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一章 長男、冬児を守れ!
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とてつもない緊張のなか、担任とともに冬児は教室を訪れた。
長く学校を休んでいた間、みんながどのようなリアクションをするのか、自分はどのように学校生活をおくればいいのか、わからなくなっていた。
担任が先に入り教室のドアを開けた。
クラスメイトは事前に冬児が登校してくる事を担任に聞かされており、既に着席して待っていた。
担任の背中に隠れるかのように、黒いランドセルを背負った小柄の冬児も入室した。
「冬くん!」
クラスメイトから人気のある冬児は男女問わず名前を呼ばれ、教室内には登校してきた喜びと、突然会えなくなった寂しさが入り混じる声が響き渡る。
黒板付近には「個性ある一人一人が一つになるクラスを目指して。」
と書かれた5年2組のスローガンが貼られた真下で冬児と担任は児童を見る。
「今日から冬児君が登校してきてくれた。
もしも冬児君に困ってしまうような場面があったら、みんなで手伝ってあげてほしい。
冬児君、席に座って。」
教壇に立った担任は、にこやかに要点だけを伝えて冬児を着席させた。
仲良しとはえ、まだ不安を抱えている冬児に対する、子ども達からの質問を受け付けないように配慮したのだ。
休み時間になると多くのクラスメイトが、冬児の席を囲い冬児がいなかった間の寂しさを口にしていた。
その光景を遠くからポツンと椅子に座っている潮田が爪を噛んで睨んでいた。
(ホームルームが終りチャイムが鳴る)
担任が冬児の元に行き、久しぶりに過ごした学校生活のなかで、気になる事や不安を感じる事がないか優しく話しかける。
クラスメイトは笑顔で冬児に挨拶をかわして教室を出て行く。
冬児の班は掃除当番であった。
他の児童と一緒に冬児がみんなの机と椅子を運んでいる時、潮田が話しかけてきた。
「教室の掃除が終わったら話がある。焼却炉の場所がわかるよな?
あそこまで来いよ。
命令口調の潮田に戸惑いつつも、冬児は要件は聞かず頷いた。
潮田は掃除の時間まで冬児には話しかける事はなかった。
冬児は特段、潮田を意識する事はなかったが自ら進んで会話をする気はなく、別のクラスメイトとの会話を楽しんでいた。
掃除の時間が終わり、人気者である冬児に同じ班の子達が一緒に帰ろうと話しかけていたが、冬児は潮田から要件があることを伝え先に帰宅するよう謙虚な言葉て伝えた。
一緒に掃除をした班の男子が、心配そうに冬児の顔を見ながら言った。
「今、潮田に呼び出されていなかった?そんなの無視した方がいいよ。」
「えっ、なんで?」
「中牧くんがいないだろ?理由は聞かされてない?」
そういえば僕を目の敵にしてくる中牧の姿を朝から見てないな、冬児は思った。
男児に言われるまで、中牧の存在を忘れていたわけではないが、クラスメイトと担任の思いやりある接し方のおかげで、不安材料だった中牧も潮田と同様に気にはなっていなかった。
「中牧くんは転向したんだ。」
「転向したの?」
「うん?冬くんがいない間、潮田がさ調子にノリ始めたんだよ。
話し方も髪型も変えて。
冬児は死んだ!これからは俺がクラスの中心だって。
まぁ、誰にも相手にされなかったんだけどさ。」
男子に続いて女子が補足するように言った。
「そこまでは冬くんに嫉妬するイタイ奴ってだけで、これといった問題はなかったの。
無視をすればいいだけだもんね。
でも、冬くんが学校を休んだ日から大人しくなった中牧がね、ある日階段を下りようとした時、潮田に後ろから突き飛ばされて肘の骨にヒビが入るほどの怪我をしたの。」
「潮田は自慢げに俺達に言ったんだ。
不良の中牧に勝った!喧嘩の強い中牧に勝ったってね。」
再び男子が冬児に教えると、女子が割って入り会話の主導権を奪おうとした。
「でもね?中牧はウチらの小学校に在校中、一言も潮田にやられたとは言わないし、大人しくなったといっても、あの喧嘩っ早い中牧だよ?
絶対に潮田にリベンジすると思うでしょ?
やり返すよね?
それなのに何もしないまま、しばらく学校を休んだ後、隣町の学校に引っ越しちゃったの。」
中牧が潮田に怪我を負わせられ、理由は定かではないが引越しまでしている。
自分がいない間の5年2組の変化に冬児はショックを受けていた。
長く学校を休んでいた間、みんながどのようなリアクションをするのか、自分はどのように学校生活をおくればいいのか、わからなくなっていた。
担任が先に入り教室のドアを開けた。
クラスメイトは事前に冬児が登校してくる事を担任に聞かされており、既に着席して待っていた。
担任の背中に隠れるかのように、黒いランドセルを背負った小柄の冬児も入室した。
「冬くん!」
クラスメイトから人気のある冬児は男女問わず名前を呼ばれ、教室内には登校してきた喜びと、突然会えなくなった寂しさが入り混じる声が響き渡る。
黒板付近には「個性ある一人一人が一つになるクラスを目指して。」
と書かれた5年2組のスローガンが貼られた真下で冬児と担任は児童を見る。
「今日から冬児君が登校してきてくれた。
もしも冬児君に困ってしまうような場面があったら、みんなで手伝ってあげてほしい。
冬児君、席に座って。」
教壇に立った担任は、にこやかに要点だけを伝えて冬児を着席させた。
仲良しとはえ、まだ不安を抱えている冬児に対する、子ども達からの質問を受け付けないように配慮したのだ。
休み時間になると多くのクラスメイトが、冬児の席を囲い冬児がいなかった間の寂しさを口にしていた。
その光景を遠くからポツンと椅子に座っている潮田が爪を噛んで睨んでいた。
(ホームルームが終りチャイムが鳴る)
担任が冬児の元に行き、久しぶりに過ごした学校生活のなかで、気になる事や不安を感じる事がないか優しく話しかける。
クラスメイトは笑顔で冬児に挨拶をかわして教室を出て行く。
冬児の班は掃除当番であった。
他の児童と一緒に冬児がみんなの机と椅子を運んでいる時、潮田が話しかけてきた。
「教室の掃除が終わったら話がある。焼却炉の場所がわかるよな?
あそこまで来いよ。
命令口調の潮田に戸惑いつつも、冬児は要件は聞かず頷いた。
潮田は掃除の時間まで冬児には話しかける事はなかった。
冬児は特段、潮田を意識する事はなかったが自ら進んで会話をする気はなく、別のクラスメイトとの会話を楽しんでいた。
掃除の時間が終わり、人気者である冬児に同じ班の子達が一緒に帰ろうと話しかけていたが、冬児は潮田から要件があることを伝え先に帰宅するよう謙虚な言葉て伝えた。
一緒に掃除をした班の男子が、心配そうに冬児の顔を見ながら言った。
「今、潮田に呼び出されていなかった?そんなの無視した方がいいよ。」
「えっ、なんで?」
「中牧くんがいないだろ?理由は聞かされてない?」
そういえば僕を目の敵にしてくる中牧の姿を朝から見てないな、冬児は思った。
男児に言われるまで、中牧の存在を忘れていたわけではないが、クラスメイトと担任の思いやりある接し方のおかげで、不安材料だった中牧も潮田と同様に気にはなっていなかった。
「中牧くんは転向したんだ。」
「転向したの?」
「うん?冬くんがいない間、潮田がさ調子にノリ始めたんだよ。
話し方も髪型も変えて。
冬児は死んだ!これからは俺がクラスの中心だって。
まぁ、誰にも相手にされなかったんだけどさ。」
男子に続いて女子が補足するように言った。
「そこまでは冬くんに嫉妬するイタイ奴ってだけで、これといった問題はなかったの。
無視をすればいいだけだもんね。
でも、冬くんが学校を休んだ日から大人しくなった中牧がね、ある日階段を下りようとした時、潮田に後ろから突き飛ばされて肘の骨にヒビが入るほどの怪我をしたの。」
「潮田は自慢げに俺達に言ったんだ。
不良の中牧に勝った!喧嘩の強い中牧に勝ったってね。」
再び男子が冬児に教えると、女子が割って入り会話の主導権を奪おうとした。
「でもね?中牧はウチらの小学校に在校中、一言も潮田にやられたとは言わないし、大人しくなったといっても、あの喧嘩っ早い中牧だよ?
絶対に潮田にリベンジすると思うでしょ?
やり返すよね?
それなのに何もしないまま、しばらく学校を休んだ後、隣町の学校に引っ越しちゃったの。」
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