聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
上 下
83 / 802
第一部 宰相家の居候

179 近頃〝鷹の眼〟が過保護な件

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「さぁさぁイザク、薬草の事をイロイロ教えて?とりあえず、王立植物園の研究施設にするのに、何も知らないって言うのはマズいでしょ?」

 夜。

 夕食を伯爵夫妻と共に頂いた後、書斎を借りて、ペシペシと机を叩いた私に、イザクは無言で眉をひそめ、様子を見に付いて来たファルコの方が、柳眉を逆立てて声をあげた。

「アンタこの前、俺とセルヴァンが調合の様子見せるのを却下したコト、何気に根に持ってたな⁉︎ドサクサ紛れに、黙って見てるより物騒なコトしようとしてんじゃねぇよ!」

「失礼ね!何だって、知らないよりは知っていた方が良いでしょう⁉︎何で私が勉強したからって、物騒な用途限定だと思うのよ!」

「テメェの胸に手を当てて考えやがれ!逆に聞くがな、物騒な事に使わないって言えんのか?あぁ⁉︎」

「エドヴァルド様の為限定だったら、ファルコだって使うでしょう⁉︎ご不満⁉︎」

「あのなぁ……!」

 どこの下町オカンだ!と言いたくなるような、心配ぶりである。
 
 そのうちお互い「がるる」とでも言いそうな勢いだったけど、さすがにイザクが、そこに割って入ってきた。

「そもそも、薬草の知識と言っても幅広過ぎる。一朝一夕でどうにかなるものじゃない。王立の研究機関ともなれば尚更だろう。俺はともかく、潜入するには無理があるぞ」

「潜入じゃなく、留学だよ?」

「俺らは屁理屈を聞きたい訳じゃない」

「出版関係の人を紹介して貰う為って言うのは、ダメなの?」

「それならトーカレヴァでも良い筈だ」

 今度はこっちが「がるる」となりそうな状況だったけど、私も折れないと見たのか、イザクの方がため息をついた。

「どっちにしても、今から薬草の勉強って言うのは無理がありすぎる。ただ、どうしても研究施設に行きたいなら…方法がない事もない」

「えっ」

 イザク、とファルコが睨んでいるのには構わず、そのまま話を続ける。

「俺なら薬草の研究で良いが、お嬢さんは変えた方が良い。そうだな…以前ヨンナに『予防医学』とやらの話をした事があるだろう。身体に良い野菜があるとかどうとか。その研究だと言えば、多少薬草の知識が不足していても、新たな領域の研究と言う事で、疑いの目は向きづらい筈だ」

 いつ、どこで聞いていたのかなんて疑問は、多分〝鷹の眼〟の間では無意味…なんだろう、きっと。

「もちろん、基礎の基礎くらいは頭に叩き込んで貰う。なまじ専門の施設で研究している様な連中と、同じ舞台ステージには上がらない方が良い」

 なるほど!と、私は頷いた。
 要はオタクに勝負を挑む様な真似をするなと言う事だろう。

「それだったら、一緒に研究施設行ってくれる?」

「だいぶ譲歩してるけどな」

 肩を竦めたイザクと、聞こえるように舌打ちするファルコには気付かないフリで、私はニッコリ笑って、もう一度机をペシペシ叩いた。

「……とりあえず、俺とお嬢さんはどう言う『設定』で『留学』する事になっているんだ」

「えーっと…私が商業ギルド発行の身分証カード持ってるから、フィロメナ夫人のご実家がある領の商会の跡取り娘ってコトで、薬草部門新設の為に、専属薬師と二人で研修に来た――的な?」

「また、ありそうな話だなオイ……」

 いっそ感心したようにファルコが呟いている。

「本業は銀取引ってコトにしておこうかと思って。まだ使い道決めてないけど、もしかしたらハッタリに効くかも知れないし」

「お館様がセルヴァンに命じて押さえさせてた銀かよ……」

「そうそう。無理言ってセルヴァンに保管庫から出して貰ったの。レイフ殿下が繋がっていたのって、パトリック元第一王子、現在の辺境伯でしょう?もしかしたら、エドヴァルド様に資金源を絶たれて崖っぷちかも知れない。今、それで辺境から身動きが取れないって言うなら、銀をチラつかせるだけでも、あらゆる所に牽制かけられるからね。実際に売るかどうかは、また別の話だから心配しないで」

「……まぁ良いけどな。どうせアンタが公爵邸に戻ってから、お館様にこっぴどく叱られるだけだろうから」

「――え」

「今更何だよ、その表情かおは。当たり前だろう?一人でどんだけ無茶してると思ってんだよ。公爵邸でじっとしてた日ってあるか?倒れなきゃ何でもいいってモンじゃねぇだろうが」

「いや…だって…不可抗力の積み重ねと言うか……」

「その言い訳、お館様にも聞き入れて貰えると良いな。まぁ、俺は無理だと思うけどな」
「………そうだな」

「えぇ…そんなぁ……」

 イザクにまで頷かれると、地味に傷付く。

「なら、研究施設行くの止めるか?俺は一人で行ってこいと言われても、いっこうに構わないが。何だったら、アンジェスに戻ったって別に誰も責め――」

「ダメ!それはダメ!だって、私ありきで計画立ててるもの!」

 イザクの言葉に、食い込み気味に私が反論すると、イザクはファルコと顔を見合わせて、大きなため息をついた。

「アンタ、そう言うところがな…残念っつーか…な…」

「多分『懲りる』と言う単語、行方不明のまま二度と戻らないんだろうな」

 まったく、失礼な〝鷹の眼〟ツートップたちだと思う。

「もう、良いから説明!ファルコはとりあえず、イザク以外の残りを連れて、エドヴァルド様が王宮なのか、他の貴族の館に招かれているのか含めて、今、どこにいるのかを探り出して?迎えに行くにも、まずは居場所を突き止めないと」

「ハイハイ。ま、そりゃそうだ。ただ、そう時間かからないと思うぜ?フィトとナシオ付けてるしな。ただ、居場所分かっても、近付けるかって言うと、別問題になるからな。王宮にだって似たような組織はある筈だからな」

「あー…分かった。場所が分かって、フィトとナシオに常時連絡が取れるようになったら、次の行動考えるようにする。あとシーグは…あの子も毒物劇物系の子だから、連れて行けば良いか」

「ここ、王都から馬車で30分くらいかかるんだろう?下手に王都行く方が身バレの危険が高くなるぞ。専属っつってんだから、大人しく連れ歩け」

 言い方は悪いながら、シーグの心配もしつつ、私とイザクが二人で残る事のないようにと、考えてもいたようだ。

「はーい。うわぁ、じゃあ私が一番薬学の知識ないじゃないーやばい、勉強しなきゃー」

「徹夜したけりゃすれば良いが、その時は戻ったらお館様に報告つげぐちなー」

 …まさかファルコの一言に、撃沈させられる日がこようとは。
しおりを挟む
685 忘れじの膝枕 とも連動! 
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!

2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!

そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra 

今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
感想 1,407

あなたにおすすめの小説

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一
恋愛
「遺言書を読み上げます」  宰相リチャードがラファエル王の遺言書を手に持つと、12人の兄姉がピリついた。  遺言書の内容を聞くと、  ある兄姉は周りに優越を見せつけるように大声で喜んだり、鼻で笑ったり・・・  ある兄姉ははしたなく爪を噛んだり、ハンカチを噛んだり・・・・・・ ―――でも、みなさん・・・・・・いいじゃないですか。お父様から贈り物があって。  私には何もありませんよ?

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。