48 / 58
二章 長女、秋奈を守れ!
47
しおりを挟む
「なんだ、秋奈はまだ寝ているのか?」
朝食を食べ終えた春彦は、湯気の立つコーヒーカップを置いて新聞を読む。
「秋ちゃんは風邪みたいなの。
今日は学校を休ませるわ。」
夏子はテーブルに座っている春彦に背を向けたまま、冬児の食べ終えた食器を洗っている。
「インフルエンザが猛威を振るっているようだな。
秋奈はただの風邪ならいいが。」
春彦の言葉を掻き消すくらい元気な声で冬児は言った。
「お母さん、お父さん行ってきまーす!」
「はぁい!気をつけてね!忘れ物はない?」
「ないよ!」
飛び出すように元気良く玄関ドアから出て行った。
「冬児は元気だな。」
「あの子、学校が大好きなのよ。
元気を取り戻してくれて本当に良かったわ。」
「ああ、良い事だよ。」
「元気が1番、家族が1番!」
夏子は右手を高々と上げるのと同時に、左足を尻付近まで曲げておどけて見せた。
「夏子も冬児に負けないほど元気があるな。」
夫婦は笑った。
「あっ?ところで春君?
最近はバッグを持たずに手ぶらで出勤しているわよね?
いつもは書類をバッグが膨れちゃうほど詰めていたじゃない?
なんで今は手ぶらで出勤するの?」
明るく振る舞う夏子は疑問を口にした。
「…なんで?あぁ、もうペーパーレスの時代だからさ。
まったく恥ずかしいもので、うちの会社は、いつまで経っても古臭いやり方を変えられずにいてさ。
世間から取り残されて周回遅れになっていたけれど、今回ようやく社長が重い腰を上げてね、こないだからペーパーレス化したんだ。
もはや紙なんて過去の遺物だよ。」
「ふぅーん、なるほどね。
それで手ぶらなのね。」
「あはは、そうなんだよ。
手ぶらって身体にも負担がないから良いものだね。
バッグなんか持っていたんじゃ、肩は凝るし左右のバランスが悪くなるから健康に悪いし。」
質問にどぎまぎした春彦は腕時計で時刻を確認した。
「よもやま話もこの辺にして、そ、そろそろ家を出なきゃ…。」
「気をつけてね。」
「ああ、行ってくるよ。」
春彦は夏子に詮索はされぬよう、そそくさと自宅を出て行った。
春彦と冬児を送り出し、慌ただしい朝を段取りよくこなしている。
「さてと。」
夏子はエプロンを外して秋奈の部屋をノックした。
「秋ちゃん。体調はどう?
お父さんも冬ちゃんも家を出たわよ。
こっちに来て、朝ご飯を一緒にどう?」
「お母さん。ありがとう。でも私、いらない…。」
うつ伏せで横になっている秋奈は虚ろな目で、夏子を見た。
「お父さんに学校を休んだ理由、何て話したの?」
「安心して。
今朝約束した通り、風邪を引いたって伝えておいたから。」
「お母さんありがと…。」
「お腹が空いたら言ってね。」
消え入りそうな声で呟いた娘を見て、夏子は娘を苦しめている宗太郎に怒りが込み上げてきた。
「秋ちゃん。
お母さんが大事な娘を深く傷つけた事で、カンタロウ?ソウタロウだっけ?
マヌケで世間知らずな男子を怒鳴りつけてあげる!
この近所に住んでいたわよね?」
「お母さん、私は大丈夫だから冷静になって。」
「ソウタロウの母親も愛人も私の娘に酷い事を言って泣かしたのよ!
いったい何様のつもりなわけ?
まともな生活も営んでない堕落した母親にウチの娘をとやかく言わせてたまるか!」
夏子の怒りは頂点まで達し、秋奈が必死に止めなければ宗太郎の自宅へ殴り込んでいただろう。
朝食を食べ終えた春彦は、湯気の立つコーヒーカップを置いて新聞を読む。
「秋ちゃんは風邪みたいなの。
今日は学校を休ませるわ。」
夏子はテーブルに座っている春彦に背を向けたまま、冬児の食べ終えた食器を洗っている。
「インフルエンザが猛威を振るっているようだな。
秋奈はただの風邪ならいいが。」
春彦の言葉を掻き消すくらい元気な声で冬児は言った。
「お母さん、お父さん行ってきまーす!」
「はぁい!気をつけてね!忘れ物はない?」
「ないよ!」
飛び出すように元気良く玄関ドアから出て行った。
「冬児は元気だな。」
「あの子、学校が大好きなのよ。
元気を取り戻してくれて本当に良かったわ。」
「ああ、良い事だよ。」
「元気が1番、家族が1番!」
夏子は右手を高々と上げるのと同時に、左足を尻付近まで曲げておどけて見せた。
「夏子も冬児に負けないほど元気があるな。」
夫婦は笑った。
「あっ?ところで春君?
最近はバッグを持たずに手ぶらで出勤しているわよね?
いつもは書類をバッグが膨れちゃうほど詰めていたじゃない?
なんで今は手ぶらで出勤するの?」
明るく振る舞う夏子は疑問を口にした。
「…なんで?あぁ、もうペーパーレスの時代だからさ。
まったく恥ずかしいもので、うちの会社は、いつまで経っても古臭いやり方を変えられずにいてさ。
世間から取り残されて周回遅れになっていたけれど、今回ようやく社長が重い腰を上げてね、こないだからペーパーレス化したんだ。
もはや紙なんて過去の遺物だよ。」
「ふぅーん、なるほどね。
それで手ぶらなのね。」
「あはは、そうなんだよ。
手ぶらって身体にも負担がないから良いものだね。
バッグなんか持っていたんじゃ、肩は凝るし左右のバランスが悪くなるから健康に悪いし。」
質問にどぎまぎした春彦は腕時計で時刻を確認した。
「よもやま話もこの辺にして、そ、そろそろ家を出なきゃ…。」
「気をつけてね。」
「ああ、行ってくるよ。」
春彦は夏子に詮索はされぬよう、そそくさと自宅を出て行った。
春彦と冬児を送り出し、慌ただしい朝を段取りよくこなしている。
「さてと。」
夏子はエプロンを外して秋奈の部屋をノックした。
「秋ちゃん。体調はどう?
お父さんも冬ちゃんも家を出たわよ。
こっちに来て、朝ご飯を一緒にどう?」
「お母さん。ありがとう。でも私、いらない…。」
うつ伏せで横になっている秋奈は虚ろな目で、夏子を見た。
「お父さんに学校を休んだ理由、何て話したの?」
「安心して。
今朝約束した通り、風邪を引いたって伝えておいたから。」
「お母さんありがと…。」
「お腹が空いたら言ってね。」
消え入りそうな声で呟いた娘を見て、夏子は娘を苦しめている宗太郎に怒りが込み上げてきた。
「秋ちゃん。
お母さんが大事な娘を深く傷つけた事で、カンタロウ?ソウタロウだっけ?
マヌケで世間知らずな男子を怒鳴りつけてあげる!
この近所に住んでいたわよね?」
「お母さん、私は大丈夫だから冷静になって。」
「ソウタロウの母親も愛人も私の娘に酷い事を言って泣かしたのよ!
いったい何様のつもりなわけ?
まともな生活も営んでない堕落した母親にウチの娘をとやかく言わせてたまるか!」
夏子の怒りは頂点まで達し、秋奈が必死に止めなければ宗太郎の自宅へ殴り込んでいただろう。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる