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テレビの情報番組がお天気コーナーの時間になった。
平日の朝、このお天気コーナーを観ている時は仕事に行く準備も終えて出掛ける寸前だ。
いつもの可愛いお天気お姉さんが首都圏の天気を伝える。
無地の白いシャツと薄いピンク色の花柄があしらわれたロングスカートが春に相応しい装いで彼女にとても似合っている。
テレビを観ている俺の横から翔馬は眠い目を擦りながら洗面所へ向かった。
有給休暇2日目の火曜日。
今日から俺達が住むアパートの工事が再開された。
作業員の方々が補修工事をする為、夕方まで騒音が発生する。
俺は昨日より早く起床。
自分の意思ではないのに強制的に叩き起こされるのが嫌いだからね。
「おはよう。」
身支度が済んだ翔馬は俺の挨拶にコクリと頷いた。
もしかしてまだ昨晩の事故を引きづってるのかな?
俺はテレビを消してキッチンへ向かった。
「今朝は和食だよ。やっぱ俺達日本人はお米と味噌汁だよな!」
大人用の椅子によじ登っている間、タイミングよく炊飯器から熱々のご飯をテーブルに置いた。
「あれ?いつもの元気がないなぁ。昨日、プリンをゴミ箱にうっかり捨ててしまった事をまだ悲しんでるの?」
俺の問いにご飯を食べながらまた頷くだけだ。
「でも、俺はプリンを作ったんだけどな。それもたっぷり4人前だよ!」
一瞬、嬉しそうな表情を浮かべたもののすぐ暗い表情に戻った。
本当はすぐ手作りプリンを食べたいんだろうな。
でも翔馬なりにそれは卑しい事だと思ったのだろう。
どんな理由であれ本人の前で笑っては失礼だと思い、笑いを堪えて湯気の立つ味噌汁を箸で軽くかき混ぜてからズズズっと啜った。
海苔、卵焼き、シャケ。
定番の朝食を我ながら美味しく作れたと思う。
特に卵焼きはふんわり焼けて甘味も程よく翔馬もペロリと平らげた。
食欲はあるんだなと思うとまた笑いが込み上げてくる。
俺の場合、辛い出来事があれば真っ先に食欲に悪影響が出てしまう。
高橋やメデューサ達のような輩のせいでキリキリ胃が痛くなるんだ。
食器を手際よく片付けていると翔馬がズボンを引っ張ってくる。
「プリンは…?」
翔馬の一言に、ついに俺は我慢できなくなって笑ってしまった。
「どうしてわらうの?」
下から俺を不思議そうに見つめている。
真上から見下ろすと翔馬の天使の輪がハッキリわかる。
「よし!食後のデザートにプリンを食べるか。」
そう言ったあと翔馬の問いを無視してプリンのある冷蔵庫を開けた。
「やったぁ!」
俺のズボンから右手を離して喜んだが、また悲しい顔を浮かべている。
まだ翔馬は侘び寂びを重んじている。
冷蔵庫から手作りプリンを取り出す。
見た感じ弾力性も色艶も良いから成功したと思う。
俺はウキウキしながらテーブルにプリンを載せた。
「おぉぉ!」
翔馬は声を出して喜んでいる。
さっきのような照れ隠しはもうする意味がなくなったみたいだ。
俺も真似をして、「おぉぉ!」と言いながらスプーンでプリンを押して遊ぶ。
ひと口食べた感想も「おぉぉ!」だった。
自画自賛になってしまうけれど、とても美味しいプリンが作れたよ。
翔馬もひと口食べた後の感想は「おぉぉ!」だったから、2人で顔を見合わせて笑った。
手作りプリンを食べながら翔馬が笑顔で聞いてきた。
「ねぇね?このおいしいプリンはね?なんていうね、おなまえなの?」
「名前?」
「うん。」
上下に首を2回振った。
「これはだね~あの~。」
「おなまえあるでしょ?」
なぜだか自分でもわからないが、手作りプリンの名前がないって伝えてしまうのは直感的にさびしい事のように感じたんだ。
俺はなるべく即答したくて頭をひねって考えた。
「ザ…。」
「ざ?」
「ザ…グレイテスト、いやグレート…うんとぉ」
翔馬がスプーンでカラメルの部分も美味しそうに食べているのを見ながら、俺は手作りプリンの名前を伝えた。
「ザ・グレート・プリン!」
「えっ?」
「ザ・グレート・プリンだ!」
「へんなおなまえ!」
翔馬は大笑いしている。
笑われちゃうほどそんなにネーミングセンスがないかなって、ちょっと不安になったけど何の印象にも残らない名前よりずっと良い。
「ねぇね?これからね、グレートってよんでいい?」
「もちろん!ちゃんと名前があるんだからね。」
「やったぁ!じゃあこれからグレートだよ。」
それから数十分後、グレートという呼び名は手作りプリンではなく俺に対する呼び名であった事に気づき、俺は困惑したが、これを機に俺自身も"翔馬"と本人を前にして呼べるようになった。
プリンを食べ終わってから、まもなくアパートの補修工事が始まり騒音から逃れる為、俺達は行き当たりばったりで水族館へ行き楽しい時間を過ごした。
平日の朝、このお天気コーナーを観ている時は仕事に行く準備も終えて出掛ける寸前だ。
いつもの可愛いお天気お姉さんが首都圏の天気を伝える。
無地の白いシャツと薄いピンク色の花柄があしらわれたロングスカートが春に相応しい装いで彼女にとても似合っている。
テレビを観ている俺の横から翔馬は眠い目を擦りながら洗面所へ向かった。
有給休暇2日目の火曜日。
今日から俺達が住むアパートの工事が再開された。
作業員の方々が補修工事をする為、夕方まで騒音が発生する。
俺は昨日より早く起床。
自分の意思ではないのに強制的に叩き起こされるのが嫌いだからね。
「おはよう。」
身支度が済んだ翔馬は俺の挨拶にコクリと頷いた。
もしかしてまだ昨晩の事故を引きづってるのかな?
俺はテレビを消してキッチンへ向かった。
「今朝は和食だよ。やっぱ俺達日本人はお米と味噌汁だよな!」
大人用の椅子によじ登っている間、タイミングよく炊飯器から熱々のご飯をテーブルに置いた。
「あれ?いつもの元気がないなぁ。昨日、プリンをゴミ箱にうっかり捨ててしまった事をまだ悲しんでるの?」
俺の問いにご飯を食べながらまた頷くだけだ。
「でも、俺はプリンを作ったんだけどな。それもたっぷり4人前だよ!」
一瞬、嬉しそうな表情を浮かべたもののすぐ暗い表情に戻った。
本当はすぐ手作りプリンを食べたいんだろうな。
でも翔馬なりにそれは卑しい事だと思ったのだろう。
どんな理由であれ本人の前で笑っては失礼だと思い、笑いを堪えて湯気の立つ味噌汁を箸で軽くかき混ぜてからズズズっと啜った。
海苔、卵焼き、シャケ。
定番の朝食を我ながら美味しく作れたと思う。
特に卵焼きはふんわり焼けて甘味も程よく翔馬もペロリと平らげた。
食欲はあるんだなと思うとまた笑いが込み上げてくる。
俺の場合、辛い出来事があれば真っ先に食欲に悪影響が出てしまう。
高橋やメデューサ達のような輩のせいでキリキリ胃が痛くなるんだ。
食器を手際よく片付けていると翔馬がズボンを引っ張ってくる。
「プリンは…?」
翔馬の一言に、ついに俺は我慢できなくなって笑ってしまった。
「どうしてわらうの?」
下から俺を不思議そうに見つめている。
真上から見下ろすと翔馬の天使の輪がハッキリわかる。
「よし!食後のデザートにプリンを食べるか。」
そう言ったあと翔馬の問いを無視してプリンのある冷蔵庫を開けた。
「やったぁ!」
俺のズボンから右手を離して喜んだが、また悲しい顔を浮かべている。
まだ翔馬は侘び寂びを重んじている。
冷蔵庫から手作りプリンを取り出す。
見た感じ弾力性も色艶も良いから成功したと思う。
俺はウキウキしながらテーブルにプリンを載せた。
「おぉぉ!」
翔馬は声を出して喜んでいる。
さっきのような照れ隠しはもうする意味がなくなったみたいだ。
俺も真似をして、「おぉぉ!」と言いながらスプーンでプリンを押して遊ぶ。
ひと口食べた感想も「おぉぉ!」だった。
自画自賛になってしまうけれど、とても美味しいプリンが作れたよ。
翔馬もひと口食べた後の感想は「おぉぉ!」だったから、2人で顔を見合わせて笑った。
手作りプリンを食べながら翔馬が笑顔で聞いてきた。
「ねぇね?このおいしいプリンはね?なんていうね、おなまえなの?」
「名前?」
「うん。」
上下に首を2回振った。
「これはだね~あの~。」
「おなまえあるでしょ?」
なぜだか自分でもわからないが、手作りプリンの名前がないって伝えてしまうのは直感的にさびしい事のように感じたんだ。
俺はなるべく即答したくて頭をひねって考えた。
「ザ…。」
「ざ?」
「ザ…グレイテスト、いやグレート…うんとぉ」
翔馬がスプーンでカラメルの部分も美味しそうに食べているのを見ながら、俺は手作りプリンの名前を伝えた。
「ザ・グレート・プリン!」
「えっ?」
「ザ・グレート・プリンだ!」
「へんなおなまえ!」
翔馬は大笑いしている。
笑われちゃうほどそんなにネーミングセンスがないかなって、ちょっと不安になったけど何の印象にも残らない名前よりずっと良い。
「ねぇね?これからね、グレートってよんでいい?」
「もちろん!ちゃんと名前があるんだからね。」
「やったぁ!じゃあこれからグレートだよ。」
それから数十分後、グレートという呼び名は手作りプリンではなく俺に対する呼び名であった事に気づき、俺は困惑したが、これを機に俺自身も"翔馬"と本人を前にして呼べるようになった。
プリンを食べ終わってから、まもなくアパートの補修工事が始まり騒音から逃れる為、俺達は行き当たりばったりで水族館へ行き楽しい時間を過ごした。
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