21 / 88
一章 長男、冬児を守れ!
20
しおりを挟む
「冬ちゃん、もう9時よ。お腹空いたんじゃない?」
夏子が引き篭もる冬児の部屋で声をかけるのは、もはや日課となってしまっている。
「…お腹が空いたら教えて?
後でいつもみたいに朝ご飯を持ってきてあげるからね。」
今日もダメだったか…。
冬児が自室に引き篭もるようになってから、あまり顔を合わす機会がなくなってしまった。
おぼんに載せた料理やオヤツをドアから手渡す時や、トイレや風呂に向かう時に顔を合わす程度で会話も減っていた。
「フユは相変わらず?」
夏子の近くに寄ってきた秋奈は髪の毛先を撫でながら、夏子に優しく声をかけた。
苦しむ息子を助けてあげられず、不甲斐ない気持ちに押しつぶされそうな夏子は寂しげにコクリと頷いた。
「泣かないで。お母さんはちっとも悪くないよ。
フユも悪くない…。
だって頭がおかしい奴から、みんなを守ったんだから。
警察官の山田さんだって、フユに同情していたわけだし。」
口元を押さえて夏子は涙を流さぬよう、ぐっと堪えている。
「でも、フユはちょっと真面目過ぎない?
そこがフユの良いところでもあるんだけどね。
もちろん喧嘩は良くないけど…。でもやっぱ真面目過ぎだよ。」
「冬ちゃんは胸の内をあまり教えてはくれないけどね。
お母さんにはなんとなくわかるの。
冷静さを失って…我を忘れて暴れ回ってしまった事で、取り返しのつかない事をしでかしたんじゃないかって。」
「…正当防衛だよ。そう、正当防衛。
フユはみんなを守る為に鬼頭ってワルを殴って止めたんだ。
あの不良がいくら昏睡状態になったからといって、別に死んだわけでもないしぃ。
今は退院したわけだしぃ。
今回の件で調べたら鬼頭って素行の悪さは有名だったんだから。」
秋奈の意見に夏子はエプロンの裾で目元を押さえた。
「お父さんはどうしたわけ?信じらんない。
いつもはグチグチ、あーだこーだうるさいくせに。
肝心な時は役に立たないんだもん。
フユってお父さんの言いつけだけは絶対に守る子じゃん?
私の方から、お父さんにもっとフユの事を考えるように伝えるよ。」
善は急げといわんばかりに、秋奈はリビングへ戻っていく。
「お父さん!ちょっと話があるんだけど!」
リビングにはおらず、テレビがつけっぱなしだった。
先ほどまで心ここに在らずといった表情でテレビを視聴していた春彦はおらず、テレビの情報番組の司会を務める大御所のタレントが様々なタレント達とともに、若手男性タレントの深夜の密会について不毛な議論に熱中している。
「いつもなら、"やかましいからテレビを消しなさい"って怒鳴るくせに、自分だってテレビをつけっぱなしじゃん。
あの、子どもオヤジめ。あー、むかつく!」
リモコンでテレビの電源を落としていると、後からやってきた夏子がトイレ付近で秋奈を見ている。
秋奈はすれ違う際、通路で立つ邪魔な夏子を軽く押して退かしトイレに入った。
いないのはわかりきっていたが、秋奈は念の為ノックを3回して返事を求めた。
コンコンコン
「いい?開けるよ!ってやっぱいないか。」
「お父さん、表に出て行ったのかしらね?さっきまでテレビを観ながらアメリカの報道番組を観ていたのに…。」
「寝室で寝てんじゃない?あの童顔オヤジは。」
秋奈の発言を受けて寝室を覗いた夏子は部屋を見るが、春彦の姿はなく掛け布団と毛布がベッドからはみ出しており、パジャマがフローリングに無造作に脱ぎ捨てられている。
「私にはいつも偉そうに言うくせにめっちゃ部屋を散らかしてんじゃん。」
夏子の真後ろにいる秋奈は語気を強めて言い放った。
夏子が引き篭もる冬児の部屋で声をかけるのは、もはや日課となってしまっている。
「…お腹が空いたら教えて?
後でいつもみたいに朝ご飯を持ってきてあげるからね。」
今日もダメだったか…。
冬児が自室に引き篭もるようになってから、あまり顔を合わす機会がなくなってしまった。
おぼんに載せた料理やオヤツをドアから手渡す時や、トイレや風呂に向かう時に顔を合わす程度で会話も減っていた。
「フユは相変わらず?」
夏子の近くに寄ってきた秋奈は髪の毛先を撫でながら、夏子に優しく声をかけた。
苦しむ息子を助けてあげられず、不甲斐ない気持ちに押しつぶされそうな夏子は寂しげにコクリと頷いた。
「泣かないで。お母さんはちっとも悪くないよ。
フユも悪くない…。
だって頭がおかしい奴から、みんなを守ったんだから。
警察官の山田さんだって、フユに同情していたわけだし。」
口元を押さえて夏子は涙を流さぬよう、ぐっと堪えている。
「でも、フユはちょっと真面目過ぎない?
そこがフユの良いところでもあるんだけどね。
もちろん喧嘩は良くないけど…。でもやっぱ真面目過ぎだよ。」
「冬ちゃんは胸の内をあまり教えてはくれないけどね。
お母さんにはなんとなくわかるの。
冷静さを失って…我を忘れて暴れ回ってしまった事で、取り返しのつかない事をしでかしたんじゃないかって。」
「…正当防衛だよ。そう、正当防衛。
フユはみんなを守る為に鬼頭ってワルを殴って止めたんだ。
あの不良がいくら昏睡状態になったからといって、別に死んだわけでもないしぃ。
今は退院したわけだしぃ。
今回の件で調べたら鬼頭って素行の悪さは有名だったんだから。」
秋奈の意見に夏子はエプロンの裾で目元を押さえた。
「お父さんはどうしたわけ?信じらんない。
いつもはグチグチ、あーだこーだうるさいくせに。
肝心な時は役に立たないんだもん。
フユってお父さんの言いつけだけは絶対に守る子じゃん?
私の方から、お父さんにもっとフユの事を考えるように伝えるよ。」
善は急げといわんばかりに、秋奈はリビングへ戻っていく。
「お父さん!ちょっと話があるんだけど!」
リビングにはおらず、テレビがつけっぱなしだった。
先ほどまで心ここに在らずといった表情でテレビを視聴していた春彦はおらず、テレビの情報番組の司会を務める大御所のタレントが様々なタレント達とともに、若手男性タレントの深夜の密会について不毛な議論に熱中している。
「いつもなら、"やかましいからテレビを消しなさい"って怒鳴るくせに、自分だってテレビをつけっぱなしじゃん。
あの、子どもオヤジめ。あー、むかつく!」
リモコンでテレビの電源を落としていると、後からやってきた夏子がトイレ付近で秋奈を見ている。
秋奈はすれ違う際、通路で立つ邪魔な夏子を軽く押して退かしトイレに入った。
いないのはわかりきっていたが、秋奈は念の為ノックを3回して返事を求めた。
コンコンコン
「いい?開けるよ!ってやっぱいないか。」
「お父さん、表に出て行ったのかしらね?さっきまでテレビを観ながらアメリカの報道番組を観ていたのに…。」
「寝室で寝てんじゃない?あの童顔オヤジは。」
秋奈の発言を受けて寝室を覗いた夏子は部屋を見るが、春彦の姿はなく掛け布団と毛布がベッドからはみ出しており、パジャマがフローリングに無造作に脱ぎ捨てられている。
「私にはいつも偉そうに言うくせにめっちゃ部屋を散らかしてんじゃん。」
夏子の真後ろにいる秋奈は語気を強めて言い放った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる