ザ・グレート・プリン

スーパー・ストロング・マカロン

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ギャグ漫画で驚いた時に用いられる表現方法のように、俺の目玉は飛び出してしまったんじゃないかと思うくらいのショックだった。

慌てて着信を消したが波の音しか聞こえない静かな埠頭に、音量をマックスに設定してあるスマホの着信音が鳴り響いてしまった。
輩は耳栓なんてしているわけがなく、絶対に聞こえてしまっているはずだ。


俺が高校生の頃、家族は親戚の集まりがあり部活で忙しいという理由で俺だけ留守番をしていた事があった。

野球の練習でクタクタになりながら帰宅した際、ロックしたはずの玄関ドアの鍵がなぜかロックされておらず、不審に思いながらもドアを開けたら髭をたくわえた見知らぬ中年男と目があった。

恐ろしい事に玄関ドアをピッキングして侵入してきた空き巣と鉢合わせしてしまった。

あの時と同じくらいの衝撃だった。

「…なんだ?」
トオルが訝しげにナオに問いかけている。

「私のじゃないよ?」

「俺のでもない…。おい、お前のか?」
トオルが女に問いかける。

「コイツのでもないみたいだな。」
女の声は聞こえなかった。
おそらく声に出さず身振り手振りで着信音が鳴ったスマホの持ち主ではないと答えたのだろう。

「じゃあ、いったいさっきのはなんだってのぉ?」
今度はナオがトオルに問いかける。

「知らねえよ!誰かいるんじゃねえのか?」
トオルはイラついた口調だ。

「まさか!?」

このままでは、輩に見つかってしまう!
最悪なシナリオが頭の中で瞬時に作り上げられていく。

奴らに個人情報である名前や住所、勤務先を調べられるのは当然だろう。

その上でなぜ、この埠頭にいるのかという事と、虐待されている女との関係性も執拗に問われるはずだ。

こんな危険極まりない輩に自分の身分を教えてしまったらーーーー深く関わりを持ってしまったら、骨の髄までしゃぶられて、屍にされ人生を棒に振る事になる。

パニックになって正常な判断がつかないくらい追い詰められそうになったが、必死に自分を落ち着かせようと努めた。

見つかる前にここから全力疾走して逃げようか。
走って逃げたら追いかけてくるだろうが、隙をついて逃げれば上手く撒くことはできるかもしれない。

輩が暴れている倉庫付近にいるとはいえ暗闇で俺がどこにいるかも分からないのだから。

「やっぱ俺のじゃねぇなあ。」
トオルは自分のスマホに着信がないか再度、確認したような口調だ。

「私のでもないよ!いつもマナーモードだからね。」

「おかしいな。俺には確かに聞こえたんだけどよ。」

「私だって聞こえたよ。
そうなるとウチらのでないんだから、やっぱこのバカ女のじゃないのぉ?もういっぺんちゃんと調べてみたら?」

「ちょっとお前のスマホ見せろや!」
トオルの低くてドスの効いた声が聞こえた。
「トオル?あんまり関係ないとこ触るなよぉぉ~。」

「おっ、それはグッドアイデア!」

「キャハハハハ!」

ナオの下品で頭の悪そうな笑い声が聞こえる。

近くにいる女のスマホを確認する為、トオルはポケットに手を忍ばせているのではないかと俺は推測した。

初対面どころか、声だけで顔も見たこともない連中だがトオルと呼ばれている男から逃げ切れればナオと呼ばれている女から逃げ切る事は、さほど難しくないかもしれない。

俺とトオルを日本から遥か遠いサバンナに生息する虎と鹿で例えた場合、鹿である俺が虎であるトオルに捕まってしまったら到底、敵うはずもなく力でねじ伏せられてしまう。
自分でそれを想定するのは悔しいが喧嘩慣れしてそうなトオルには殴り合いでは勝てないと思う。

「スマホはどこだ?えぇ?」
トオルが問い詰める。

「もしや後ろから覆い被さって、デカパイ触るつもりだな。Fカップはあるんじゃない?」
再び、ナオの下品で頭の悪そうな笑い声がした。

トオルは先ほどのようなドスの効いた声とは違い、テンションが高まり甘えたような甲高い声に変わっている。

「はーい。バンザーイは?バンザーイしろよ。」
このクソ野郎がヘラヘラしながら覆いかぶさっているなら不意をつける。


俺は陸上の短距離選手のように全力で走った。

命懸けで!



















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