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「佐山、佐山くーん。ここだよー。」
男の声がどこからともなく聞こえてくるが、灯りがほぼない駐車場だ。

俺は目を凝らして辺りを見渡した。

「相変わらず鈍臭い奴だな。しゃーない。今そっちに行ってやるよ。」

俺はハッとした!
この声は…まさか!?

"バァン"

車のドアを強く閉める音がした。
その方角へ目をやると暗闇から、ガニ股で歩く男がこちらへやってきた。

やはり声の主は仕事をクビになった高橋だった。

「よぉよぉ元気だったかい?お前が出勤する情報を佐藤のバカチンから聞いて待ってたんだよ。」

高橋は細い目で俺を睨む。
顔を合わせなかった間に、無精髭が伸びてだいぶ汚らしくなっていた。

「随分、楽しくやってんじゃんかよ。
さっき八木や宮本がお前とあんな風に話してんの初めて聞いたぜ。
あんな愉快な奴らだったんだなーって。
特に八木なんざ俺にはいつも能面みてぇなツラして話してたくせによ!」

俺は気付かれないように深呼吸をした。

「俺はこんなクソみてぇな職場はいつ辞めてやっても良かったんだけどよ、それでもクビは癪に障るんだよ。
しっかもお前のようなウンコが原因でなんて我慢なんねぇ。」

「あんた、いったい何がしたいんだ?」

「ほっほぉー!これは驚き桃の木山椒の木、20世紀梨ってか?
ちょいと会わなくなった間に、随分と大層な口をきくようになったじゃない。
あんなにビビりちらす超弱虫がよ!
おまえ、あれか?ドラゴンボールにでてくる"精神と時の部屋"にでも入って修行を積んだんか?」


精神と時の部屋はある意味正解かもしれない。
俺は思わず含み笑いをした。

「なんだぁ?てめえのその態度は!?
ダボが調子くれやがって!
まぁ、いい…。
俺もちっとはお楽しみが欲しいのよ。
よく聞け。
今ここで俺に殺されたくなきゃ黙って言う通りにしな。
まずてめえも、ここの仕事を辞めろ!
俺がクビになってキレそうなのに無能な佐山がのうのうとしている。
クッソむかつくんだよ!!
さっきも言ったが、マジで俺に殺されたくなきゃ、八木に今すぐ電話して退職しろや。
お前もそこまでバカじゃないからわかるよな?
もし、それでも仕事を辞めないなら3つの条件がある。
1つ目、今から人目のつく繁華街で大声で叫びながら勃起したチンコを出して現行犯逮捕される。
2つ目、ここいらにヤクザの事務所があるだろ?そうか知らねえか。まあいいや。そこに突っ込んで暴れろや。
最後の3つ目はもし、お前に彼女か、姉ちゃん、妹がいるんなら俺によこせ。たっぷり可愛がってから妊娠させてやる。
けどよ、どうせ女の乳さえ揉んだこともない童貞だろ?そんな情けないお前に彼女はいねーよな。」

話終えた瞬間、俺の右手の拳が高橋の顎をとらえた。

顎を押さえたまま、地べたに尻餅をついた高橋にストンピングを加える。

「ぐぇ、ごぼぉ。」

声にならない声を出して高橋が腕を伸ばし待ったをかけるような素振りで制止を促してくるが俺はストンピングを止めなかった。

昨夏、職場で行われた納涼祭の時に使用されたカラーコーンが、誰も片付ける事なく放置されている。
そのカラーコーンの先端部分を高橋の首にめり込ませるかのように押し付けて体重をかけた。


「がぁぁぁ。」
首を極められて苦しむ高橋の細い瞼から涙が出ている。

「弱虫はてめえだよ!いつもいつも、陰湿な事ばかりしやがって!
俺はなぁ!お前のせいでどれだけ苦しめられたかわかってるのか!?
まだこんなもんじゃ終わらねえよ!」

俺は更に体重をかけて力を加えていく。

「佐山君、佐山さん!?」
後ろから声が聞こえてきた。
聞き覚えのある、とても優しい男性の声だ。



















































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