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俺はすぐさまベランダへ向かった。

メデューサがトオルに指定された待ち合わせ場所の駐車場がよく見えるからだ。

レースのカーテン越しから駐車場を見下ろす。
トオルの愛車であろう金ピカのハマーH2はどこにも見当たらない。

隠れて監視していると、すぐにメデューサが姿を現した。
メデューサはスマホを耳に当てながら、キョロキョロ辺りを見まわしてトオルを探している。

「ブッ、ブー!」

安っぽいクラクションが鳴る。

メデューサは音が鳴った方へ小走りで近づいて行った。
俺は付近に停車している黒いワンボックスカーに気づいた。

「おめぇ遅えんだよ!」
男の怒鳴り声が俺が住むアパートの3階まで聞こえた。
このドスの効いた声は、間違いなく金髪ツーブロック男だと確信した。

早朝、トオル達と別れる際、眠そうなナオがトオルに「巨乳は逃げたりしない」と言っていた。
おそらく、トオルとナオはここにはいない。
配下に置いている金髪のツーブロック男とヤンキースのニューエラを被った男をパシリにしているのだろう。
あのド派手な金ピカハマーH2で俺の住む住宅街にやって来たんじゃ目立ち過ぎる。トオルもそう考えたのかもしれない。

メデューサは慌てた素振りで後部座席のドアを開けて乗車した。

「おめぇが遅刻したら、俺らまで巻き添い食らってトオルさんにブチギレられちまうんだぞ!」

やはりトオルはここにいないようだ。
あの野生の肉食動物が吠えて説明してくれた。

「もう時間がねぇ、早くここを出ねぇとよぉ!」
金髪ツーブロック男はアパートの駐車場を黒いワンボックスカーで勢いよく飛び出して行った。

奴等がいなくなったのを注意深く確認してから、俺はサーモンピンクの小さい丸テーブル付近に腰を下ろす。

メデューサはどういった理由で奴らと関わったのだろう?
一部、メデューサ本人から聞き出せた話では金銭的な理由があったようだが、それ以外は分からない。
そもそも金銭的な理由だと本人は話していたがあの女の話だ、果たしてそれも本当かどうか怪しい。

ではどこへ行って、これからどんな生活をするのだろう?
子どもを強引に俺に預けてまで、出て行かねばならなかった理由も知りたい。

もしや翔馬を捨てるつもりで俺に預けたのだとしたら…。
本当に、このアパートに戻る気はあるのか?
疑念が湧き上がるのは当然だ。

謎だらけ。

理解不能。





ジジジジ…
電気が点滅を繰り返している。

俺の心臓がネズミ並みの心拍数になった気がした。
被害者は俺だけではない。
もう1人"小さな被害者"がいるのを思い出した!

少し慌てながら、寝室の襖を開ける。

「スー、スー。」
メデューサの息子、翔馬は寝息を立てて小さく眠っていた。

翔馬は泣き疲れしたのかもしれない。
俺も、叱られて泣いた後よく眠っていたのを思い出した。

寝室の電気をつける。
こちらもボロいが故障はしてなさそうだ。

閉ざされた6畳の黒い世界に人口的な光が注ぐ。

翔馬の寝顔を見る。
涙が目尻や頬に滴となって残っている。
涙が伝った跡を見ると生き物の映像作品で、アリの巣を建設している映像を見ているような気がした。

俺は眠っている翔馬の近くに座る。

泣きながら眠った翔馬を起こして子どもでもわかるように現状を説明すべきか考えたが、幼子にとってそれはあまりに酷というものだ。


こんなアホな事を平気で口にするデリカシーのない親と教育関係者は子どもと向き合わず、自己保身に走り、負わなければならない責任から逃げているだけではないかと思う。

子どもは…翔馬は絶対に辛いはずだ。

しかし残念ながら俺にはどうする事も出来ない。

今の俺の頭の中は、まるでテレビで放送される足の踏み場もないゴミ屋敷のようにグチャグチャになってしまっていた。


問題事が山積みではあるが24時間以上も眠っていない俺の身体はヘトヘトに疲れ切っており、強制的にシャットアウトせずにはいられなかった。

俺は電気を消してすぐ眠りについた。










































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