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「気弱と言ったら失礼だが、あの佐山君、佐山さんがあそこまで起こるとはね。」

運転席で中邑さんの旦那さんが少し俺の行動に感心したような口ぶりだ。

「あなた、殴り合いの喧嘩を肯定してどうするの?
佐山さんがアキト君の病院の面会時間に間に合わないかもしれないと思って、佐山さんを迎えに行ったのよ。
私が機転を利かせなければ、あのままアキト君の時のような大変な事件に発展したかもしれないじゃない。」

その通りだ。
奥さんの話を聞いて俺はギクリとした。

「まぁ、そりゃそうだ。
でも話を聞いた限り、その高橋とやらに佐山さんはとんでもない虐めを慢性的にやられていたわけだから、あのくらいはやり返して良かったと思うよ。
しかも待ち伏せしてまでクビになった会社に来るほどの執念深さだ。
やり返さなきゃ、かえって危険だった。」

産業道路をレクサスのウインカーがリズミカルにカチカチ鳴って少しだけ心地良く感じる。
旦那さんの愛車がワゴンRを軽やかに追い抜いた。

「酷いわよね。こんなに優しい佐山さんを苦しめるなんて…。」

後部座席に座る俺を振り返って奥さんが言った。

「男は敷居を跨げば7人の敵ありってね。
何を隠そう、この私も血気盛んな頃はだね~。」

「はいはい、あなたの武勇伝は聞き飽きておりますから。」

「ははは。3人で話していたらあっという間に着いたな。」

「けっこうなスピードを出していたからよ。」

俺は翔馬の時だけでなく、今回もまた中邑さんご夫妻に助けられた。

俺はトオル達とのゴタゴタで自分でも気付かぬうちに短期間で逞しくなった。

しかし、正直いって奥さんの提案で俺を迎えに来てくれなかったら、旦那さんが仲裁に入ってくれなかったら、俺は憎き高橋を殺めていたかもしれないんだ。

そうなればアキトや翔馬にも合わす顔はなかったし、俺の為に動いてくれた上司の八木と宮本を酷く落胆させてしまった事だろう。

お二人には心の底から感謝するばかりだ。






















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