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序章 さいた さいた

お上人(しょうにん)さん

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 法要は故人を偲ぶ場。
 故人を供養すると言う点では、宗派が違ってもそこに大きな違いはないらしい。

 初七日、四十九日、百か日と法要が執り行われるのも同じ。

 更に最近では、遠方だったり仕事だったりで集まりづらい親族の事情も鑑み、お通夜の際に初七日の繰り上げ法要を行ったり、四十九日と百か日を取りまとめて法要を行ったりと、時代に合わせて法要のあり方も変化しつつあるのだと、お上人しょうにんさんは教えてくれた。

 父にも仕事がある。
 母と相談の結果、深町家としてもこの場で繰り上げ法要にしようとの話になった。

 だからと言って、決して薄情だとか、浄土へと向かうのに差し障りがあるとか、そう言うことでもないんだそうだ。

『ご遺族が亡くなられた方のために供養する。それによって積まれた「徳」が、四十九日に死後の行先を決める際の指標になると、日蓮宗われわれは考えているんです』

 そう言ったお上人しょうにんさんは、使い込まれた小さな本を家族それぞれに手渡した。

 全部ではないが、その中の何ページかを、法要の合間にお上人しょうにんさんと共に読み上げるためらしい。

『法要の時にはこれを読み上げて貰いますけど、それ以外の時にはいつでも手を合わせて「南無妙法蓮華経」と唱えて貰うたらよろしい。最終的に浄土に行けたかどうかと言うのは、現世こちらからは確かめようもないんですけど、自分達の気持ちが「徳」となって、大事な人をあの世へと送り出した――そう信じて区切りをつけるのが、四十九日やと日蓮宗われわれは考えてますから』

 こうすれば、魂があの世へ行ける――などと断定されるよりも、それはよほど菜緒子の中でもストンと納得がいったのだが、母の方はどうやら少し思うところがあったようだ。

菜穂子あんたのおじいちゃんの時にも思ったけど、祈っても祈っても、法要済んでも、あの世に行けたかどうか分からへんって言うのはなぁ……』

 祖父と、今回の祖母の法要しか記憶にない菜穂子とは違い、母の場合は自身の実家の宗派が違ったらしいから、その辺りにも違和感の原因はあるのかも知れない。

『お母さん……実際、あの世に行けたかどうかなんて、うちらが生きてるうちには誰にも分からへんことない? あの世に行ったと信じましょう、って、別に間違ったこと言うてはらへんと思うけど』

『それは、そうなんやけど……』

 逆に、何日忌法要がどうだと色々と乗っけられて、その度にお布施を払わされるよりはいいだろうに。

 さすがにそれは、この場では多方面に失礼だと思うので、菜穂子は口を閉ざす。

『四十九日の法要の後は、年忌法要言うて、浄土に行かはったであろう故人を偲ぶ気持ちに重きを置いた法要をやらせて貰うんです。今のご時世、何回忌まで法要をやらはるかは各家の判断になってますけどな。要は明確な決まりはないんですわ』

 三十三回忌とか五十回忌とか確かに聞くが、直接故人を知る人が皆亡くなってしまえば、故人は「先祖の一人」となって、お盆に祀られるのが一般的になるようだ。

『まあ、なかなかそれすらままならへんご家庭も増えてきましたさかいにな。時代言うのは難しいもんですな』

 お上人しょうにんさんはそう言って、ほろ苦い笑みを垣間見せた。

『ほんなら、お経あげさせて貰いましょか』

 祖母を知る人たちが手を合わせに来てくれるであろうその前に、菜穂子らは、家族だけで先に手を合わせた。

 お通夜とは、また別だ。

 元々お上人しょうにんさんは、檀家としての深町家、すなわち祖父とも祖母とも昔からの顔見知りだった。

志緒しおさん、毅市きいちさんに会えてはったらよろしいんですけどなぁ……』

 だからきっとその呟きは、日蓮宗の上人しょうにんとしてではなく、一個人としての呟きなんじゃないかと、聞かずとも菜穂子は思ったのだった。













◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


いつも読んでいただいてありがとうございます!

上人しょうにんさんのお話に関しては、あくまで作者が聞いた話であり、そのお上人しょうにんさん個人の解釈である可能性もあります。

全ての日蓮宗がこの考え方という訳ではありませんので、その辺り柔軟に捉えていただけると幸いですm(_ _)m
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