ザ・グレート・プリン

スーパー・ストロング・マカロン

文字の大きさ
上 下
63 / 92

63

しおりを挟む
スプーンを持ったまま泣きじゃくる翔馬に俺は話を聞いた。
何を言ってるのか分からない部分があったが根気よくなだめながら聞くと、プリンをプラスティックの容器から取り出そうとしたものの、やり方がわからなかったようで上下に振っていたら手を滑らせてゴミ箱に入ってしまったとの事。

ゴミ箱の中に鼻をかんだちり紙やテーブルを拭く時に使用したウェットティッシュとともに、"プルプル可愛いプリンちゃん"のキュートなパッケージが見えた。

「あ~、これはもう汚くて食べられないなあ。」
俺の言葉を聞いた翔馬は更に声を張り上げて泣き始めた。

「ふぅふぅ、ぢでもだべれない?」
泣いて引き付けをおこしたような状態から、やっとこさ俺に話したのだろうね。

「うん。残念だけど食べない方がいいね…。」
翔馬は大粒の涙を流しながら、また声をあげた。

ひとまずゴミ箱から哀れな"プルプル可愛いプリンちゃん"を取り出して中身を取り出し、生ゴミとプラゴミに分別した。

泣き止む事はなく涙を流し続けている。

今からスーパーサンカクエツに行っても良いけど、そろそろ閉店時間だから間に合わないだろうな。
コンビニでは販売していないし…。

弱ったな~。

あっ!?
突然、ピンときたんだよね。

交番に貼ってある指名手配のポスターの文言である、お決まりの「この顔にピンときたら」じゃないけれど心当たりがあった。

「プリン食べれるよ!」

「もうきたなくてたべれにゃいんでちょ?」

「プルプル可愛いプリンちゃんはね。それではなくて、俺の手作りプリンは食べれるよ!どうする?」

わんわん泣きながらも少し落ち着きを取り戻したようで、真っ赤になった目で俺を見ている。

「その代わりちょっと時間をちょうだい?今から美味しいプリンを作ってやるから!」

コクリと頷くのを見た後、冷蔵庫を開けてプリンを作る具材はあるか確認した。

良かった!ちゃんとある。これなら大丈夫だ。
冷蔵庫から取り出してキッチンにずらっと卵、牛乳、砂糖を並べた。

さっそくスマホでプリンの作り方を検索。
「誰でもカンタン!おやつのレシピ100」というサイトがヒット。

スマホでレシピをささっと見る。

ふ~ん。これならプリン作りが初心者の俺でも容易に作れそうだ。

えっと牛乳は400cc
砂糖は70~80g
卵は4つか。
肝心なカラメルソースは…砂糖だけでも作れるから良かった!

さっそくレシピ通り忠実に再現してみた。
プリンは高温で一気に焼かないように注意とあれば温度調整にも気を配る。
粗熱の冷まし方もサイトに書かれた文を熟読した。

耐熱容器も必要か。
プリンの材料や作り方に気を取られて容器はスルーしてしまったよ。

耐熱容器なんて洒落たもの、独り者の俺のウチにあるわけ…あったかも!

元カノは料理好きだったからな。
プリン専用とまではいかなくても、それに準じた容器はあるかもしれない。

確か、グラタンやらバナナケーキやら作ってくれたからね。

「あればいいなぁ~。」
独り事を言いながら、心の中でちょいと祈った。
やったね!
ちゃんと戸棚の中にあったよ。
元カノ様様です。あはは!

グラタンの容器ではでか過ぎるから、こっちのバナナケーキ用が良いな。
丸くて小さい耐熱容器だから見た目も良いしピッタリじゃないかな?

後はコイツを冷蔵庫で冷やすだけ…。

しまった!

冷蔵庫でプリンを冷やさなきゃならなかったんだ!

俺は手作りプリンの作り方が掲載されている、あらゆるサイトを閲覧した。

どれもこれもすぐ食べれる時間ではないよ。
あれだけ粗熱の冷まし方について調べたのにな。

子どもにとって、1時間はおろか10分だって待つのは苦痛なはずだ。

最後の最後でこれだ。
やっぱ俺は運がないな…。

期待を裏切ってしまった罪悪感で胸が痛む。
俺はキッチンからテーブルに座っている翔馬を恐る恐る振り返った。

大人用の椅子に座ったまま、ぐっすり眠っている。
きっと泣き疲れたんだろう。

俺はプリン作りに夢中で全然、気づかなかったよ。

翌朝、食後でも食前でもかまわない。
この子が食べたいタイミングで食べさせてあげよう。
4人前も作ったから俺も一緒に食べられるね。

あー疲れた。着ていたエプロンの紐を緩めた。


























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

足を踏み出して

示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。 一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。 そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。 それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

俯く俺たちに告ぐ

青春
【第13回ドリーム小説大賞優秀賞受賞しました。有難う御座います!】 仕事に悩む翔には、唯一頼りにしている八代先輩がいた。 ある朝聞いたのは八代先輩の訃報。しかし、葬式の帰り、自分の部屋には八代先輩(幽霊)が! 幽霊になっても頼もしい先輩とともに、仕事を次々に突っ走り前を向くまでの青春社会人ストーリー。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

処理中です...