ザ・グレート・プリン

72

目を覚ましてから、すぐカーテンを開ける。
それでも部屋は真っ暗なままだ。

スマホで時間を確認すると6時ピッタリ。
本来なら春の爽やかな朝が工事中の為、朝陽は一切入り込んでこない。

一瞬、夜が永遠に続いているのかと錯覚してしまった。



歯磨きをしながら、このあとの事をーーーー解決する為に危険な場所に飛び込んでいかなきゃならない。
失敗は許されないだろう、でも成功なんてあるのかな？

なにか策を練っておかなきゃならないのに気の利いたプランなんて何も思いつかない。

洋服に着替えて朝食を食べようと冷蔵庫を開けて、ベーコンを手に取る。
ベーコンをパンに挟んで甘ったるいコーヒーで流し込むのをイメージしたが、食べる気が失せた。

自分ひとりなら外で済ませてもいい。


人工的な明かりの下、テレビをつけると40代のお笑い芸人が若手女優とホテルに宿泊していた事を伝えている。
どちらも好感度が高くて、CMにも出ずっぱりだ。
お笑い芸人は5年前に盛大な挙式をしており現在は3歳の息子もいる。

昨晩までは、どのテレビメディアも戦争をしている外国の悲劇を取り上げていた。　
そのなかでも教会で結婚式を挙げていた新郎新婦を狙い撃ちしたかのようにミサイルが教会を、幸せも、2人の未来も全てぶっ壊した。

その映像をスタジオで観ていた脳科学者やグラビアアイドル、ニューハーフタレントらが口々に怒りや悲しみを滲ませていた。

どの局にチャンネルを合わせても、お笑い芸人と若手女優の密会ばかりが放送さている。
あれほど戦争の愚かさや生命の尊さを説いていた脳科学者は、朝の情報番組にいつも通り出演してゴシップネタにケラケラ笑いながら意見を述べていた。


7時を回ると天気予報が始まった。
いつもの、お天気お姉さんが登場して今日の関東地方の天気について話している。

昨日までなら翔馬が寝ぼけ眼で起きてくる時間だ。

「深夜から翌日の正午まで強い雨が降るでしょう」

これといった妙案は思い浮かばないまま出掛ける時間になった。

俺はテレビを消した後に部屋の電気も消した。
玄関ドアから漏れてくる朝の光を頼りにシューズボックスに貼り付いている鏡で自分を見る。

薄暗いせいか、鏡に映った鋭い目つきに凝視できなくなり目を逸らした。