パパの見た目は15歳〜童顔の大黒柱〜

スーパー・ストロング・マカロン

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二章 長女、秋奈を守れ!

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「電話にでな。
道に迷っているのかもしんない。」

秋奈が手にするスマホの画面には、シンプルに"父"とだけ表示されている。

「これ以上、心配かけちゃアンタのお父さんの寿命が縮んじゃう。早く出てやんなよ。」

唇を噛み締める秋奈を見た野崎は、秋奈の葛藤がガラスのように透けて見えた気がした。

出るまで切るつもりはない春彦は粘り強く着信音を鳴らしている。

「なんでお父さんの電話にでないんだ?
まさかこれだけ怖い思いをしながら、!?
アンタ、本物のバカだよ。」

「由美子さん。
私は、私は家に帰りたくないです。
私のせいで、巻き込んで、怪我までさせちゃって…。
責任は必ずとります。」

震える唇から言葉を絞り出す。

「責任?おまえみたいなバカがどうやって責任をとるつもりだよ。
責任を感じてんなら、私の言うとおりに親元に帰るのが筋なんだってば。」

「ご、ごめんなさい。」

震えが止まらない秋奈は倒れたままの由美子に深々と一礼した。

「呆れた、もう勝手にしな。
知ったことかよ、おまえみたいなバカ。
そのうちこの街の色に染まって、バケモノアイツらみたいになるよ。」

意外な展開にゾクゾクした野崎は早口で秋奈に言った。

「これからどうするんだい?
まさかこの治安の悪い街で女の子が独りで彷徨い歩くのかな?
ここは君が住む街の住民とは違うのだよ。
あらゆる悪人、頭がブッ壊れた変人奇人が、無防備な君を見つけて骨までしゃぶるだろう。
由美子と決別した君の暗黒の未来が俺にはわかる。」

野崎は優しく秋奈の手を握った。

情けない気持ちでいっぱいの由美子はため息をついて天井を見ている。

「君が納得いくまで、俺の家にいるといい。
10代の子達の悩みは、ある意味では俺達大人以上に深刻だ。
追い詰められたら逃げられる場所と心許せる安全なスペースを作る事が俺達大人の仕事なのだから。
居場所のない若い子達を守る、その受け皿を俺は担っていると自負している。」

握っていた手を離して、秋奈の細い肩を羽毛のように優しく掴む。

「騙されんなよ!」

由美子は精一杯の声で叫んだ。

「ほー、さっき言った事をもう撤回する気かい?
由美子はこの子から手を引いたんじゃないのかよ?」

起きあがろうとする由美子だったが、頭を上げた途端、目の前がグルグル回る。

「眩暈か?もしや頭を打ったみたいだな。
下手に動かない方がいいぞ。
容態が変わってしまう事があるっていうからな。」

スマートウォッチで時刻を確認した野崎は言った。

「間もなく俺が呼んだ救急隊がここへ来る。
それまで動かず、このまま横になっている方が正解だ。」

鳴り響く春彦からの着信を秋奈は手にしたままだ。

「救急隊と頭ごなしに君を否定するパパ。
どちらが先にここへ到着するかな?
案外、君のパパの方が早いかもしれないな。」

苦しそうな由美子を見て、秋奈は自分がやってしまった事ーーーー
取り返しのつかないところまで来てしまったと後悔している。

しかしながらそれでも父に連れ戻されて、実家に帰ってしまいたくなかった。

心が壊れた原因は宗太郎とエリカの関係を目撃した事や父親との不仲が根本にあったはずだったが、秋奈自身もなぜ自分が壊れていったのかが、渦中の中心に身を置いている事で頭がグチャグチャになりわからなくなっている。

"今は何も考えたくない"
寂しさを埋めてくれる都合の良い居場所が欲しいだけだった。
会ったばかりの身元不明の男の元へついて行くリスクさえ考えられないほど、自暴自棄になっている。

「コイツについて行けば、この先もっとヤバイ事が起こるよ。
私にはわかるんだ。
アンタの破滅が。」

我慢強く呼び出し続ける春彦からの着信音に、由美子の声が重なる。

「ごめんなさい…。」

全てを捨てる決意で秋奈は着信を切った。












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