上 下
268 / 275
ラスト あれから

267

しおりを挟む
あの時と変わらない、吹き抜けるビル風を浴びて夜の景観を眺めていると、またスマホが鳴った。

先ほどとは違い慌てふためく事はなくスマホをとった。

「お義兄さん姉貴がいたよ!」

「どこにいたんだ?」

「あたしらが住むマンションの駐車場!
お義兄さんのスポーツカーではなく、奥まったとこに止めてある軽トラの助手席で眠っているよ!」

「わかった。ありがとうセラちゃん。
俺は広範囲に及んで捜索していたから、ちょいと自宅まで戻るのが遅くなっちまうけど、できるだけ早く帰るよ。」

ウミは電話を切るまで何度も義妹にお礼を言っていた。

ソラのヤツ、なんだって軽トラなんかで寝ていたんだ?
運転免許もないし、1人じゃ怖がって車にも乗れないほどビビりなのに。

急傾斜の長い階段を軽快に下っていく。
スニーカーから鳴る足音はリズミカルで、弾んでいた。



自宅マンションに着くと、ウミはセラに連絡をした。

金髪に染めたショートカットの義妹がドアを開けてすぐやってきた。

「お義兄さん、あたしマジでビビったよ。だってさ、戻ってくんの早いんだもん。」

「身体を鍛えているセラちゃんの方が、おそらく俺より体力あると思うけどな。」

ウミは照れくさそうに鼻を人差し指で擦った。
1時間以上はかかる道のりをウミは30分もかからず帰宅していたのだ。

「お義兄さんは姉貴が見つかって嬉しいんだね。」

「えっ?」

セラに指摘されたウミは自分の感情に気付いた。

「電話だって1回目と2回目とじゃ、反応が全然違うもん。
ムエタイの試合で例えるなら、2回目はTKO勝ちしたくらい嬉しそうだったから。」

笑うだけでウミは答えなかった。
自分の喜ぶ感情に気付いたのと同時に、義妹に心を見透かされた気がして恥ずかしかったのだ。

「じゃあ、あたしはここまで。
後はお義兄さんが、姉貴と2人きりで話をしてよ。」

「セラちゃんは、ソラとは話さなかったのか?」

「うん。あたしは見つけただけ。
突然、消えた姉貴を説教してやろうとも思ったけど、それは止めたわ。
姉貴を叩き起こして部屋に無理やり連れ込む事はしなかった。」

セラはニヤニヤしながら続けて話す。

「だって姉貴はヒロコさんから撮ってもらった、お義兄さんのライブ中の写真を何枚も手に持ったまま、寝てるんだもん。
これは以前とはちょっと違うなーってあたしにもわかる。
お義兄さんもあの頃より姉貴の気持ちに寄り添ってくれてるじゃん?」

軽トラックの荷台の真後ろでセラはウミの背中を押した。

「さっきも言ったけど、あたしはここまで。
愛し合う姉夫婦に妹の出る幕はないもんね~。
末長くお幸せに!」

少しウミを揶揄からかいながら、マンションの入り口に帰っていった。

助手席の窓をウミは覗きこんだ。眠る妻はしっかり武装をしている。

何を話せば良いかわからなかったが、夫婦喧嘩にはならないだろう。
感覚的にウミはそう思った。

運転席側に回り、ドアの鍵を開け席に腰をかけた。

























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

偽りの結婚生活 スピンオフ(短編集)

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
前作のヒロイン、朱莉を取り巻く彼らのその後の物語 <偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡> これはヒロイン朱莉に関わった人々のその後を追った物語。朱莉に失恋した航、翔、京極、蓮・・彼らはその後どうなったのか―? ※ カクヨムにも掲載しています

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...