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プロローグ

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「ちょっと待って、あれ見て。」

ヒップホップスタイルの服装をした20歳そこそこと思しきカップルの彼女が歩みを止めて指を差す。

指を差した方向へ視線を向けると彼氏は彼女の肩から腕を離し前屈みになって笑い出した。

「あれはヤバいな!」

「ヤバいっていうよりキモイよ。」

笑いの対象にされた2人は仲睦まじく手を繋いで歩いている。

「あんなに密着して手を繋いでんだ。どんだげ母ちゃんが好きなんだよ。
あのガキ。」

「どっからどう見たってマザコンだよね。あの男の子はママと毎日、お風呂入ってそう。」

「おいやめろよ!おまえが変なこと言うから想像しちゃったじゃねえか。」

彼氏は吐く真似をしながら笑っていると、ボブカットで花柄のロングスカートを履く品の良いスリムな女性と手を繋いだ少年らしき人物が立ち止まり振り返った。

「あらら、こっち見てる。気付かれちゃったかな?」

「おまえのせいだぞ?
あのマザコンのガキ、俺らに馬鹿にされたショックで泣いちまうかもしれねえ。」

「マザコンのガキだと?誰に対してそんな事を言っているんだ?」

眼光鋭く春彦はカップルを睨む。

カップルは互いの顔を見合わせて笑いながら言った。

「ママと手繋ぎデートをしているマザコンはこの場におまえしかいねえだろ?」

「何を言ってるんだ貴様!青二才の分際でこの私に喧嘩を売るつもりか?
この大バカモンが!」

「春君。不良なんて相手にしてはダメよ。」

「いくら他所様の子でも、大人に向かってあの口の聞き方は見逃す事はできないぞ。
ここは社会人として、説教してやらねばなるまいな。」

2人の会話を聞いて再びカップルは顔を見合わせて笑った。

「ガキのくせに俺に説教だぁ?
マザコンの春君よ、おまえは母ちゃんの言うとうりにしなさい!
おまえが粋がったところでこの俺に敵うわけがねえんだぞ?」

突然、カップルの彼氏が隣にいた彼女の背後に回り込み、乳房を両手で揉みしだいた。

「いきなりなにすんの?やめてよ。やめてったら!」

「ガキィ!俺はなこんな事もできちゃうだぞ?
おまえは母ちゃんのオッパイしか触った事のない童貞だもんな。
ほら、どうだ?羨ましいか?」

春彦は妻の夏子の制止を無視してカップルに向かって行く。

「ちょっとあの子、興奮してこっちきたよ!」

「ギャハハ!マジだ!おまえの乳で興奮してやがる!
オラ、どうする?マザコンの春君よ!
ママの乳とギャルの乳、比べてみるか?」

「公衆の面前で破廉恥はれんちな行いをするんじゃない!」

春彦はカップルの彼氏の脳天にチョップを叩き込んだ。

「んがぁ!」

カップルの彼氏は座り込み、頭部を両手で押さえてうめき声をあげている。

「まだだ!もう1発!」

「春君!!もうやめなさい!!」

語気を強めた夏子は春彦の腕を掴んで止めた。

「今日は私達夫婦の15
大切な日につまらない喧嘩なんかして台無しにしてしまうの?」

「夏子、おまえの気持ちはわかる。しかしだな、これは喧嘩ではない。
厳しく律する事を怠ってきた親、学校、それから地域が若者の教育に無関心できたツケを私がーーーー」

「春君、このままでは予約したレストランに遅刻してしまうわよ。」

腕時計を見つめながら夏子は低い声で言った。

「しまった。それは不味いぞ。遅刻は良識ある社会人としてあるまじき行為だ。」

春彦は皺を気にしてワイシャツを手で整え、ピカピカに光った革靴を鳴らして夏子と共に歩き始めたが、言い足りなかったようで立ち止まった。

「君もその男と同類だが、まだ間に合う。
今すぐ粗暴な男と別れ真っ当な道を歩むべきだ。」

胸の谷間やヘソが見える服を着た若い娘を春彦は軽蔑した表情で見ている。

「いいかね?まずはそのだらしない服装を改めなさい。
服装の乱れは心の乱れだ。
教養を身につける事を常に念頭においてーーーー」

「春君!」

「夏子、なぜ君はーーーー」

「時間がないと言ってるじゃないの!」

夏子は春彦に背を向けて足早に歩き出した。

「いいかね?人間力を磨きなさい!」

早口で捲し立てた春彦は夏子を追い、すぐに追いつくと隣に並んで何事もなかったかのように歩き出した。

























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