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二章 長女、秋奈を守れ!
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何度も小刻みに瞬きを繰り返しバッグの紐がつるんと滑ってしまうくらい、なで肩の秋奈は身体をプルプル震わせて春彦に怒鳴った。
「うるさい!アンタが私にわかった事を言わないで!」
優しく寄り添った気でいた春彦は、いきなりの怒号に状況を上手く処理できずにいる。
「秋ちゃん!お父さんにそんな言い方はダメよ!」
夏子の制止を耳にして、それ以上声を荒げはしなかったが、泣きながら自身の部屋へ戻って言った。
春彦からすれば秋奈の行動は、まさかの事態ではあったが素直な冬児の時のようにいくはずがない。
思考停止をしていたとまではいかないが、なにを言えばいいかわからずにいた春彦は夏子に話しかけた。
「冬児より厄介だな。
しかしこのまま学校を休ませて、部屋で引きこもっている秋奈を見るのは忍びない。
一先ず俺は家を出るが、帰宅したらまた話し合おう。
解決に向けてね。」
黙って頷く夏子の横を通り抜けて、玄関にある傘立てから紺の傘を引き抜き扉を開けた。
春彦は団子屋"春夏秋冬"の裏にある勝手口から入り込んだ。
僅かなドアの音に反応したサクラが飛び出して来て、春彦の身体にへばり付いたり飛び跳ねたりしている。
「サクラ、おはよう。」
ゆっくり摺り足で春蔵が部屋から出てくる。
「父さん、今からサクラの散歩に行ってくる。」
「ああ。」
低い声で春蔵は返事をした。
昨日の親子喧嘩について2人は一切触れる事もなかった。
一方、秋奈は夏子に一言だけ買い物に行ってくるとだけいい外出しようとしている。
夏子は気分転換にもなって良いだろうと考え、努めて優しく振る舞った。
秋奈は量販店に向かった。
自宅から片道徒歩30分はかかる。
しかし近所のスーパーでこれらを購入する気はなかった。
近所のスーパー周辺には人付き合いを大切にしている母・夏子の友人や知人がパートをしていたり、客として買い物をしているのだ。
夏子の知り合いと会う事に関してなんら後ろめたさはないが、いちいち話しかけられるのが面倒に感じた為、冬の雨で傘をさす手が悴む方を迷わず選んだ。
店に着くと脇目も振らず、すぐに売り場へと向かう。
鮮やかなシルバーの髪をしたオシャレなイラストが描かれたパッケージのブリーチ剤を手に取って、買い物かごに放り投げた。
同じコーナーにあるブルーのヘアマニキュアも音が鳴るほど乱暴に扱っている。
周囲は客が多く、店内放送のBGMもボリュームが高い。
まるで訪れた客を洗脳するかのように歌が店中に響き渡る為、秋奈の行動なんて誰1人として気にも留めなかった。
レジで会計を済ませた秋奈は出入り口の自動ドアに映る自分の顔を見て、静かに決心をした。
「うるさい!アンタが私にわかった事を言わないで!」
優しく寄り添った気でいた春彦は、いきなりの怒号に状況を上手く処理できずにいる。
「秋ちゃん!お父さんにそんな言い方はダメよ!」
夏子の制止を耳にして、それ以上声を荒げはしなかったが、泣きながら自身の部屋へ戻って言った。
春彦からすれば秋奈の行動は、まさかの事態ではあったが素直な冬児の時のようにいくはずがない。
思考停止をしていたとまではいかないが、なにを言えばいいかわからずにいた春彦は夏子に話しかけた。
「冬児より厄介だな。
しかしこのまま学校を休ませて、部屋で引きこもっている秋奈を見るのは忍びない。
一先ず俺は家を出るが、帰宅したらまた話し合おう。
解決に向けてね。」
黙って頷く夏子の横を通り抜けて、玄関にある傘立てから紺の傘を引き抜き扉を開けた。
春彦は団子屋"春夏秋冬"の裏にある勝手口から入り込んだ。
僅かなドアの音に反応したサクラが飛び出して来て、春彦の身体にへばり付いたり飛び跳ねたりしている。
「サクラ、おはよう。」
ゆっくり摺り足で春蔵が部屋から出てくる。
「父さん、今からサクラの散歩に行ってくる。」
「ああ。」
低い声で春蔵は返事をした。
昨日の親子喧嘩について2人は一切触れる事もなかった。
一方、秋奈は夏子に一言だけ買い物に行ってくるとだけいい外出しようとしている。
夏子は気分転換にもなって良いだろうと考え、努めて優しく振る舞った。
秋奈は量販店に向かった。
自宅から片道徒歩30分はかかる。
しかし近所のスーパーでこれらを購入する気はなかった。
近所のスーパー周辺には人付き合いを大切にしている母・夏子の友人や知人がパートをしていたり、客として買い物をしているのだ。
夏子の知り合いと会う事に関してなんら後ろめたさはないが、いちいち話しかけられるのが面倒に感じた為、冬の雨で傘をさす手が悴む方を迷わず選んだ。
店に着くと脇目も振らず、すぐに売り場へと向かう。
鮮やかなシルバーの髪をしたオシャレなイラストが描かれたパッケージのブリーチ剤を手に取って、買い物かごに放り投げた。
同じコーナーにあるブルーのヘアマニキュアも音が鳴るほど乱暴に扱っている。
周囲は客が多く、店内放送のBGMもボリュームが高い。
まるで訪れた客を洗脳するかのように歌が店中に響き渡る為、秋奈の行動なんて誰1人として気にも留めなかった。
レジで会計を済ませた秋奈は出入り口の自動ドアに映る自分の顔を見て、静かに決心をした。
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