私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

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ラスト あれから

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「おかえり!今日もお疲れ様です!」

「おぉ。またこんな時間かい。」

先日購入したばかりの壁にかけられた北欧の時計は静かに午前12時を指していた。
両親の影響でソラも北欧風の家具が好きなのだ。

「昨日もすぐ寝ちゃって、お昼ご飯を食べなかったでしょ。
今日はしっかり食べなきゃダメよぉ。
最近は顔色も悪いし、やつれてるじゃない。」

「指摘されるほど、そんなにやつれたか?
自分ではよくわかんねぇんだよな。
メンバーにもスタッフにも同じ事言われんだよ。」

ウミは首を傾げた。

「自覚がない事が1番怖いんだから!
倒れたらどうするの?」

「大袈裟なやつだな。」

「口答えしないで。
とにかく早く座りなさい。ちゃんと食べなきゃダメなんだからね。
そもそも夫の健康管理もできないなんて、妻である私にとって恥だわ。」

ブラウンの2人掛けテーブルの上には、サバの味噌煮、肉じゃが、きんぴらごぼう、茄子の煮浸しが和食器に添えられている。

「美味そうだな。でもよ、悪りぃけど寝ちまってもいいか?
後で必ず食うからさ。」

「また私の愛情を込めた手作り料理を無駄にするの?
昨日だって、そんな事を言って結局食べなかったじゃない。
変わりにセラが食べてくれてるけど、セラの為に作ったんじゃないんだよぉ?」

「俺の為に作ってくれてるのに残してしまって申し訳ねぇって思ってる。
でもよ、寝ないと頭が痛くってさ。」

「ちょっと待ちなさいよぉ!」

呼び止めるソラを無視したウミは、やや朦朧もうろうとした意識のなか、シャワーを浴びる為、浴室へ向かい着替え始めた。

「うぅ、ウミィ。」

ウミはキッチンから苦しそうなソラの声が微かに聞こえた。

「おいソラ?どうしたんだ!?」

口元を押さえたソラの元へウミは急いで駆け寄り背中をさすった。

「大丈夫かよ!?具合が悪いんだな!」

言葉を発せずソラはうんうんと頷くだけだ。

キッチンで苦しそうにしているソラの背中をさすって、声をかけていく。
それくらいしかウミにはできず、救急隊を呼ぶべきか考えていた。

「ウミィ…私はもう大丈夫だから。」

「大丈夫なもんかよ。辛そうじゃないか。」

「まだ、ちょっと気持ち悪いけど少し落ち着いてきた。」

「とにかくベッドへ行こう?歩けるか?」

苦しそうにしているソラの判断を待たず、ウミはソラを抱き上げてベッドに慎重過ぎるほどそっと横たわらせた。

「ありがとう…。でも、もうそんなに心配しないでね。」

心配な表情でウミは真上から顔を近づけると、大きな瞳、天然の長いまつ毛をしたソラと目が合った。

「あのね、ウミィ。たぶん悪阻つわりだと思うの。」

「ツワリ?」

「うん。赤ちゃんができたのかも。」

「なんで?」

「なんでって…。」

ソラは夫の発言に呆れつつ、ウミにとっても初めての経験で気が動転してもしかたないと思い、心配した顔つきの夫に優しく言った。

「ちょっと前からね、身体の変化を感じてた…。
私はこのところ、立ち眩みがしたり匂いで気持ち悪くなっていたの。」

「そうだったのか。
俺はどうすればいいんだ?出来ることがあれば言ってくれ。」

眠気などとっくに失せてしまっている。

「おかげで楽になってきた。
また辛くなった時は手伝ってもらうけどいい?」

「ああもちろんだ。」

「さっそくだけどね。ウミィ?」

「なんだ?遠慮せずなんでも言ってくれ?」

「お風呂に入った後は、ご飯をちゃんと食べてね。」

「うん…。」

きっと俺より体調が悪いのに、ソラは俺の身体を優先して気遣ってくれている…。
ウミはせつなげな表情を浮かべた。

「俺、ソラと…。」

「ソラと?」

ウミは視線をソラの顔から腹部を見た。

「ソラと、ソラと俺との子を守るよ。」

ウミの発言を聞いたソラは目を細め、静かに微笑んだ。

「俺、風呂入るけど、何かあったらすぐ呼んでくれ!
あぁ、でも妊婦をひとりっきりにするのは心配だな。
風呂なんざ入るのやめちまうか?」

「ウフフ、早く入っておいでよぉ。
そのまま裸でいたら風邪をひいちゃう。」

「おぅ?あっ!」

着替え中、妻の異変に気付き慌てて脱衣所から飛び出してきたのでウミは裸であった。
恥ずかしそうにそそくさと寝室を出ていく。

裸足でフローリングをドタバタ歩く足音を耳にして、ソラはクスクス笑いながら思った。

妻の私に照れてばかりもどうかと思うけど、やっぱりあのくらい恥じらいがある方がウミらしくて可愛いわ。

ソラは腹を優しく手で撫でながら、明るい未来を想像していた。




























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