインクはレノーイにさえ遠く及ばないところだけど、とりあえずパフォーマンスとして、一応。

「某国の宰相様は、既に隣国に連れて来られていて、意に沿わない縁談を強要されていますよ。少女側からの『駆け落ち話』になるか、宰相様側からの『攫って自国に戻る』話になるか、結末に乞うご期待です」

 結末は言っていない。
 ただしこの紙面の物語が実話ベースだと、認めたに等しい。

「ええっ、そうなの⁉」
「リーフェフット!黙っておけば巻き込まれなかったものを……!」

 シルデルが慌てたところで、もう手遅れだ。

 彼らが「聞かなかった事」にしておくのは、これで困難になった。
 レノーイの方は全く堪えていないようだったけど。

「さっき言ったでしょ、シルデル。一文字違えば、それはもう実話じゃないし、ユングベリ商会の自己責任。アタシ達は楽しむだけよ」

「しかし……っ」

「結末楽しみにしてるわ。リーリャに宜しくね?たまには手紙でも寄越せって伝えておいてちょうだい」

 話は終わったとばかりに、ヒラヒラと手を振るレノーイに、私もニッコリ笑って一礼した。

「分かりました。――そこは
しおりを挟む
685 忘れじの膝枕 とも連動! 
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!

2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!

そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra 

今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
感想 1,407

あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。