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第三章 うたかた歌

この世とあの世をつなぐ場所(3)

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 高辻先生おばあちゃんの教え子。

 八瀬やせあきら――と、青年は名乗った。

『死者が、そうホイホイあの世とこの世を行ったり来たり出来ても困りますでしょう。生きてる間にロクなことをしていないものまで、お盆や言うて帰らせるのもおかしい話ですし』

『た、確かに?』

『だから六道まいり言うても実際には、死後裁判でそのうちの三道、修羅道・人道・天道に行った魂だけが、お盆の精霊迎えで子孫の家に帰ることを許されてるんですよ。一応、五山送り火まで言うことでね』

『な、なるほど?』

『ただ、その括りから外れる者も中にはいて……十王とその筆頭補佐官は、閻魔王の許可があれば、お盆時期に限らずあの世とこの世を行き来出来るんです。今回は結果的に精霊迎えの初日になりましたけど、一応、許可を取って僕はウロウロしてたわけです』

『ええと……じゃあ八瀬さんは、どなたかの筆頭補佐官だと……』

 脳が理解を拒否しているとは言え、話を聞いている限りはそう言う結論にしか辿りつかない。

 そして「よくぞ聞いてくれました!」と、八瀬青年は笑った。

『冥界の王、地獄の王。人間の死後に善悪を裁く者として、十王の中でも中心的な立ち場に立つ王。そんな閻魔王様の今の筆頭補佐官が僕、八瀬彰なんですよ』

 何でも先代の閻魔王がそろそろ輪廻の輪に入りたいと言い出して、協議の末に当時補佐官だった小野篁卿が閻魔王に昇格し、空席になった筆頭補佐官に彼が抜擢されたと言うことらしい。

 ……夢ならそろそろ醒めてくれないだろうか。

 何だか「閻魔王様LOVE」とでも書かれたハチマキでも巻いて、ドヤ顔でふんぞり返っている青年の姿が思わず目に浮かんでしまった。
 あるいは、ぶんぶんと尻尾を振るワンコ系従者か。

 菜穂子は八瀬青年の視界に入らなそうなところを自分で思い切りつねってみたものの状況は変わらず、どうやら諦めて質問を続けるしかないようだった。

『ええっと……十王言うことは、閻魔様以外にあと九人王様がいると……?』

『そうなんですよ。仏教関係者以外に事細かに説明をしたところで覚えられへんのは自明の理なんで、僕が地上でとある博物館の関係者の人から聞いた、上手い説明を引用させて貰うとですね――』

 浄土か地獄か、死者は10人の王が裁判官となる10の法廷で、順に裁かれて行くらしい。

 最初の七日、二度目の七日、三度目の七日……と、四十九日までは七日ごとに一人ずつ王を訪ねて生前の行いを調べられるそうだ。その後は百箇日、一周忌、三回忌で十人の王の裁きは終了すると言う。

『この中で、五度目の七日に相対するのが閻魔王様。現代で言うところの地裁が考え方としては近いみたいですね。その後六、七と高裁・最高裁に相当する部署の王と会って、納得いかなければ八~九と再審請求の部署へ訴え出て、最後の十王のところで結審……と』

『裁判所……』

『だいぶ噛み砕いた説明やとは思いますが。十王全員と会うまで行先が決まらないと言うわけではなく、閻魔王様の時点でほぼほぼ固まってますからね。残りの期間は十王結審までの内定者研修で、行く予定の部署に放り込まれるようなもん、と思うてもろたら』

 早々に有罪となった場合には、十人の王全員に合わないまま、刑罰を受けることもあるとか。

『で、正規ルートなら一番目と二番目の王に会ったあと、賽の河原に到着するんですが、今回は非常事態につき、かつてたかむら様がお通りになられた冥土通いの井戸ルートを、いわゆる近道ショートカットで通って貰いました』

『井戸……って、どうやって……』

『まあ、この時期だから出来たことと言えるかも知れませんが』

 未だ事態を半分も呑み込めていないであろう菜穂子に、八瀬青年は、笑ってさらに追い打ちをかけた。

『体外離脱、して貰いました。それやと井戸も通れますのでね』
『――はいっ⁉』



 ……再び思う。
 夢なら、そろそろ醒めてくれないだろうか。
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