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月曜日、俺は職場で汗を流す事はなく有給を消化している。
俺の有給初日は既に西日がさしていた。
眩しくて右手を額にかざしながら翔馬が桜の蕾ばかりの遊歩道をかけて行くのを見る。
レストランへ向かった時と同じ光景だ。
ニャン助のぬいぐるみを抱えながら走る姿を見て今朝、あれこれ思案した事ーーーーいま翔馬にとって、どの選択がベストか決断した事を振り返っていた。
今朝、決断した事を白紙にするつもりはない。翔馬は母であるメデューサと暮らしたがっている。
俺もそれが当然の事だと認識しているし、有給を全て消化してしまう前にメデューサの帰宅を望んでいる。
俺が仕事へ行って働く間、翔馬はどうするんだ。
まだ留守番をさせてよい年齢ではないだろう。
やはり1番の悩みの種は山田"メデューサ"恵子だ。
コイツが1日でも早く帰宅して翔馬と暮らすべきなんだよ。
2週間以内に帰るとメデューサは俺に言ったが全く信じていない。
賭けてもいい!
なんやかんや理由をつけて帰ってこないだろう。
あの女は約束を反故するようなヤツだ。
悩みの種はそれだけではない。
仮にメデューサが戻って来て翔馬との生活を再びしたとしよう。
それでハッピーエンドになるか?
いいや、ならないな。
生みの親であろうとメデューサでは翔馬の教育をまともに出来るはずがないんだ。
そんなもん火を見るより明らかさ。
不安を覚えるのは俺だけではないはず。
メデューサと関わりのある者なら育児は向いていないと思うだろう。
自分の息子の年齢も忘れるしトオル達のような反社会的な輩とズブズブだ。
被害者でもあるが過去にトオル達とどのような付き合いがあったかその背景は俺には分からない。
少しでも明るい材料を探そうとメデューサについて前向きに考えたが、なにも良い部分を見つけられなかった。
俺はため息をついた。
翔馬はどうなっちゃうんだろう…?
俺はひとまず、この件について考えるのはやめた。
思考停止するなよなんて第三者に言われても言い訳しないさ。
しかしメデューサを探すのをやめるわけにはいかない。
俺のスマホの中にハゲ散らかした渡辺太郎から教えてもらったメデューサの電話番号がある。
メデューサが出入りしていたSMクラブの住所だって手にしたんだ。
これらは、どこで何をしてるかわからないメデューサを探す上で非常に重要なもの。
翔馬が振り返ってこちらに手をブンブン振っている。
俺も手を振って応えると、今度はニャン助のぬいぐるみを頭より高く持ち上げていた。
霧がかかったかのようにモヤモヤしていたが、やるべき事がある程度鮮明になると頭がクリアになっていったのがわかる。
不安が消滅したわけじゃないけれど、積極的な姿勢になったのが自分でもわかるよ。
後は行動に移すのみだ。
明日以降タイミングを見計らって、あのバカ女を探そう。
見つけ出したとてメデューサの更生は無理だろうが、先の事ばかり考えていてはなにもできない。
翔馬が口をとんがらせて走ってくる。
ほっぺたは走る度に衝撃でプルプル揺れていた。
「ねぇねぇ、あのね、あそこにね、おでかけするときあったワンちゃんとおばあちゃんがいるよ。ほら!」
翔馬は息を切らせながら指をさして言った。
「あ、ほんとだ。」
背の高い老紳士はおらず可愛いポメラニアンとおばあさんだけで散歩をしている。
きっと夕方の散歩だろう。
「ぼく、あっちからかえりたい。だめ?」
「うん。もちろんいいよ。そうしよう。」
きっと、パパやママについて詮索されるのが嫌なのだろう。
実のところ、俺も対応に苦しむ。
俺は翔馬のパパではない。
ママのメデューサは異次元にいるといっても過言ではないだろう?
またパパと呼ばれたら上手く答えようがない。
いちいち何者かも分からない人物にデリケートな話題を説明するのも違う。
翔馬にだって聞かせたくない部分もあるわけだしね。
俺と翔馬の関係は隣人とその子供ってだけさ。
でも一つだけ引っかかる事がある。
本人の前で名前を呼んだ事がないんだ。
なんか、その小っ恥ずかしくてね。
「よるごはんなあに?」
翔馬が下から俺を見上げている。
「そうだなー。こっちの帰り道のコースなら「スーパー・サンカクエツ」があるから、次いでに買い物して帰るか。夕飯はシーフードカレーにはどう?」
「やったー!」
「好きみたいだね。シーフードカレー!」
翔馬は腕を組んで、うーんと唸り出した。
「しーふーどってなあに?」
「シーフードカレー知ってるんじゃないの?」
「えっとね、しってるけどしらない。」
「なんだそれゃ!要するに知らないんだな!」
俺は笑った。
レストランで笑ったのと同じくらい楽しかったよ。
カレーに入れたい魚介類の名前を2人で、しりとりをするみたいに話しながら歩いた。
俺の有給初日は既に西日がさしていた。
眩しくて右手を額にかざしながら翔馬が桜の蕾ばかりの遊歩道をかけて行くのを見る。
レストランへ向かった時と同じ光景だ。
ニャン助のぬいぐるみを抱えながら走る姿を見て今朝、あれこれ思案した事ーーーーいま翔馬にとって、どの選択がベストか決断した事を振り返っていた。
今朝、決断した事を白紙にするつもりはない。翔馬は母であるメデューサと暮らしたがっている。
俺もそれが当然の事だと認識しているし、有給を全て消化してしまう前にメデューサの帰宅を望んでいる。
俺が仕事へ行って働く間、翔馬はどうするんだ。
まだ留守番をさせてよい年齢ではないだろう。
やはり1番の悩みの種は山田"メデューサ"恵子だ。
コイツが1日でも早く帰宅して翔馬と暮らすべきなんだよ。
2週間以内に帰るとメデューサは俺に言ったが全く信じていない。
賭けてもいい!
なんやかんや理由をつけて帰ってこないだろう。
あの女は約束を反故するようなヤツだ。
悩みの種はそれだけではない。
仮にメデューサが戻って来て翔馬との生活を再びしたとしよう。
それでハッピーエンドになるか?
いいや、ならないな。
生みの親であろうとメデューサでは翔馬の教育をまともに出来るはずがないんだ。
そんなもん火を見るより明らかさ。
不安を覚えるのは俺だけではないはず。
メデューサと関わりのある者なら育児は向いていないと思うだろう。
自分の息子の年齢も忘れるしトオル達のような反社会的な輩とズブズブだ。
被害者でもあるが過去にトオル達とどのような付き合いがあったかその背景は俺には分からない。
少しでも明るい材料を探そうとメデューサについて前向きに考えたが、なにも良い部分を見つけられなかった。
俺はため息をついた。
翔馬はどうなっちゃうんだろう…?
俺はひとまず、この件について考えるのはやめた。
思考停止するなよなんて第三者に言われても言い訳しないさ。
しかしメデューサを探すのをやめるわけにはいかない。
俺のスマホの中にハゲ散らかした渡辺太郎から教えてもらったメデューサの電話番号がある。
メデューサが出入りしていたSMクラブの住所だって手にしたんだ。
これらは、どこで何をしてるかわからないメデューサを探す上で非常に重要なもの。
翔馬が振り返ってこちらに手をブンブン振っている。
俺も手を振って応えると、今度はニャン助のぬいぐるみを頭より高く持ち上げていた。
霧がかかったかのようにモヤモヤしていたが、やるべき事がある程度鮮明になると頭がクリアになっていったのがわかる。
不安が消滅したわけじゃないけれど、積極的な姿勢になったのが自分でもわかるよ。
後は行動に移すのみだ。
明日以降タイミングを見計らって、あのバカ女を探そう。
見つけ出したとてメデューサの更生は無理だろうが、先の事ばかり考えていてはなにもできない。
翔馬が口をとんがらせて走ってくる。
ほっぺたは走る度に衝撃でプルプル揺れていた。
「ねぇねぇ、あのね、あそこにね、おでかけするときあったワンちゃんとおばあちゃんがいるよ。ほら!」
翔馬は息を切らせながら指をさして言った。
「あ、ほんとだ。」
背の高い老紳士はおらず可愛いポメラニアンとおばあさんだけで散歩をしている。
きっと夕方の散歩だろう。
「ぼく、あっちからかえりたい。だめ?」
「うん。もちろんいいよ。そうしよう。」
きっと、パパやママについて詮索されるのが嫌なのだろう。
実のところ、俺も対応に苦しむ。
俺は翔馬のパパではない。
ママのメデューサは異次元にいるといっても過言ではないだろう?
またパパと呼ばれたら上手く答えようがない。
いちいち何者かも分からない人物にデリケートな話題を説明するのも違う。
翔馬にだって聞かせたくない部分もあるわけだしね。
俺と翔馬の関係は隣人とその子供ってだけさ。
でも一つだけ引っかかる事がある。
本人の前で名前を呼んだ事がないんだ。
なんか、その小っ恥ずかしくてね。
「よるごはんなあに?」
翔馬が下から俺を見上げている。
「そうだなー。こっちの帰り道のコースなら「スーパー・サンカクエツ」があるから、次いでに買い物して帰るか。夕飯はシーフードカレーにはどう?」
「やったー!」
「好きみたいだね。シーフードカレー!」
翔馬は腕を組んで、うーんと唸り出した。
「しーふーどってなあに?」
「シーフードカレー知ってるんじゃないの?」
「えっとね、しってるけどしらない。」
「なんだそれゃ!要するに知らないんだな!」
俺は笑った。
レストランで笑ったのと同じくらい楽しかったよ。
カレーに入れたい魚介類の名前を2人で、しりとりをするみたいに話しながら歩いた。
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