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第一部 宰相家の居候
166 噛み砕いてみよう
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
私はとりあえず、今、公になっている情報だけをまず、ミカ君に説明してみた。
・ギーレンの第一王子が、婚約者以外の令嬢と不貞を働いて、公の場で婚約破棄をやらかした。その結果、第一王子は王位継承権を剥奪されて、アンジェス国との国境付近の辺境伯として王都から追いやられた。
・既にその令嬢とは破局していて、今、辺境伯の婚約者はレイフ・アンジェス殿下の庶子クレスセンシア姫である。
・婚約破棄をされた側である、ベクレル伯爵家の令嬢は、ギーレン国内での醜聞を避けるためにアンジェス国内の親戚宅の養女となり、それがボードリエ伯爵家である。
・ギーレン国の現国王ベルトルドには、正妃、第二夫人、子爵家に籍を置く愛妾と三人の女性がいて、正妃は元第一王子の母、第二夫人は新たに第一王位継承者となったエドベリ王子の母、愛妾の女性には男子はおらず、妙齢の令嬢が一人いる。
・エドベリ王子は、現ボードリエ伯爵令嬢シャルリーヌが、第一王子の婚約者だったころから令嬢の事が好きで、この機会に彼女を手に入れたいと思っている。
「ここまでは、分かるかな?」
…不貞だ愛妾だ庶子だ、その辺りは実際もう少し簡単な言い回しにしてみたけれど、なぜかミカ君と一緒に、ファルコにベルセリウス将軍、ウルリック副長まで頷いていた。
ここからは、陛下に聞いた事だと言う事にして
・エドベリ王子は、元は第二王子。自分が次期国王になるにあたっての実績が欲しい。そのために、アンジェス国を屈服させて、宰相エドヴァルド・イデオンを自分の側近にすると言う、目に見える成果を狙っている。
と言う風に説明をした。
オーグレーン家の話は、例えこの場でも言えない事だからだ。
その代わりに
・ただ側近にしたいと言っても説得力がないから、既に断絶している王家の分家を掘り起こして、愛妾の娘と結婚させて、王族の一員として厚遇する形で引き抜く。
――事を狙っているのだと、ここでは話をした。
「むう…まだ国王でもない一王子が、随分と勝手な事をしているのだな、ギーレンは……」
考え込むミカ君の代わりに、腕組みをしながらベルセリウス将軍が唸っている。
「ベルトルド国王は、今まで日陰の身だった愛妾の娘を表舞台に立たせてやれると、黙認しているみたいですね」
「ううむ……」
「公爵様、知らない人と結婚させられちゃうの⁉」
思わず、と言った態で声をあげたミカ君を宥めたのは、ウルリックだった。
「公爵様にはレイナ嬢がいらっしゃいますからね。たとえ王族にしてやると言われても、それはありえませんよ、ミカ殿。ただね、引き抜きをかける方だって、そうそう軽い気持ちでそんな提案はしませんから『引き受けろ』『嫌だ』って、今、向こうでずっと言い合いがされているんですよ。それでちょっと、戻って来るのが遅くなっているんです」
さすがは副長、理解が早い上にミカ君への説明も的確です。
「向こうも必死ですから、じゃあ何で公爵様が引き受けてくれないんだ――ああ、アンジェスにレイナ嬢がいるからだ!って考えちゃった人がいて、邪魔者は何とかしないと…って、公爵邸の下見を命じられたのが、さっきのあの子なんですよ。……ですよね、レイナ嬢?」
「……完璧です」
「えっ、レイナ様、じゃあどうなるの⁉」
「大丈夫よ、ミカ君。ファルコ達がいてくれるから。ただね、公爵邸でじっと待っていても、エドヴァルド様なかなか戻って来られないような感じだから『じゃあこっちから迎えに行こうか!』って思ってるの。迎えに行く事に関しては、陛下の許可も貰っているからね」
そこでしれっと信頼を投げて寄越すから、俺らも逆らえねぇんだよ…と、呟くファルコの肩をセルヴァンが軽く叩いている。
「それで、さっきのあの子にギーレン国内の道案内をして貰おうかと思って。あの子ね、エドベリ王子をすっごく、すっごく尊敬してるのよ。ベルトルド国王の三人の奥さんが、私の言ったような事を思っているかなんて、本当は分からないのよ?ただ、可能性は高いから、私はその心配を、あの子の中でわざと大きくしたの。私は一言も嘘は言っていない。相手に、こう動いて欲しいな…って思う方向に誘導をかけるのも、大事なコトなのよ?」
「……嘘は言っていない……」
「きっと、ミカ君のところのチャペックが、こう言う話し方は得意だと思うから、帰ったら詳しく聞いて、領で何かあったら実践してみると良いかも?」
「うん…分かった、レイナ様。教えてくれてありがとう!邪魔をしてごめんなさい」
ペコリと頭を下げたミカ君。
ああ、もうちょっと近くにいたら、頭を撫でてあげたのに。
「ううん、ミカ君のお願いだもの、当然!それに他の皆も、ミカ君と一緒に聞いて、より理解が深まったみたいだから、きっと、ミカ君に感謝だよ!」
視線を向けられたベルセリウス将軍とウルリック副長は、ちょっと困ったように微笑っていたけど。
道案内と聞いたファルコだけが、少し表情を険しくしていた。
「アイツ、ギーレンに連れて行ったら、道案内どころかそのまま王子のところに駆け込むんじゃねぇのか?」
「最終的にはそうなるだろうけど、なるべくそれをギリギリまで引き延ばすために、さっきあれだけ『殿下のため』を力説したんじゃない。どうせ今のままなら、真っすぐ王子のところに駆け込んだところで、二重スパイを疑われて門前払いになるのがオチだし」
「なあ…それ、あの子に一晩考えさせる意味あるか?そもそも選択肢ねぇんじゃ……」
「あの子が自分で納得をする過程が大事なのよ。まあ、それは夜の間にでも悩んで貰うとして、イザクの素直に喋るお薬で、仲間の洗い出しは先にお願いしたいんだけど、ダメ?」
「ああ、まあ、もうやってると思うぜ。アイツは俺よりもアンタと思考回路は近いからな」
「……なんだろう、素直に納得出来ないんだけど」
「細かい事は気にすんな。今日の内に、仲間は洗い出して潰しておいてやるってコトだよ。それよりアンタは、何人までギーレンに乗り込めるのか、さっさと確認しておいてくれよ?誰を公爵邸に残して、誰を同行させるか、決めないとならねぇからな」
「ああ、うん。それね、仲間を潰したら、誰か一人『生贄』に渡してくれる?私が狙われたって言う事が、つまりはエドヴァルド様が帰るに帰れなくなっている事の証明になるから、それがないと陛下にも動いて貰えないのよ」
生贄と言う言い方も、ちょっと物騒かと思ったけど、国王陛下の前に突き出すのだから、ある意味、それは正しく「生贄」であるとも言えた。
「なるほどな…なら、ある程度喋らせたところで声かけるわ――って、王宮か!チッ、アイツに声かけるしかねぇのか……」
実際にしっかり舌打ちをしているあたり、やっぱりまだ〝鷹の眼〟の皆は、王宮の護衛騎士の中となっているトーカレヴァ・サタノフに蟠りを残しているのだろう。
「彼の子爵家出身の肩書は使えるんだってば」
肩書だけでなく、エッカランタ伯爵の甥を名乗っても不自然じゃない程の、貴族としての立ち居振る舞いも、味方として考えれば強みなのだけれど。
「だからその点でも、彼にもギーレンに行くのには付き合って欲しいんだよね……」
「ソレ、決定事項か?」
「まあね」
眉根を寄せたファルコに、私も真面目に答える。
「チッ…しょうがねぇな……分かった、そう言う事なら同行者の一人は俺だ。俺らはまだ、アイツを信用しきっていないからな。いざと言う時に斬り捨てられる腕のあるヤツの中から、同行者は選ぶようにする」
そう断言されてしまっては、私もそれ以上は何も言えなかった。
私はとりあえず、今、公になっている情報だけをまず、ミカ君に説明してみた。
・ギーレンの第一王子が、婚約者以外の令嬢と不貞を働いて、公の場で婚約破棄をやらかした。その結果、第一王子は王位継承権を剥奪されて、アンジェス国との国境付近の辺境伯として王都から追いやられた。
・既にその令嬢とは破局していて、今、辺境伯の婚約者はレイフ・アンジェス殿下の庶子クレスセンシア姫である。
・婚約破棄をされた側である、ベクレル伯爵家の令嬢は、ギーレン国内での醜聞を避けるためにアンジェス国内の親戚宅の養女となり、それがボードリエ伯爵家である。
・ギーレン国の現国王ベルトルドには、正妃、第二夫人、子爵家に籍を置く愛妾と三人の女性がいて、正妃は元第一王子の母、第二夫人は新たに第一王位継承者となったエドベリ王子の母、愛妾の女性には男子はおらず、妙齢の令嬢が一人いる。
・エドベリ王子は、現ボードリエ伯爵令嬢シャルリーヌが、第一王子の婚約者だったころから令嬢の事が好きで、この機会に彼女を手に入れたいと思っている。
「ここまでは、分かるかな?」
…不貞だ愛妾だ庶子だ、その辺りは実際もう少し簡単な言い回しにしてみたけれど、なぜかミカ君と一緒に、ファルコにベルセリウス将軍、ウルリック副長まで頷いていた。
ここからは、陛下に聞いた事だと言う事にして
・エドベリ王子は、元は第二王子。自分が次期国王になるにあたっての実績が欲しい。そのために、アンジェス国を屈服させて、宰相エドヴァルド・イデオンを自分の側近にすると言う、目に見える成果を狙っている。
と言う風に説明をした。
オーグレーン家の話は、例えこの場でも言えない事だからだ。
その代わりに
・ただ側近にしたいと言っても説得力がないから、既に断絶している王家の分家を掘り起こして、愛妾の娘と結婚させて、王族の一員として厚遇する形で引き抜く。
――事を狙っているのだと、ここでは話をした。
「むう…まだ国王でもない一王子が、随分と勝手な事をしているのだな、ギーレンは……」
考え込むミカ君の代わりに、腕組みをしながらベルセリウス将軍が唸っている。
「ベルトルド国王は、今まで日陰の身だった愛妾の娘を表舞台に立たせてやれると、黙認しているみたいですね」
「ううむ……」
「公爵様、知らない人と結婚させられちゃうの⁉」
思わず、と言った態で声をあげたミカ君を宥めたのは、ウルリックだった。
「公爵様にはレイナ嬢がいらっしゃいますからね。たとえ王族にしてやると言われても、それはありえませんよ、ミカ殿。ただね、引き抜きをかける方だって、そうそう軽い気持ちでそんな提案はしませんから『引き受けろ』『嫌だ』って、今、向こうでずっと言い合いがされているんですよ。それでちょっと、戻って来るのが遅くなっているんです」
さすがは副長、理解が早い上にミカ君への説明も的確です。
「向こうも必死ですから、じゃあ何で公爵様が引き受けてくれないんだ――ああ、アンジェスにレイナ嬢がいるからだ!って考えちゃった人がいて、邪魔者は何とかしないと…って、公爵邸の下見を命じられたのが、さっきのあの子なんですよ。……ですよね、レイナ嬢?」
「……完璧です」
「えっ、レイナ様、じゃあどうなるの⁉」
「大丈夫よ、ミカ君。ファルコ達がいてくれるから。ただね、公爵邸でじっと待っていても、エドヴァルド様なかなか戻って来られないような感じだから『じゃあこっちから迎えに行こうか!』って思ってるの。迎えに行く事に関しては、陛下の許可も貰っているからね」
そこでしれっと信頼を投げて寄越すから、俺らも逆らえねぇんだよ…と、呟くファルコの肩をセルヴァンが軽く叩いている。
「それで、さっきのあの子にギーレン国内の道案内をして貰おうかと思って。あの子ね、エドベリ王子をすっごく、すっごく尊敬してるのよ。ベルトルド国王の三人の奥さんが、私の言ったような事を思っているかなんて、本当は分からないのよ?ただ、可能性は高いから、私はその心配を、あの子の中でわざと大きくしたの。私は一言も嘘は言っていない。相手に、こう動いて欲しいな…って思う方向に誘導をかけるのも、大事なコトなのよ?」
「……嘘は言っていない……」
「きっと、ミカ君のところのチャペックが、こう言う話し方は得意だと思うから、帰ったら詳しく聞いて、領で何かあったら実践してみると良いかも?」
「うん…分かった、レイナ様。教えてくれてありがとう!邪魔をしてごめんなさい」
ペコリと頭を下げたミカ君。
ああ、もうちょっと近くにいたら、頭を撫でてあげたのに。
「ううん、ミカ君のお願いだもの、当然!それに他の皆も、ミカ君と一緒に聞いて、より理解が深まったみたいだから、きっと、ミカ君に感謝だよ!」
視線を向けられたベルセリウス将軍とウルリック副長は、ちょっと困ったように微笑っていたけど。
道案内と聞いたファルコだけが、少し表情を険しくしていた。
「アイツ、ギーレンに連れて行ったら、道案内どころかそのまま王子のところに駆け込むんじゃねぇのか?」
「最終的にはそうなるだろうけど、なるべくそれをギリギリまで引き延ばすために、さっきあれだけ『殿下のため』を力説したんじゃない。どうせ今のままなら、真っすぐ王子のところに駆け込んだところで、二重スパイを疑われて門前払いになるのがオチだし」
「なあ…それ、あの子に一晩考えさせる意味あるか?そもそも選択肢ねぇんじゃ……」
「あの子が自分で納得をする過程が大事なのよ。まあ、それは夜の間にでも悩んで貰うとして、イザクの素直に喋るお薬で、仲間の洗い出しは先にお願いしたいんだけど、ダメ?」
「ああ、まあ、もうやってると思うぜ。アイツは俺よりもアンタと思考回路は近いからな」
「……なんだろう、素直に納得出来ないんだけど」
「細かい事は気にすんな。今日の内に、仲間は洗い出して潰しておいてやるってコトだよ。それよりアンタは、何人までギーレンに乗り込めるのか、さっさと確認しておいてくれよ?誰を公爵邸に残して、誰を同行させるか、決めないとならねぇからな」
「ああ、うん。それね、仲間を潰したら、誰か一人『生贄』に渡してくれる?私が狙われたって言う事が、つまりはエドヴァルド様が帰るに帰れなくなっている事の証明になるから、それがないと陛下にも動いて貰えないのよ」
生贄と言う言い方も、ちょっと物騒かと思ったけど、国王陛下の前に突き出すのだから、ある意味、それは正しく「生贄」であるとも言えた。
「なるほどな…なら、ある程度喋らせたところで声かけるわ――って、王宮か!チッ、アイツに声かけるしかねぇのか……」
実際にしっかり舌打ちをしているあたり、やっぱりまだ〝鷹の眼〟の皆は、王宮の護衛騎士の中となっているトーカレヴァ・サタノフに蟠りを残しているのだろう。
「彼の子爵家出身の肩書は使えるんだってば」
肩書だけでなく、エッカランタ伯爵の甥を名乗っても不自然じゃない程の、貴族としての立ち居振る舞いも、味方として考えれば強みなのだけれど。
「だからその点でも、彼にもギーレンに行くのには付き合って欲しいんだよね……」
「ソレ、決定事項か?」
「まあね」
眉根を寄せたファルコに、私も真面目に答える。
「チッ…しょうがねぇな……分かった、そう言う事なら同行者の一人は俺だ。俺らはまだ、アイツを信用しきっていないからな。いざと言う時に斬り捨てられる腕のあるヤツの中から、同行者は選ぶようにする」
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