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一章 長男、冬児を守れ!
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中牧のヘッドバッドをものともしない鬼頭は、ヘッドバッドはこうやってやるんだといわんばかりに中牧にくらわせた。
その場で膝をつく中牧に鬼頭は容赦なく顔面をサッカーボールを扱うように蹴り上げる。
たった1人の中学生に殴られて倒れた人々を見て、新たに止めに入る勇敢な人は1人もおらず、足がすくんで思考停止に陥ってしまう者ばかりだった。
冬児の足元で倒れ込んだ主婦は手を伸ばして、声にならない叫びを上げた。
「誰も止めらねえなあ!誰も止めらませーん!!」
今まで無言だった鬼頭は不敵に笑って言った。
まるで治安の悪い海外の怪しい裏通りで発生したかのような暴行事件を目の当たりにした冬児は、全身から怒りが湧き上がり、鬼頭に襲いかかった。
「うぉぉぉ!!」
冬児は鬼頭の顔面に肘を叩きつけた。
倒れる鬼頭の顔面にバスケットシューズのソールの跡がつくほど踏みつけていく。
無心で暴行を加える冬児によって鬼頭はなす術なく、すぐに意識を失った。
周囲の人々がざわつき始めた時、かけつけてきた警察官が冬児の腕を掴んだ。
呆然とする冬児は目の前の景色が歪んで見える。
倒れたままピクリともしない鬼頭。
赤色灯を光らせたパトカー。
恐ろしいものを見る目でこちらを見る人々。
すべてがどこか他人事に思えて、自分の腕を引っ張る警察官の行動を理解できずにいた。
****
「冬ちゃん?そろそろ部屋から出ておいで?
3時じゃないけど、オヤツは冬ちゃんが大好きな、お母さんお手製のカスタードプリンだよ。」
ドアの向こうーーーー
子ども部屋からは何の反応もない。
「ねぇ冬ちゃーん。一緒に食べよう?」
夏子はドアをノックしながら再度優しい口調で呼びかけたが、ドアの向こうからは返事はなかった。
これ以上の呼びかけはかえって冬児を追い詰めてしまうと思い、呼びかけをやめた夏子はリビングに向かおうとした時、玄関ドアの鍵穴がガチャガチャ音を立てた。
「春君?どうしちゃったの?いつもより早いじゃない。
まだ2時よ?」
「ああ、ちょっとね…。」
迎えてくれた夏子に対し、力のない声で答えた。
「あのね、いつもより帰宅が早いから私の相談事を聞けるよね?
冬ちゃんの件なんだけど。」
「また、その話か。冬児なら大丈夫さ。
あの子は弱い子ではない。
今まで味わった事のない事態に直面して、戸惑ってはいるがそのうち、また元気を取り戻して学校にも通えるようになるさ。」
「そんな悠長な事言える?
冬ちゃんはあの事件から半年も経過しているのに、まだ塞ぎこんでいるのよ。
たまには、冬ちゃんと面と向き合ってほしいわ。」
「…おまえは一日中、家にいるだろ?おまえの役割じゃないのか?」
「私が気持ちを込めて冬ちゃんと話しても、塞ぎ込んでしまって耳を傾けてくれないの。
でも冬ちゃんは父親の春君を尊敬しているんだから絶対に聞く耳を持ってくれるはずよ。」
「俺は疲れているんだ。ちょっと早いが風呂に入ってくる。」
夏子の話に嫌気がさして、脱衣所へ向かって着替え始めた。
「春君!冬ちゃんは私の子でもあるけど、春君の子でもあるのよ!
あの事件を境に部屋から一歩も出れず、苦しんでいる冬ちゃんの事、もっと考えてあげてよ!」
「これ以上、俺にどうしろって言うんだ?
冬児が学校に行きたがらないなら仕方ないだろうが。
これは本人の問題だ。」
「春君変わった…。時にやり過ぎになるくらい、あんなに愛情を持って子ども達と接していたじゃない?
仕事熱心ではあったけど、家庭を蔑ろにする人ではなかった。」
「うるさい!俺は今から風呂に入るんだ!
いつまでそこに張り付いて着替えている俺に文句を垂れるんだ?
風邪を引いたらお前のせいだぞ!」
「話にならないのね!もういいわ!」
夏子は脱衣所のドアを強く引っ張って閉めた。
その場で膝をつく中牧に鬼頭は容赦なく顔面をサッカーボールを扱うように蹴り上げる。
たった1人の中学生に殴られて倒れた人々を見て、新たに止めに入る勇敢な人は1人もおらず、足がすくんで思考停止に陥ってしまう者ばかりだった。
冬児の足元で倒れ込んだ主婦は手を伸ばして、声にならない叫びを上げた。
「誰も止めらねえなあ!誰も止めらませーん!!」
今まで無言だった鬼頭は不敵に笑って言った。
まるで治安の悪い海外の怪しい裏通りで発生したかのような暴行事件を目の当たりにした冬児は、全身から怒りが湧き上がり、鬼頭に襲いかかった。
「うぉぉぉ!!」
冬児は鬼頭の顔面に肘を叩きつけた。
倒れる鬼頭の顔面にバスケットシューズのソールの跡がつくほど踏みつけていく。
無心で暴行を加える冬児によって鬼頭はなす術なく、すぐに意識を失った。
周囲の人々がざわつき始めた時、かけつけてきた警察官が冬児の腕を掴んだ。
呆然とする冬児は目の前の景色が歪んで見える。
倒れたままピクリともしない鬼頭。
赤色灯を光らせたパトカー。
恐ろしいものを見る目でこちらを見る人々。
すべてがどこか他人事に思えて、自分の腕を引っ張る警察官の行動を理解できずにいた。
****
「冬ちゃん?そろそろ部屋から出ておいで?
3時じゃないけど、オヤツは冬ちゃんが大好きな、お母さんお手製のカスタードプリンだよ。」
ドアの向こうーーーー
子ども部屋からは何の反応もない。
「ねぇ冬ちゃーん。一緒に食べよう?」
夏子はドアをノックしながら再度優しい口調で呼びかけたが、ドアの向こうからは返事はなかった。
これ以上の呼びかけはかえって冬児を追い詰めてしまうと思い、呼びかけをやめた夏子はリビングに向かおうとした時、玄関ドアの鍵穴がガチャガチャ音を立てた。
「春君?どうしちゃったの?いつもより早いじゃない。
まだ2時よ?」
「ああ、ちょっとね…。」
迎えてくれた夏子に対し、力のない声で答えた。
「あのね、いつもより帰宅が早いから私の相談事を聞けるよね?
冬ちゃんの件なんだけど。」
「また、その話か。冬児なら大丈夫さ。
あの子は弱い子ではない。
今まで味わった事のない事態に直面して、戸惑ってはいるがそのうち、また元気を取り戻して学校にも通えるようになるさ。」
「そんな悠長な事言える?
冬ちゃんはあの事件から半年も経過しているのに、まだ塞ぎこんでいるのよ。
たまには、冬ちゃんと面と向き合ってほしいわ。」
「…おまえは一日中、家にいるだろ?おまえの役割じゃないのか?」
「私が気持ちを込めて冬ちゃんと話しても、塞ぎ込んでしまって耳を傾けてくれないの。
でも冬ちゃんは父親の春君を尊敬しているんだから絶対に聞く耳を持ってくれるはずよ。」
「俺は疲れているんだ。ちょっと早いが風呂に入ってくる。」
夏子の話に嫌気がさして、脱衣所へ向かって着替え始めた。
「春君!冬ちゃんは私の子でもあるけど、春君の子でもあるのよ!
あの事件を境に部屋から一歩も出れず、苦しんでいる冬ちゃんの事、もっと考えてあげてよ!」
「これ以上、俺にどうしろって言うんだ?
冬児が学校に行きたがらないなら仕方ないだろうが。
これは本人の問題だ。」
「春君変わった…。時にやり過ぎになるくらい、あんなに愛情を持って子ども達と接していたじゃない?
仕事熱心ではあったけど、家庭を蔑ろにする人ではなかった。」
「うるさい!俺は今から風呂に入るんだ!
いつまでそこに張り付いて着替えている俺に文句を垂れるんだ?
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「話にならないのね!もういいわ!」
夏子は脱衣所のドアを強く引っ張って閉めた。
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