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外は雲を探すのに苦労する程の青空。
だけれど工事のせいで雨戸は閉めっぱなしの為、電気がつけられていた。
どこかのリサイクルショップで格安で購入したかのような見るからにボロい電気がこの部屋を照らしている。
ボロいせいか時折り、灯りが点滅したり消えたりする。
この不規則なライトのせいで少し気分が悪くなってしまった。
「ごめんね。それ、こないだから故障してるみたいなの。でも電気を消したら部屋は真っ暗になっちゃうでしょ?灯りが点いたり消えたりしてチカチカするけど仕方ないよね。あっ、コーヒーにしたけどいいかな?」
電気を見上げる俺を察したのか女はブツブツ言いながら白いマグカップを、サーモンピンク色の小さな丸テーブルに置いた。
俺は椅子がないのでフローリングにそのまま腰をおろしている。
クッションや座布団もなければ絨毯も敷かれていない。
「工事中だから雨戸を開けるなって棟梁?大将っていうの?ちょっと分かんないけどリーダー格のゴッツイおじさんに言われちゃった。」
玄関で立ち話をしていた時と違い部屋に入った途端、女は饒舌になった。
恐らくトオル達を警戒していたのだろう。
「この部屋、なんにもないからビックリしたんじゃない?」
女の口は止まる事なく捲し立てる。
部屋にあった唯一の家電は冷蔵庫だけ。
後はサーモンピンクの丸テーブルと引越し会社の社名とロゴマークが記された三つの段ボール箱しかなかった。
玄関と同じく殺風景で生活感のない部屋だ。
生活感がないと言っても一般人では到底ありえないゴージャスな暮らしをエンジョイする世間離れしたロックスターの部屋とは違う。
この女の住む部屋は、ただガランとしていて人が住んでいる情緒がまるでない。
家具や家電がほぼない為、妙に広く感じた。
「別にミニマリストではないんだけどね。私には私の事情があって…」
女は俺の向かい側に座って、落ち着きなく歩き回る小さな男の子を目で追いながら話続けている。
こんな部屋に住むのだから何か理由があるのだなと俺は勘づいたのだが、一切それについてはつっつく事はしなかった。
それより、なぜ俺を部屋に招き入れたか聞くべきだと思い本題に入りそうもない様子だったので女の話を遮った。
「…ところで大事な話ってなんですか?」
俺は低い声で静かに尋ねた。
話なんか聞きたくもないが、だからといって負のオーラが充満したこんな居心地の悪い空間に長居はしたくない。
大嫌いなパワハラ高橋と、タイプは違えどパワハラ高橋に負けず劣らずの小室の2人から飲み会の誘いを受けたかのような気分だった。
それほど居心地が悪い。
きっと俺は死んだような表情をしていたと思う。
「実は私、ちょっとここを離れなきゃならなくなって…。」
「どこかへ行くんですか?」
女の意外な答えに俺は更に質問を重ねた。
「うん。しばらくの間はね。話せば長くなるし、呼びつけておいてアレだけどちょっと細かく話せない事もけっこうあってさ…昨晩もそれで揉めちゃったのね、私。」
女はコーヒーを一口啜ったあとサーモンピンク色の丸テーブルの隅が一部、変色した部分を人差し指で小さく円を描くように弄り始めた。
徹夜で鈍った思考が通常よりも遅い速度ではあったが今の発言で俺は理解した。
昨晩、揉めたというのはこの女がトオルやナオに虐待されたあの埠頭で起きた件を指している。
俺は昨晩から今朝まで追いかけ回されやっとこさ逃げてきた。
確固たる証拠がなかったから釈放こそされたが、まだトオルというモンスターが存在する異世界と縁が切れていない。
まるで頑丈なロープでガッチガチに結ばれておりロープを解こうと、もがけばもがくほど運命が俺を嘲笑うかのようにギュッと強く締め付ける。
ギリギリのところで逃げ切ったつもりだったけど、またこうして巻き込まれている。
もしや昨晩より事態は悪化しているのでは?
いくら顔が割れてないとはいえ、やはり不安が募る。
だけれど工事のせいで雨戸は閉めっぱなしの為、電気がつけられていた。
どこかのリサイクルショップで格安で購入したかのような見るからにボロい電気がこの部屋を照らしている。
ボロいせいか時折り、灯りが点滅したり消えたりする。
この不規則なライトのせいで少し気分が悪くなってしまった。
「ごめんね。それ、こないだから故障してるみたいなの。でも電気を消したら部屋は真っ暗になっちゃうでしょ?灯りが点いたり消えたりしてチカチカするけど仕方ないよね。あっ、コーヒーにしたけどいいかな?」
電気を見上げる俺を察したのか女はブツブツ言いながら白いマグカップを、サーモンピンク色の小さな丸テーブルに置いた。
俺は椅子がないのでフローリングにそのまま腰をおろしている。
クッションや座布団もなければ絨毯も敷かれていない。
「工事中だから雨戸を開けるなって棟梁?大将っていうの?ちょっと分かんないけどリーダー格のゴッツイおじさんに言われちゃった。」
玄関で立ち話をしていた時と違い部屋に入った途端、女は饒舌になった。
恐らくトオル達を警戒していたのだろう。
「この部屋、なんにもないからビックリしたんじゃない?」
女の口は止まる事なく捲し立てる。
部屋にあった唯一の家電は冷蔵庫だけ。
後はサーモンピンクの丸テーブルと引越し会社の社名とロゴマークが記された三つの段ボール箱しかなかった。
玄関と同じく殺風景で生活感のない部屋だ。
生活感がないと言っても一般人では到底ありえないゴージャスな暮らしをエンジョイする世間離れしたロックスターの部屋とは違う。
この女の住む部屋は、ただガランとしていて人が住んでいる情緒がまるでない。
家具や家電がほぼない為、妙に広く感じた。
「別にミニマリストではないんだけどね。私には私の事情があって…」
女は俺の向かい側に座って、落ち着きなく歩き回る小さな男の子を目で追いながら話続けている。
こんな部屋に住むのだから何か理由があるのだなと俺は勘づいたのだが、一切それについてはつっつく事はしなかった。
それより、なぜ俺を部屋に招き入れたか聞くべきだと思い本題に入りそうもない様子だったので女の話を遮った。
「…ところで大事な話ってなんですか?」
俺は低い声で静かに尋ねた。
話なんか聞きたくもないが、だからといって負のオーラが充満したこんな居心地の悪い空間に長居はしたくない。
大嫌いなパワハラ高橋と、タイプは違えどパワハラ高橋に負けず劣らずの小室の2人から飲み会の誘いを受けたかのような気分だった。
それほど居心地が悪い。
きっと俺は死んだような表情をしていたと思う。
「実は私、ちょっとここを離れなきゃならなくなって…。」
「どこかへ行くんですか?」
女の意外な答えに俺は更に質問を重ねた。
「うん。しばらくの間はね。話せば長くなるし、呼びつけておいてアレだけどちょっと細かく話せない事もけっこうあってさ…昨晩もそれで揉めちゃったのね、私。」
女はコーヒーを一口啜ったあとサーモンピンク色の丸テーブルの隅が一部、変色した部分を人差し指で小さく円を描くように弄り始めた。
徹夜で鈍った思考が通常よりも遅い速度ではあったが今の発言で俺は理解した。
昨晩、揉めたというのはこの女がトオルやナオに虐待されたあの埠頭で起きた件を指している。
俺は昨晩から今朝まで追いかけ回されやっとこさ逃げてきた。
確固たる証拠がなかったから釈放こそされたが、まだトオルというモンスターが存在する異世界と縁が切れていない。
まるで頑丈なロープでガッチガチに結ばれておりロープを解こうと、もがけばもがくほど運命が俺を嘲笑うかのようにギュッと強く締め付ける。
ギリギリのところで逃げ切ったつもりだったけど、またこうして巻き込まれている。
もしや昨晩より事態は悪化しているのでは?
いくら顔が割れてないとはいえ、やはり不安が募る。
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