聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
上 下
79 / 803
第一部 宰相家の居候

【ハルヴァラSide】ミカと家令の攻防(後)

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「イリナ様。それとご不在の間に、王都王宮から、隣国ギーレンの第二王子であるエドベリ殿下が、当国の〝扉の守護者ゲートキーパー〟が交代した事で、国家間を繋ぐ〝転移扉〟の再視察をされる為にお越しになるにあたっての、歓迎式典と夜会が開かれるそうで、伯爵家以上の五公17侯47伯、計69家に対しては出席義務を課すと言う――半ば強制と言って良い招待状が当家宛届いております」

 チャペックはそう言うと、執務机の引き出しから、丸めて紐で結ばれた羊皮紙を取り出して、母上に手渡した。

「とは言え、服喪中の場合など、どうしても出席困難な場合がある事も、王宮側とて承知しております。今回はハルヴァラ領も、言わば『王都を騒がせてしまった』側。無理に出席せずとも、咎められる事はないかと」

 わざわざもの凄く面倒くさい言い回しをする事で、むしろ行くなと、チャペックは言ってる気がする。

 せっかくハルヴァラ領に帰って来たのに、またすぐ王都に行くって言うのが、母上の身体に負担かも知れないって言うのもあるだろうけど、きっと母上が、事件の当事者として好奇の目にさらされる事を、チャペックは一番心配してる。

「そうね……でも、王宮からのこんな公式な書面に従わないって言うのは……」

 そうだ、いいこと思い付いた!

「ハイハイっ!じゃあ今回は、僕一人で行ってくるよ!」

「「は⁉」」

 勢いよく片手を上げた僕に、母上とチャペックの声が、キレイに重なっていた。

「何を言っているの、ミカ⁉」
「そうです、ミカ様!いくら何でも!」

「伯爵家以上の家には出席義務があるって、チャペック、今言ったよね?そうしたら、階下したにいるベルセリウス侯爵様も出席するよね?連れて行って貰えば良いんだよ!」

「資格があれば良いと言うものではありません、ミカ様!式典にしろ夜会にしろ、出席をされる場合には、各家には社交の義務と言うものが生じます。ベルセリウス侯爵様は侯爵様で、お家の為に動かねばならない事があるかも知れないのですよ?ずっとミカ様に付いていて下さるよう、お願いするなどと、もっての他です!」

 ダメな事はダメと、ちゃんと理由を言って叱ってくれるチャペックは凄く有難いんだけど、この時ばかりは、うーん?と、僕は小首を傾げた。

 僕はチャペックよりも長くベルセリウス将軍やウルリック副長と一緒にいるから…何となく、あっさりOKって言ってくれるような気がするんだけど。

「じゃあ、ちょうど良いから今から聞いてみようよ!」

 そう言って僕は、引きとめようとする母上とチャペックを振り切って、応接間に戻ったんだ。

 僕が、エドベリ殿下の歓迎式典と夜会があるって言ったら、将軍と副長は最初、怪訝そうに顔を見合わせていた。

「……恐らく、本部に戻ったところで、書類に招待状が埋もれているのではないかと」
「……だろうな」

 そっか、僕たちを送ってくれたりしてたから、まだ見てないんだ。

「ベルセリウス将軍は、参加するんでしょう?その時に、また僕も一緒に連れて行って欲しいんだけど、ダメ?」

「おお、が、こんなすぐのとんぼ返りで、夫人の体調は大丈夫なのか?ハルヴァラ領に関しては、欠席でも今回は誰もケチはつけんと思うがな」

 将軍も、チャペックと同じようなコトを後半言いかけてたけど、僕は都合よく前半を拾い上げることにした。

「ううん、母上には領地で休んでて貰うよ?王都に行くのは、僕だけ!」

「「は?」」

 今度は将軍と副長が、仲良く声を揃わせていた。

「伯爵家以上が一堂に会するんでしょう?僕が次期ハルヴァラ領の後継者だって言う事を皆に覚えて貰う良い機会だと思うんだ!母上が一緒だと、母上の父上のことで面白おかしく言う人がいるかも知れないけど、僕一人だと、そんなに酷い言葉をぶつける人もいないと思うんだ。きっと、ぶつける側が『幼い子供相手に…』って言われちゃうからね!」

 僕がそう言ったら、応接間の皆がそれぞれ驚いたような表情で、黙りこんじゃった。
 あれ、僕別におかしなこと言ってないよね?
 
 まあいいや。
 このまま将軍にたたみかけちゃえ!

領地ここは母上とチャペックがいれば大丈夫だし、僕が一人で王都で立派に『社交』出来れば、後継者として認められたってことにもなるだろうから、母上も周りの皆も安心だよね?もちろん、僕はまだ踊れないけど、将軍が誰かエスコートして踊るときには、会場の隅でおとなしく食事してるよ?」

 そりゃあレイナ様と踊りたいけど、僕の今の身長では、どうやったって無理だもの。残念だけど。

「踊る……」
「ミカ様、何てことを……」

 ウルリック副長が頭を抱えたのと、ベルセリウス将軍がすごくイイ笑顔になったのとが、ほぼ同時だった。

「うむ、いぞ!其方そなたの事は、私が式典でも夜会でも、責任をもって面倒をみよう!」
「「ベルセリウス侯爵様⁉」」

 悲鳴交じりの声をあげたのはチャペックと母上で、ウルリック副長は「ああ…コレまた、ルーカス様に怒られるパターンだ……」と、ブツブツ何か愚痴っていた。

 後で副長に聞いたら、ルーカス様って言うのは、本部に残って留守を任されている、ベルセリウス将軍の弟さんらしくて、カノジョさえ作らない将軍に、いつも雷を落としてるって話だった。

 ちなみにその弟さんは、もう結婚して、生まれたばかりの子供もいるとかで、それもあって余計に将軍が「仕事が恋人」状態で、自由奔放に過ごしているんだとも教えてくれたけど。

 そっか、王都滞在中は僕の面倒を見るって言うコトを楯に、面倒くさい「カノジョ作り」からは逃れようってコトなんだね!
 なんだ、じゃあ僕と将軍はお互いにイイコトがあるってコトだよね!

 僕はもちろんレイナ様にまた会いたいのが一番なんだけど、その次くらいには、母上とチャペックに、僕抜きで過ごす時間をあげたいとは思っているからね!

 僕は父上の息子だし、もう会えない父上の事が大好きだけど、母上とチャペックを見ていたら、きっと父上も、僕が背中を押すだろうなって、分かってくれると思うんだ。

 この先きっと母上には、チャペックがいた方がいいと思うから。

「うむ。将来のために他領の領主と顔合わせをと言う心意気も素晴らしい!任せておけ、少なくともイデオン公爵領内の領主たちとは夜会中にキチンと引き合わせてやろう!」

「ハイ、宜しくお願いします!」

 もちろん、ベルセリウス将軍にはは秘密。

 すっごい、疑り深い表情で僕を見ているウルリック副長にだけは、何か色々と僕の感情が漏れちゃってる気はするんだけど。

 敵に回しちゃいけない人って言うのを、これから見極めていかないとダメだよね。

 …でも今回は、チャペックより先回りが出来たかな?

 すぐに行くから待っててね、レイナ様!
しおりを挟む
685 忘れじの膝枕 とも連動! 
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!

2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!

そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra 

今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
感想 1,407

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

完結 穀潰しと言われたので家を出ます

音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。 「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」 遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。 こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。 その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

お前のせいで不幸になったと姉が乗り込んできました、ご自分から彼を奪っておいて何なの?

coco
恋愛
お前のせいで不幸になった、責任取りなさいと、姉が押しかけてきました。 ご自分から彼を奪っておいて、一体何なの─?

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。