ザ・グレート・プリン

スーパー・ストロング・マカロン

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「あの野郎!」
金髪ツーブロック男の怒りに満ちた声が聞こえてくる。

なんら知性のかけらもない、街のチンピラに力任せに殴られるのか…。
それを思うと、無力感が津波のように押し寄せてきた。

しかし俺は足を止めず、俯きながら自分のボロボロの靴と汚いコンクリートだけ見ていた。

今更、戻ったとて怒鳴られ殴られるのは決定的だ。
埠頭で暴行されていた女以上の苦しみを味わうかもしれない。

どちらにせよ地獄を味わうのだから、わざわざ輩が居る所へ戻るなんてマヌケだ。

もうどうでもいい…。

輩の相手は疲れてしまった。

このまま朝日を浴びて歩こう。

太陽は奴らを浄化してくれなかったが、俺は眩しさに包まれている。


後ろから、マフラーの音が聞こえてきた。
これは金髪ツーブロック男とヤンキースの帽子を被った男が乗っている黒いワンボックスカーではない。

もっとゴツくて周囲の障害物をいとも簡単に薙ぎ倒してしまうような音だ。

金ピカのハマーは、すぐさま俺に追いつき視界に入ってきた。

それでも歩き続ける俺に、ハマーの運転席の窓が開いた。

「お兄さん。悪いけどちょっといいかな?」

錆びついたような声で俺に問いかけてきた男の風体は真っ黒に日焼けした肌、スキンヘッドで太い首、短く整えられた髭を生やし、もみあげ付近にはロープのタトゥーが彫ってある。
顎から首にかけて、でかいサソリが彫られており毒々しさを醸し出している。

車にも負けないくらいインパクトのある男だった。

俺の気づかないうちに2人の輩がすぐ後ろにいた。

殴られるのを覚悟するくらいキレていたはずだったが、先ほどとは異なり金髪ツーブロック男は随分と静かになっていた。
ギョロッとした目を左右に泳がせている。

ヤンキースの帽子を被った男は珍しくスマホを弄っておらず、下唇を親指と人差し指で小刻みに摘む動作をしている。

振り返って金髪ツーブロック男を見ると、「あっ、大丈夫。お兄さんに手だししないようこのオッサンに言ってあるから。」
と、金ピカハマーの運転手が俺に言った。

あれ、この声は?

トオルか?

顔を見た事はないが埠頭で女を追い詰めていたあの声と似ている。

俺に対しては随分と優しい声だが、おそらくトオルだろう。

しかし、いつもなら警戒心が強くて過敏に反応する俺だが蓄積された疲れと何度も危機に陥った事により思考停止していた。

決して恐怖心が消えたわけではなく、考える事を止めて全てを受け入れた方がラクになれると思った。

「安心して欲しい。絶対に手だしはさせないからさ。なぁ、ナオ?」
やはりこのハマーを運転している男はトオルだ。
ナオという名前を聞いて確信した。

「ウン。」
ため息をついた後、とても眠たそうな声でナオは返事をした。

俺はナオを見ると顔を横に向けており、そのうえマスクと黒くて大きなサングラスをしているので表情がイマイチ分からなかった。

だが、このナオは埠頭で悪霊に取り憑かれたかのように女に暴力を振るい激しく暴れていた。
表情が分からなくても、危ない奴だって事は既に知っている。

「コイツらから話を聞いてるとは思うけどさ。昨晩、埠頭で大事な話をしている時、俺らの話を立ち聞きしている人がいたんだよ。」

トオルは腕をドアに乗っけながら、静かに話した。
怒っている様子もなく淡々とした口調だ。

俺はただ黙って聞いている。

何も答えない俺にトオルは少し間をおいて話した。
「どう?何か身に覚えはないかな?特に何かあったってわけじゃないんだ。
単なる仲間内のトラブルなんだよ。俺らには良くあるんだよな。
その、なんていうか、真面目に仕事をしているからだろうね。
情熱的になってしまうというべきかな?
お兄さんにも俺の言っている意味が分かるだろ?
そんな時に、倉庫裏で盗み聞きをされたわけ。
だから誤解を解こうと思って追いかけたんだよ。
別に誰かをどうこうしようってわけじゃない。
それにオマワ、ゴホゴホ!いや、誤解されて警察と揉めたりするのは嫌だしさ。」

そんな詭弁を述べるトオルはナオと一緒になって、泣き叫ぶ女に暴力を振るい海に放り投げようとしていた。

俺には、いったい何が原因で女が追い込まれていたか分からない。だがトオルとナオの暴力を見てはいないが嫌というほど知っている。
あれは間違いなく事件だ!
それに俺は"ぶっ殺す"とまで言われ追いかけられているのだから。
きっと警察に通報されるのを恐れているのだろう。
いや、この時点で警察に通報されていると考えるのが普通だ。
俺がトオルの立場だったら、そう考えるはずだ。

であるなら、トオルは口封じをしようと目論んでいるのではないか?

俺は、この問いかけにも黙っていた。
意識的に沈黙していたわけではなくあれやこれや考えていたら、なんて返答すれば良いか分からなくなっていた。

「おい!答えろや!」
金髪ツーブロック男が後ろから俺に言った。

「てめぇは黙ってろよ。」
トオルが低い声で静かに金髪ツーブロック男を黙らせた。

そうだ…この声だ。

女を徹底的に追い詰めていた時の声だ。
冷静な口調だが、怒りを隠せずにいるのが分かる。

「はい…。」
俺は擦れ声で小さく返事をした。
質問に答えたわけではないが、とにかく声に出すべきだと思った。

「うん。でさ?またコイツらから聞いた話になっちゃうけどお兄さんはアパートの隣に住んでいる人と知り合いだよね?
本当に隣人てだけで面識はないの?」

「ええ。面識はありません。」
俺は即答した。

「そうか。面識はないんだね。
でも暗かったから顔は見れなかったけど、さっきコイツ(金髪ツーブロック男)の呼びかけを無視して歩いて行くお兄さんの後ろ姿が走って逃げたヤツと後ろ姿がそっくりだったんだよね。
盗み聞きしていたのはお兄さんだなと思ったんだけどな。」

























































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