ザ・グレート・プリン

スーパー・ストロング・マカロン

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クソ!

クソ!クソ!!

どうして俺ばっかりこんな不愉快な思いをしなきゃならないんだよ。

心は嵐で荒れ狂う大海原をさまよう帆船のようだ。

コントロール出来ない感情を抱えて目的地のないまま無意識に駅ビルの中にあるショッピングフロアに足が向かった。

傍目から見ても、かなり早歩きだと思うし乱暴に踵を鳴らしている。

それでもいつもより混雑しているせいか、俺の足音は聞こえてこない。

雑踏に身を置いていながらも、俺の頭の中は過去を振り返る会議中で関係者であろうがなかろうが途中から、やすやすとドアを開けて参加出来るような雰囲気ではなかった。




俺は奴らに蹂躙されるだけの為に存在するのか?

誰がその役目を与えたんだ?

本屋の前まで辿り着くと有名な宗教家が新刊を発売したようで、人目につく場所にでかでかとポスターが張られている。
そこには"人生の悩みは神が与えた素晴らしき試練"と書かれていた。

俺が苦しい原因は神様が与えた試練なのか?

あり得ない話だ。
神様なんて、そもそも存在しないのだから…。
それなのに今の世の中、ありとあらゆる神様で溢れているし自らを神様と名乗っている人さえいる。

"幸運を呼び込む神の数珠"とやらを、この新書を買った50名の人に抽選でプレゼントするとも記載されていた。

恐らく工場で生産されたプラスチック製品だろう。

笑顔で腕を組む宗教家の写真を見たら、急に喉が渇いてきた。


駅ビルに併設されたハンバーガー屋の前を通ると、「早くベビーカーに乗れよぉぉ!」とヒステリックな声が聞こえてきた。

胸の谷間を強調した金髪のギャルママが幼い女の子にビンタをしている。

女の子は3秒くらい溜めてから猛烈に泣き始めた。
周囲にいる人々は誰も気にも留めていない。
まるで、存在しないかのようだ。

その隣で両親に挟まれて手を繋ぐ女の子がキラキラした笑顔を振り撒きはしゃいでいる。
ビンタされた女の子と同い年くらいだ。


立ち止まっていた俺は混雑する通路を再び歩く。
先程より更に歩くスピードを早めた。この駅ビル内で俺が1番、歩くのが早いのではないかと思うくらいだ。


では、俺が苦しいのは親の教育が失敗だったのか?

意外なことに客観的な評価をするのは難しいが親のせいにばかりできないと思う。
理解できない理由で体罰された事もあったが、それはシコリにはなっていない。
笑顔でいられた日の方が多かったと記憶している。
決して金持ちではなかったが中流家庭で育ち、大学にも進学させて貰えたわけだしね。


学ランを着た坊主頭の高校球児が4人、高校名と名前が入ったバッグを肩に掛けて
スポーツ用品店に入っていくのを見た。

彼らの顔には笑顔が溢れていて、とても楽しそうだ。
4人のうちの真ん中に1人だけ野球帽をかぶった大柄の球児がいる。
彼の後ろから、背の高いセーラー服を着たロングヘアの女子生徒が綺麗な黒髪をなびかせて走ってきた。

ロングヘアの女子が野球帽をかぶった大柄の球児の背中を押すと、球児は「うぉ!マネージャー!」と驚きの声をあげていた。

彼女は「あんた達、わたしを置いてくなぁ~!」と笑顔で声を張っていた。



青春を謳歌している野球部員を見て、ここでまた疑問が生じる。

暴力を振るう陰湿な担任教師や、いじめをするヤンキーどもが多数存在していた。
担任教師は授業中に暴れるヤンキーには注意さえ出来ず、ひどく怯えていた。

担任教師はその腹いせに授業中であるにも関わらず、友人に話しかけたという理由で俺を皆のまえで大声で怒鳴りつけ胸ぐらを掴まれた事もある。

小声で同じ野球部の友人に話した内容は、入院している祖母の容態が良くないから野球の練習を休むと伝えたものだった。


今の俺の人格を形成したのは、このような学校生活が原因だったのだろうか?


いや、学校生活はそればかりではなかった。
野球部のチームメイトと共に汗を流した日々を忘れちゃいけない。

主将を任せられ、プレッシャーを感じて野球を嫌いになるくらい苦しんだ事もあったが仲間のバックアップもあり最後までやり遂げることが出来た。

3年生になり最後の夏が終わると後輩達の間で新しい主将が決まった日に、新主将を含む後輩達に俺だけ呼び出されグラウンドで胴上げしてもらうサプライズに感激して涙を流した事もあったんだ。

ちょうどこの頃、小麦色に日焼けした元気のいいショートカットの可愛い彼女と野球の練習で会えなかった埋め合わせで、一緒に海水浴に行ったり引退後は沢山デートをした。
アルバイト先の優しい女子大生に進路相談をしてもらうほどの関係にもなっていた。


どこにフォーカスするかで、まるっきり違うものになってしまう事に気づく。

「色んな角度で物事を見なきゃならないよな。」

大声で話す太った中年女性4人組とすれ違う際に、無意識に独り言をしていた。


決められたペースで動くエスカレーターなんて乗る気もなく階段を2段跳びしながら上がる。

全く息を切らすことなく最上階に着くと照明が薄暗いレストラン街になっており、和洋中すべてが揃っていた。

レストラン街を見渡したら食欲をつかさどる脳の一部が刺激されたらしく、お腹からグ~という音が聞こえてきて空腹であることを認識させられた。

ここで会議は一時中断した。

ウルトラマンのトレーナーを着て無邪気にスペシウム光線を出している幼き頃の俺。
雨の中、ユニフォームを濡らして打席に立っている野球部時代の俺。
別れた元カノと、2人で新生活を始めた初日の俺。
高橋や小室に苦しめられて職場のトイレに籠城する俺。

いくつもの時代を生きた俺がゾロゾロ、会議室から出て行った。


ホワイトボードにはたくさんの文字が踊っている。
俺の生きてきた全てがビッシリと雑に書かれていた。
黒ペンだけでなく、赤や青もありカラフルだ。
ところどころに波線が引かれていたりマルやバツといったマークまであった。

会議はまだ一時中断しているだけで終了してはおらず、今後の俺の人生について書かれるであろう空白のスペースが残っていた。

先程の会議室を出て行ったメンバーの椅子に加えて、もう一つ椅子が用意されている。


お腹を空かせた俺は肉の焼ける匂いに誘われて、表にある食品サンプルを一切見ず、吸い込まれるかのようにステーキハウスに直行した。







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