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二章 長女、秋奈を守れ!
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新富福町を離れた秋奈は由美子に言われて通学すべく歩き始めたものの、ショックのあまり体調が悪くなり公園のベンチに座った。
帰宅も考えたが母である夏子に帰宅理由を細かく聞かれるのも、気が滅入ってしまう。
ただでさえ弟の冬児の件があった為、夏子はセンシティブになっているのが秋奈には痛いほどわかっている。
結局その日は学校には行かず、ショッピングモールを彷徨った後はファミリーレストランで過ごした。
突然の宗太郎による非情なまでの仕打ち、裏切りに心をナイフで抉られたような気分だった。
秋奈は自宅に着いてからも一家団欒で、すき焼きを食べた。
特に食欲がないわけでもなく、秋奈自身が驚くほど箸はいつも通り進んだが、話しかけてくる夏子や冬児の言葉は耳に入らず、グツグツと音を立てている鍋に箸を伸ばし、黙々と食べているだけだった。
冬児の時と同様に秋奈の様子が普段とは異なる事に気付いた夏子が話しかけると、夕飯を食べるのを止めてすぐ自室へ篭ってしまった。
秋奈の振る舞いに夏子は春彦に相談した。
大人と子供の狭間で揺れ動く多感な15歳、いや、こないだ16歳を迎えたばかりの女子高校生だ。
嫌がるのを無理やり、話し合おうとするのは酷かもしれない。
一先ずは注意深く秋奈の様子を見ることにしよう。
春彦はこのように答えた。
この春彦の発言で夏子も冬児の時とは異なり、春彦が子に真剣に向き合っている事がわかった事で一定の安心感は得ていた。
やっとこさパジャマに着替えた秋奈はベッドで、ぬいぐるみを抱きながら放心状態になっている。
中学生時代にゲームセンターにあるクレーンゲームで宗太郎から、スイーツニャンコのぬいぐるみを、誕生日プレゼントとしてねだって取ってもらったものだ。
そのぬいぐるみを声を殺し涙ながらに抱きしめている。
今朝の信じ難い宗太郎の行動や発言、本命と名乗る生意気な女ーーーー
昨日まで幸せだった世界が、巨大隕石の衝突により滅びていくような感覚だ。
宗太郎に直接電話なり、メッセージを送るなどして忌々しい今朝の件を問い詰めたかったが、もはや秋奈にその精神力は一切残っていなかった。
「宗太郎くん…どうして…。」
仰向けになって天井を見上げると、中学時代から付き合っていた宗太郎との思い出が、プロジェクタースクリーンのように映し出された。
2人の間に喧嘩はほぼなく、どれも記憶からよみがえるのは楽しかった思い出ばかりだ。
唐突に宗太郎との恋愛は一方的に終わりを迎えたのだから、なおさら甘い記憶がヒビ割れた心に追い討ちをかけていく。
呼吸が乱れ、苦しさのあまり上半身を起こして胸に手を当てていると、スマホが鳴った。
急いでスマホを手にすると、画面にはメッセージを送信した相手は宗太郎だった。
震える手で秋奈はメッセージを返す。
「今朝はどじたわけ?すごく悲しかたよ。」
動揺する秋奈が送信したメッセージには誤字が目立つ。
「今、どこにいる?」
すぐにメッセージが秋奈のスマホに届いた。
秋奈はメッセージに返信しようとするが、宗太郎はすぐ3通目のメッセージを送りつけてきた。
「今朝、待ち合わせ場所に指定した新富福町に秋奈は居たの?」
「いたよ!なんで来なかったの?
怖い人達に襲われそうになったんだよ!
あの女は誰なの?本命てなに?
私達は付き合ってるんじゃないの?」
「ごめん、メッセージでは全ての質問には答えられないよ。
大事な事だから、会って直接話したい。
今すぐ俺の家に来れないかな?」
スマホに表示されている時刻を見た秋奈は宗太郎に言った。
「もう0時だから、ひとりで外に出るのは怖いよ。
宗太郎くんは迎えに来てくれないの?」
「確かに女の子だと深夜に出歩くのは怖いよね。
今すぐ俺が秋奈の自宅に行くよ。」
帰宅も考えたが母である夏子に帰宅理由を細かく聞かれるのも、気が滅入ってしまう。
ただでさえ弟の冬児の件があった為、夏子はセンシティブになっているのが秋奈には痛いほどわかっている。
結局その日は学校には行かず、ショッピングモールを彷徨った後はファミリーレストランで過ごした。
突然の宗太郎による非情なまでの仕打ち、裏切りに心をナイフで抉られたような気分だった。
秋奈は自宅に着いてからも一家団欒で、すき焼きを食べた。
特に食欲がないわけでもなく、秋奈自身が驚くほど箸はいつも通り進んだが、話しかけてくる夏子や冬児の言葉は耳に入らず、グツグツと音を立てている鍋に箸を伸ばし、黙々と食べているだけだった。
冬児の時と同様に秋奈の様子が普段とは異なる事に気付いた夏子が話しかけると、夕飯を食べるのを止めてすぐ自室へ篭ってしまった。
秋奈の振る舞いに夏子は春彦に相談した。
大人と子供の狭間で揺れ動く多感な15歳、いや、こないだ16歳を迎えたばかりの女子高校生だ。
嫌がるのを無理やり、話し合おうとするのは酷かもしれない。
一先ずは注意深く秋奈の様子を見ることにしよう。
春彦はこのように答えた。
この春彦の発言で夏子も冬児の時とは異なり、春彦が子に真剣に向き合っている事がわかった事で一定の安心感は得ていた。
やっとこさパジャマに着替えた秋奈はベッドで、ぬいぐるみを抱きながら放心状態になっている。
中学生時代にゲームセンターにあるクレーンゲームで宗太郎から、スイーツニャンコのぬいぐるみを、誕生日プレゼントとしてねだって取ってもらったものだ。
そのぬいぐるみを声を殺し涙ながらに抱きしめている。
今朝の信じ難い宗太郎の行動や発言、本命と名乗る生意気な女ーーーー
昨日まで幸せだった世界が、巨大隕石の衝突により滅びていくような感覚だ。
宗太郎に直接電話なり、メッセージを送るなどして忌々しい今朝の件を問い詰めたかったが、もはや秋奈にその精神力は一切残っていなかった。
「宗太郎くん…どうして…。」
仰向けになって天井を見上げると、中学時代から付き合っていた宗太郎との思い出が、プロジェクタースクリーンのように映し出された。
2人の間に喧嘩はほぼなく、どれも記憶からよみがえるのは楽しかった思い出ばかりだ。
唐突に宗太郎との恋愛は一方的に終わりを迎えたのだから、なおさら甘い記憶がヒビ割れた心に追い討ちをかけていく。
呼吸が乱れ、苦しさのあまり上半身を起こして胸に手を当てていると、スマホが鳴った。
急いでスマホを手にすると、画面にはメッセージを送信した相手は宗太郎だった。
震える手で秋奈はメッセージを返す。
「今朝はどじたわけ?すごく悲しかたよ。」
動揺する秋奈が送信したメッセージには誤字が目立つ。
「今、どこにいる?」
すぐにメッセージが秋奈のスマホに届いた。
秋奈はメッセージに返信しようとするが、宗太郎はすぐ3通目のメッセージを送りつけてきた。
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大事な事だから、会って直接話したい。
今すぐ俺の家に来れないかな?」
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「もう0時だから、ひとりで外に出るのは怖いよ。
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今すぐ俺が秋奈の自宅に行くよ。」
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