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ラスト あれから
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ソラは運転席にウミが乗っている事に気付かない。
「ソ…。」
声をかけて起こそうと太ももを摩ったが、助手席のシートを倒して寝息をたてる妻を見て口を閉ざし、すぐ手を離した。
ずっとこのままポンコツ軽トラックの運転席で居座わりたくもなかったが、グッスリ寝ているソラの邪魔をするのは憚れる。
少しの間くらいこのまま寝かせてあげよう。ウミは思った。
フロントガラスに2枚、桜の花びらが貼り付いていた。
桜が舞い散る春とはいえ夜は冷える。
肌寒い車内でウミは暖房をつけた。
「ウミィ。暖房なんか必要ないよぉ。」
「うおっ!?ソラ、起きてたのかよ?」
「今起きたの。
私は暑いのが苦手だって知っているでしょ。
水風呂に浸かるくらいなんだからね。」
武装を外しながら喋った。
「ところでよ、ソラはなんでこんな所で寝てたんだ?
俺もセラちゃんも心配して探したんだぞ。」
ソラは妹と色違いの薄いピンク色のオーバーオールから、はみ出そうな乳房を手で抑えながら、キリッとした表情をウミに向けた。
「ふーん。私の事を心配したんだ?
いなくなって焦った?
泣いた?」
「…そりゃあ焦ったよ。
泣いてはねえけど…。」
「なんだぁ。泣いてないのか。
以前だって私が家出しても、泣きもしないし、再会後も私の言いなりにならなかった。
ミカミに襲われたライブ当日だって、ウミの愛はすごく感じたけど私はーーーー」
「おまえ、まさかまた家出を企てているつもりか?」
ウミはソラの話を遮って質問をしたが、ソラは答えず黙っている。
「あのな、これでも俺は前回のおまえの家出の件で反省したんだぜ。
夫婦なんだし、もっとコミュニケーションを取らなきゃダメだってな。
またもや、忙しくなって一緒にいる時間を作れなくなっちまってるけど、そんでも以前より俺なりに努力はしてーーーー」
今度はやり返すようにソラがウミの話を遮った。
「わかってるよぉ!
そんなのちゃんとわかってる!
バンドで売れっ子になって忙しいのも、それでも以前よりはできる範囲で私に寄り添ってくれている事もね。
でも、私は怖いのよぉ…。」
ソラは手で顔を覆った。
「何がこえーんだ?」
ハンドルを握ったウミは答えた。
「…メジャーデビューしてから、メディアの露出も増えたでしょ?
あれから女子のファンもすごく増えた。
SNSでバンドやウミを検索すると、気持ち悪い書き込みがたくさんあるんだもの。」
ウミが言い返そうとしたが、ソラは被せて言った。
「ウミに関連する書き込みの中から、私の事を呟く文章も見つけたよぉ。
それは1つや2つじゃない、たくさん。
ウミは見た目だけのあんな女と離婚した方がいいとか、"日本一可愛い美少女"と呼ばれて男を侍らす芸能人気取りのビッチとか、ウミの音楽活動の妨げになっている悪女とか…。
あんなのを読むたびに…私がウミの元からいなくれば、ウミは幸せになれるのかなって…私が足を引っ張っているのかなって…。
ずっとずっとウミの事ばかり考えているよぉ。
アンタより、私の方が夫を想う愛が強いんだからね。」
「ソ…。」
声をかけて起こそうと太ももを摩ったが、助手席のシートを倒して寝息をたてる妻を見て口を閉ざし、すぐ手を離した。
ずっとこのままポンコツ軽トラックの運転席で居座わりたくもなかったが、グッスリ寝ているソラの邪魔をするのは憚れる。
少しの間くらいこのまま寝かせてあげよう。ウミは思った。
フロントガラスに2枚、桜の花びらが貼り付いていた。
桜が舞い散る春とはいえ夜は冷える。
肌寒い車内でウミは暖房をつけた。
「ウミィ。暖房なんか必要ないよぉ。」
「うおっ!?ソラ、起きてたのかよ?」
「今起きたの。
私は暑いのが苦手だって知っているでしょ。
水風呂に浸かるくらいなんだからね。」
武装を外しながら喋った。
「ところでよ、ソラはなんでこんな所で寝てたんだ?
俺もセラちゃんも心配して探したんだぞ。」
ソラは妹と色違いの薄いピンク色のオーバーオールから、はみ出そうな乳房を手で抑えながら、キリッとした表情をウミに向けた。
「ふーん。私の事を心配したんだ?
いなくなって焦った?
泣いた?」
「…そりゃあ焦ったよ。
泣いてはねえけど…。」
「なんだぁ。泣いてないのか。
以前だって私が家出しても、泣きもしないし、再会後も私の言いなりにならなかった。
ミカミに襲われたライブ当日だって、ウミの愛はすごく感じたけど私はーーーー」
「おまえ、まさかまた家出を企てているつもりか?」
ウミはソラの話を遮って質問をしたが、ソラは答えず黙っている。
「あのな、これでも俺は前回のおまえの家出の件で反省したんだぜ。
夫婦なんだし、もっとコミュニケーションを取らなきゃダメだってな。
またもや、忙しくなって一緒にいる時間を作れなくなっちまってるけど、そんでも以前より俺なりに努力はしてーーーー」
今度はやり返すようにソラがウミの話を遮った。
「わかってるよぉ!
そんなのちゃんとわかってる!
バンドで売れっ子になって忙しいのも、それでも以前よりはできる範囲で私に寄り添ってくれている事もね。
でも、私は怖いのよぉ…。」
ソラは手で顔を覆った。
「何がこえーんだ?」
ハンドルを握ったウミは答えた。
「…メジャーデビューしてから、メディアの露出も増えたでしょ?
あれから女子のファンもすごく増えた。
SNSでバンドやウミを検索すると、気持ち悪い書き込みがたくさんあるんだもの。」
ウミが言い返そうとしたが、ソラは被せて言った。
「ウミに関連する書き込みの中から、私の事を呟く文章も見つけたよぉ。
それは1つや2つじゃない、たくさん。
ウミは見た目だけのあんな女と離婚した方がいいとか、"日本一可愛い美少女"と呼ばれて男を侍らす芸能人気取りのビッチとか、ウミの音楽活動の妨げになっている悪女とか…。
あんなのを読むたびに…私がウミの元からいなくれば、ウミは幸せになれるのかなって…私が足を引っ張っているのかなって…。
ずっとずっとウミの事ばかり考えているよぉ。
アンタより、私の方が夫を想う愛が強いんだからね。」
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