上 下
57 / 58
二章 長女、秋奈を守れ!

56

しおりを挟む
何度も小刻みに瞬きを繰り返しバッグの紐がつるんと滑ってしまうくらい、なで肩の秋奈は身体をプルプル震わせて春彦に怒鳴った。

「うるさい!アンタが私にわかった事を言わないで!」

優しく寄り添った気でいた春彦は、いきなりの怒号に状況を上手く処理できずにいる。

「秋ちゃん!お父さんにそんな言い方はダメよ!」

夏子の制止を耳にして、それ以上声を荒げはしなかったが、泣きながら自身の部屋へ戻って言った。

春彦からすれば秋奈の行動は、まさかの事態ではあったが素直な冬児の時のようにいくはずがない。

思考停止をしていたとまではいかないが、なにを言えばいいかわからずにいた春彦は夏子に話しかけた。

「冬児より厄介だな。
しかしこのまま学校を休ませて、部屋で引きこもっている秋奈を見るのは忍びない。
一先ず俺は家を出るが、帰宅したらまた話し合おう。
解決に向けてね。」

黙って頷く夏子の横を通り抜けて、玄関にある傘立てから紺の傘を引き抜き扉を開けた。



春彦は団子屋"春夏秋冬"の裏にある勝手口から入り込んだ。

僅かなドアの音に反応したサクラが飛び出して来て、春彦の身体にへばり付いたり飛び跳ねたりしている。

「サクラ、おはよう。」

ゆっくり摺り足で春蔵が部屋から出てくる。

「父さん、今からサクラの散歩に行ってくる。」

「ああ。」

低い声で春蔵は返事をした。

昨日の親子喧嘩について2人は一切触れる事もなかった。





一方、秋奈は夏子に一言だけ買い物に行ってくるとだけいい外出しようとしている。

夏子は気分転換にもなって良いだろうと考え、努めて優しく振る舞った。

秋奈は量販店に向かった。

自宅から片道徒歩30分はかかる。

しかし近所のスーパーでこれらを購入する気はなかった。

近所のスーパー周辺には人付き合いを大切にしている母・夏子の友人や知人がパートをしていたり、客として買い物をしているのだ。

夏子の知り合いと会う事に関してなんら後ろめたさはないが、いちいち話しかけられるのが面倒に感じた為、冬の雨で傘をさす手がかじかむ方を迷わず選んだ。


店に着くと脇目も振らず、すぐに売り場へと向かう。
鮮やかなシルバーの髪をしたオシャレなイラストが描かれたパッケージのブリーチ剤を手に取って、買い物かごに放り投げた。

同じコーナーにあるブルーのヘアマニキュアも音が鳴るほど乱暴に扱っている。

周囲は客が多く、店内放送のBGMもボリュームが高い。
まるで訪れた客を洗脳するかのように歌が店中に響き渡る為、秋奈の行動なんて誰1人として気にも留めなかった。


レジで会計を済ませた秋奈は出入り口の自動ドアに映る自分の顔を見て、静かに決心をした。


















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

処理中です...