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一章 長男、冬児を守れ!

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今までの経緯を時に言葉を詰まらせながらも春彦は伝えた。

汚れた足の裏を拭いてもらったサクラが、骨の形をした犬用のオモチャを器用に前足で掴み、舐めたり噛んだりして座布団に座り込んで遊んでいる。

「はは、サクラは良いな。毎日がお気楽で。」

熱中するサクラに弱々しい声で春彦は言った。

「父さんはさっきから黙ってるが、俺はどうすればいいんだ?」

「おまえはどうしたい?」

「どうしたいって、もちろん仕事を辞めたくない…。
しかし恩を仇で返したアイツに肩を叩かれたんだ。
腹正しいが決まってしまった事だから従うより他ない。」

「従うしかないか。それならそうしろ。」

「それならそうしろって?納得できないから悩んでいるんだよ。
身を粉にして勤めてきた仕事だ。
父さんだって団子屋を開業する前は会社勤めをしていたのだから、俺の気持ちはわかるだろう?
それに知ってのとおり俺は独身じゃない。家庭がある。」

「クビになったんだろ?頭を下げたって、リストラを取り消してもらえないのだろ?だったら他の職を探すしかないだろう。
なぜ、そんな簡単な事がわからんのだ?」

「簡単に言わないでくれよ。
この歳で?この歳で転職するのは難しいんだよ。
仮に出来たとしても、今より収入は下がるに決まっている。
もう八方塞がりなんだ!」

「アキとフユはどうだ?元気にやっているか?」

子どもの話をされた春彦は話をはぐらかされた気分だったが、答えない理由はない。

「秋奈は元気だよ、相変わらず生意気でね。夏子も手を焼いているくらいだ。」

「あっはっは!そうか。フユはどうだ?
少しは身長は伸びたか?」

「冬児は…端的に言うと街中で暴れまわった不良中学生を殴り倒して警察の厄介になってしまってさ。
その後は塞ぎ込んでしまい不登校なんだ。」

「不登校とはどういう事だ?そんな話、初耳だったぞ。」

「まぁ、父さんには伝えてなかったからね。
俺も仕事の件でそれどころではなかった。」

「それどころではなかったとは何事だ?」

孫である冬児の現状を知らなかった春蔵は、まるで他人事のように語る春彦を怒鳴った。

「おまえ父親だろう!苦しむフユになぜ父親としての役割を果たさんのだ!?」

「父さん、本人が無気力ならば仕方がないだろう?
冬児はそのうち目を覚ます。
そんなくだらない子どものいざこざより今は俺のーーーー」

「馬鹿かおまえは!
正義感が強く素直で優しいフユが学校にも通えず、家庭内でも心を閉ざしているのに冷酷過ぎるぞ!」

「父さんは孫を溺愛できあいしているよ。甘やかすのはよくない。」

「何を言う!病弱で意気地のないひ弱だったおまえをいじめから守ったのは父親であるこの俺だ!
子どもを守るのが親の役目だろうが!
仕事ばかりでついに心が腐ったか!」

春彦を怒鳴りつけた春蔵は苦しそうに胸を押さえた。

異変に気づいたサクラが骨のオモチャを口から離し、心配そうに春蔵の膝に片足を乗せてシワだらけの顔を舌で舐めている。

「父さん?どうしたんだい?」

かすれた声で、触るなと言い弱った手で春彦を突き放そうとしている。

持病がある春蔵は激しく興奮した事で、動悸と息切れを起こしてしまっていた。













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