ザ・グレート・プリン

89

「お疲れ様です！」
俺達は定時に上がって会議室兼ロッカールームで着替えた。

八木がこの後、宮本と一緒に自宅で食事をしないかと誘ってきたが俺は丁寧にお断りした。
誘われた事はとても嬉しかったが、まだアキトは病院で入院している。
現在も大変、お世話になっている中邑さん夫妻は毎日、見舞いに行くと話しているし翔馬もきっとメデューサに連れられて病院に行っているだろう。

せっかく出来た縁だ。

メデューサについては、まだ信じちゃいないが翔馬の為にもメデューサを監視するつもりだ。


「そっか。わかったよ。佐山は病み上がりみたいなもんだしな。
俺としても、無理させんのは嫌だ。
また機会があったらウチ来いよな。」

「八木さんの奥さんは美人だし料理がめっちゃ得意なんすよ！佐山さんも食べたらビビるはずっす！」

「そうそう、もっと褒めろ褒めろ。俺の嫁を。」

「ただ、あんなに美人なのになんで八木さんと結婚したかは謎っす。きっと弱みを握られたのかも。」

「なんでだよ！俺の魅力だろうが！」
八木は宮本の胸にプロレス技の逆水平チョップを喰らわせた。

まるで息の合った漫才コンビのネタを見ているようで、俺は大口を開けて笑った。

2人は俺と別れて駐車場方面に向かって歩いて行った。
嬉しい事に見送る俺に対して八木はクラクションを鳴らす。
助手席に座っている宮本は窓を開けて「また明日！」と言ってくれた。

これだ。

俺が理想としていた職場は。

このまま余韻に浸って職場の駐車場で嬉し泣きしていたかったが、スマホで時刻を確認すると面会時間に間に合わなくなってしまう。

気持ちを切り替えて走り出そうとした時だ。

"佐山"と俺の名前を呼ぶ男の声が聞こえる。