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二章 長女、秋奈を守れ!
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「なんだ、秋奈はまだ寝ているのか?」
朝食を食べ終えた春彦は、湯気の立つコーヒーカップを置いて新聞を読む。
「秋ちゃんは風邪みたいなの。
今日は学校を休ませるわ。」
夏子はテーブルに座っている春彦に背を向けたまま、冬児の食べ終えた食器を洗っている。
「インフルエンザが猛威を振るっているようだな。
秋奈はただの風邪ならいいが。」
春彦の言葉を掻き消すくらい元気な声で冬児は言った。
「お母さん、お父さん行ってきまーす!」
「はぁい!気をつけてね!忘れ物はない?」
「ないよ!」
飛び出すように元気良く玄関ドアから出て行った。
「冬児は元気だな。」
「あの子、学校が大好きなのよ。
元気を取り戻してくれて本当に良かったわ。」
「ああ、良い事だよ。」
「元気が1番、家族が1番!」
夏子は右手を高々と上げるのと同時に、左足を尻付近まで曲げておどけて見せた。
「夏子も冬児に負けないほど元気があるな。」
夫婦は笑った。
「あっ?ところで春君?
最近はバッグを持たずに手ぶらで出勤しているわよね?
いつもは書類をバッグが膨れちゃうほど詰めていたじゃない?
なんで今は手ぶらで出勤するの?」
明るく振る舞う夏子は疑問を口にした。
「…なんで?あぁ、もうペーパーレスの時代だからさ。
まったく恥ずかしいもので、うちの会社は、いつまで経っても古臭いやり方を変えられずにいてさ。
世間から取り残されて周回遅れになっていたけれど、今回ようやく社長が重い腰を上げてね、こないだからペーパーレス化したんだ。
もはや紙なんて過去の遺物だよ。」
「ふぅーん、なるほどね。
それで手ぶらなのね。」
「あはは、そうなんだよ。
手ぶらって身体にも負担がないから良いものだね。
バッグなんか持っていたんじゃ、肩は凝るし左右のバランスが悪くなるから健康に悪いし。」
質問にどぎまぎした春彦は腕時計で時刻を確認した。
「よもやま話もこの辺にして、そ、そろそろ家を出なきゃ…。」
「気をつけてね。」
「ああ、行ってくるよ。」
春彦は夏子に詮索はされぬよう、そそくさと自宅を出て行った。
春彦と冬児を送り出し、慌ただしい朝を段取りよくこなしている。
「さてと。」
夏子はエプロンを外して秋奈の部屋をノックした。
「秋ちゃん。体調はどう?
お父さんも冬ちゃんも家を出たわよ。
こっちに来て、朝ご飯を一緒にどう?」
「お母さん。ありがとう。でも私、いらない…。」
うつ伏せで横になっている秋奈は虚ろな目で、夏子を見た。
「お父さんに学校を休んだ理由、何て話したの?」
「安心して。
今朝約束した通り、風邪を引いたって伝えておいたから。」
「お母さんありがと…。」
「お腹が空いたら言ってね。」
消え入りそうな声で呟いた娘を見て、夏子は娘を苦しめている宗太郎に怒りが込み上げてきた。
「秋ちゃん。
お母さんが大事な娘を深く傷つけた事で、カンタロウ?ソウタロウだっけ?
マヌケで世間知らずな男子を怒鳴りつけてあげる!
この近所に住んでいたわよね?」
「お母さん、私は大丈夫だから冷静になって。」
「ソウタロウの母親も愛人も私の娘に酷い事を言って泣かしたのよ!
いったい何様のつもりなわけ?
まともな生活も営んでない堕落した母親にウチの娘をとやかく言わせてたまるか!」
夏子の怒りは頂点まで達し、秋奈が必死に止めなければ宗太郎の自宅へ殴り込んでいただろう。
朝食を食べ終えた春彦は、湯気の立つコーヒーカップを置いて新聞を読む。
「秋ちゃんは風邪みたいなの。
今日は学校を休ませるわ。」
夏子はテーブルに座っている春彦に背を向けたまま、冬児の食べ終えた食器を洗っている。
「インフルエンザが猛威を振るっているようだな。
秋奈はただの風邪ならいいが。」
春彦の言葉を掻き消すくらい元気な声で冬児は言った。
「お母さん、お父さん行ってきまーす!」
「はぁい!気をつけてね!忘れ物はない?」
「ないよ!」
飛び出すように元気良く玄関ドアから出て行った。
「冬児は元気だな。」
「あの子、学校が大好きなのよ。
元気を取り戻してくれて本当に良かったわ。」
「ああ、良い事だよ。」
「元気が1番、家族が1番!」
夏子は右手を高々と上げるのと同時に、左足を尻付近まで曲げておどけて見せた。
「夏子も冬児に負けないほど元気があるな。」
夫婦は笑った。
「あっ?ところで春君?
最近はバッグを持たずに手ぶらで出勤しているわよね?
いつもは書類をバッグが膨れちゃうほど詰めていたじゃない?
なんで今は手ぶらで出勤するの?」
明るく振る舞う夏子は疑問を口にした。
「…なんで?あぁ、もうペーパーレスの時代だからさ。
まったく恥ずかしいもので、うちの会社は、いつまで経っても古臭いやり方を変えられずにいてさ。
世間から取り残されて周回遅れになっていたけれど、今回ようやく社長が重い腰を上げてね、こないだからペーパーレス化したんだ。
もはや紙なんて過去の遺物だよ。」
「ふぅーん、なるほどね。
それで手ぶらなのね。」
「あはは、そうなんだよ。
手ぶらって身体にも負担がないから良いものだね。
バッグなんか持っていたんじゃ、肩は凝るし左右のバランスが悪くなるから健康に悪いし。」
質問にどぎまぎした春彦は腕時計で時刻を確認した。
「よもやま話もこの辺にして、そ、そろそろ家を出なきゃ…。」
「気をつけてね。」
「ああ、行ってくるよ。」
春彦は夏子に詮索はされぬよう、そそくさと自宅を出て行った。
春彦と冬児を送り出し、慌ただしい朝を段取りよくこなしている。
「さてと。」
夏子はエプロンを外して秋奈の部屋をノックした。
「秋ちゃん。体調はどう?
お父さんも冬ちゃんも家を出たわよ。
こっちに来て、朝ご飯を一緒にどう?」
「お母さん。ありがとう。でも私、いらない…。」
うつ伏せで横になっている秋奈は虚ろな目で、夏子を見た。
「お父さんに学校を休んだ理由、何て話したの?」
「安心して。
今朝約束した通り、風邪を引いたって伝えておいたから。」
「お母さんありがと…。」
「お腹が空いたら言ってね。」
消え入りそうな声で呟いた娘を見て、夏子は娘を苦しめている宗太郎に怒りが込み上げてきた。
「秋ちゃん。
お母さんが大事な娘を深く傷つけた事で、カンタロウ?ソウタロウだっけ?
マヌケで世間知らずな男子を怒鳴りつけてあげる!
この近所に住んでいたわよね?」
「お母さん、私は大丈夫だから冷静になって。」
「ソウタロウの母親も愛人も私の娘に酷い事を言って泣かしたのよ!
いったい何様のつもりなわけ?
まともな生活も営んでない堕落した母親にウチの娘をとやかく言わせてたまるか!」
夏子の怒りは頂点まで達し、秋奈が必死に止めなければ宗太郎の自宅へ殴り込んでいただろう。
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