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一章 長男、冬児を守れ!
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春彦が縋る思いで辿り着いた場所は定年後、父・春蔵が自宅を改装して作った団子屋"春夏秋冬"だ。
小さく古い母屋を改装して1階を団子屋にしている。
春蔵との関係は良好とは言い難いが、不仲というわけではない。
母の死後、気丈に振る舞ってはいるが春蔵の落胆した姿を何度となく春彦は見ている。
更には年齢とともに持病を悪化させてしまい、体調を崩す事も増えてきていた。
鍵を開けた春彦は古めかしい勝手口から忍び込むように中へと入った。
所謂、イートインスペースなどはなく完全に持ち帰り専門のどこにでもある団子屋だ。
厨房も普段使いの台所も居間も綺麗に整理整頓されており、5年前に秋奈がゲームセンターのクレーンゲームで手に入れたスイーツニャンコのぬいぐるみが電話台に飾られていた。
プレゼントして貰ったぬいぐるみを春蔵は大切にしている。
壁には春彦が幼少期からずっと目にしていた日めくりカレンダーがあり、1日たりとも剥がし忘れがない。
体調が優れないとはいえ、家族だけでなく自分自身にも厳しく律する事ができる。
ホワイトボードには電話番号や色褪せた新聞の切り抜き、町内会にまつわる重要事項が非常に達筆な字で記されていた。
部屋の中は、しーんと静まり帰っている。
二階で寛いでいるのかもしれない。
父に顔を見せる為、ミシミシ軋む床を歩いていると階段付近で春彦は驚いてしまった。
亡くなった母が大切にしていた大きくて立派な鳩時計が12時を告げたのだ。
鳩時計は春蔵が鳩時計に目がない妻(春彦の母)の為に、他県に有名な職人がいるのをたまたまラジオを聴いて知った事で、何の迷いもなくすぐさま買いに行ったエピソードがある。
幼少期の頃から見慣れた鳩時計だったが、春彦はいつからかこの鳩時計が苦手になってしまっていた。
両親の気持ち、特に母に先立たれて細々団子屋を営む春蔵の気持ちを考えると胸が締め付けられてしまうからだ。
「ふう。」
大きくため息を吐いた春彦が階段の手すりを掴んだ時、勢いよく勝手口のドアが開く。
「おい、サクラ。足を拭かなきゃいかんだろう。」
雑種犬のサクラが足音を鳴らして元気良く部屋に入ってきた。
リードを付けたま間のサクラは居間を通り、あっという間に階段付近までやってくると春彦の前で身体を丸めてグルグル回転した。
「久しぶりだなサクラ。お邪魔しているよ。」
「む、誰か居るのか?誰だ春彦か?」
「父さん、お邪魔しているよ。
今日は休みでもないのに団子屋を臨時休業していたんだね。
体調でも悪いのかい?」
息子・春彦の言葉を聞いた春蔵は不快な表情で言った。
「…おまえは何をしにここへ来た?
子ども達や夏子さんは一緒じゃないのか?」
「ああ、見ての通り俺だけだよ。突然連絡もなくやってきて悪かった。
ちょっと相談したい事があってさ…。」
「なんだ?家庭の事か、仕事の事か?」
サクラが久しぶりに会った春彦に飛び跳ねて抱きついたり、床を足でジタバタ鳴らして身体で気持ちを表現している。
「落ち着けサクラ。
足を拭かないから床が汚れてしまったぞ。
話は後だ、春彦は居間で待っていてくれ。」
小さく古い母屋を改装して1階を団子屋にしている。
春蔵との関係は良好とは言い難いが、不仲というわけではない。
母の死後、気丈に振る舞ってはいるが春蔵の落胆した姿を何度となく春彦は見ている。
更には年齢とともに持病を悪化させてしまい、体調を崩す事も増えてきていた。
鍵を開けた春彦は古めかしい勝手口から忍び込むように中へと入った。
所謂、イートインスペースなどはなく完全に持ち帰り専門のどこにでもある団子屋だ。
厨房も普段使いの台所も居間も綺麗に整理整頓されており、5年前に秋奈がゲームセンターのクレーンゲームで手に入れたスイーツニャンコのぬいぐるみが電話台に飾られていた。
プレゼントして貰ったぬいぐるみを春蔵は大切にしている。
壁には春彦が幼少期からずっと目にしていた日めくりカレンダーがあり、1日たりとも剥がし忘れがない。
体調が優れないとはいえ、家族だけでなく自分自身にも厳しく律する事ができる。
ホワイトボードには電話番号や色褪せた新聞の切り抜き、町内会にまつわる重要事項が非常に達筆な字で記されていた。
部屋の中は、しーんと静まり帰っている。
二階で寛いでいるのかもしれない。
父に顔を見せる為、ミシミシ軋む床を歩いていると階段付近で春彦は驚いてしまった。
亡くなった母が大切にしていた大きくて立派な鳩時計が12時を告げたのだ。
鳩時計は春蔵が鳩時計に目がない妻(春彦の母)の為に、他県に有名な職人がいるのをたまたまラジオを聴いて知った事で、何の迷いもなくすぐさま買いに行ったエピソードがある。
幼少期の頃から見慣れた鳩時計だったが、春彦はいつからかこの鳩時計が苦手になってしまっていた。
両親の気持ち、特に母に先立たれて細々団子屋を営む春蔵の気持ちを考えると胸が締め付けられてしまうからだ。
「ふう。」
大きくため息を吐いた春彦が階段の手すりを掴んだ時、勢いよく勝手口のドアが開く。
「おい、サクラ。足を拭かなきゃいかんだろう。」
雑種犬のサクラが足音を鳴らして元気良く部屋に入ってきた。
リードを付けたま間のサクラは居間を通り、あっという間に階段付近までやってくると春彦の前で身体を丸めてグルグル回転した。
「久しぶりだなサクラ。お邪魔しているよ。」
「む、誰か居るのか?誰だ春彦か?」
「父さん、お邪魔しているよ。
今日は休みでもないのに団子屋を臨時休業していたんだね。
体調でも悪いのかい?」
息子・春彦の言葉を聞いた春蔵は不快な表情で言った。
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「ああ、見ての通り俺だけだよ。突然連絡もなくやってきて悪かった。
ちょっと相談したい事があってさ…。」
「なんだ?家庭の事か、仕事の事か?」
サクラが久しぶりに会った春彦に飛び跳ねて抱きついたり、床を足でジタバタ鳴らして身体で気持ちを表現している。
「落ち着けサクラ。
足を拭かないから床が汚れてしまったぞ。
話は後だ、春彦は居間で待っていてくれ。」
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