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ラスト あれから
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あの時と変わらない、吹き抜けるビル風を浴びて夜の景観を眺めていると、またスマホが鳴った。
先ほどとは違い慌てふためく事はなくスマホをとった。
「お義兄さん姉貴がいたよ!」
「どこにいたんだ?」
「あたしらが住むマンションの駐車場!
お義兄さんのスポーツカーではなく、奥まったとこに止めてある軽トラの助手席で眠っているよ!」
「わかった。ありがとうセラちゃん。
俺は広範囲に及んで捜索していたから、ちょいと自宅まで戻るのが遅くなっちまうけど、できるだけ早く帰るよ。」
ウミは電話を切るまで何度も義妹にお礼を言っていた。
ソラのヤツ、なんだって軽トラなんかで寝ていたんだ?
運転免許もないし、1人じゃ怖がって車にも乗れないほどビビりなのに。
急傾斜の長い階段を軽快に下っていく。
スニーカーから鳴る足音はリズミカルで、弾んでいた。
自宅マンションに着くと、ウミはセラに連絡をした。
金髪に染めたショートカットの義妹がドアを開けてすぐやってきた。
「お義兄さん、あたしマジでビビったよ。だってさ、戻ってくんの早いんだもん。」
「身体を鍛えているセラちゃんの方が、おそらく俺より体力あると思うけどな。」
ウミは照れくさそうに鼻を人差し指で擦った。
1時間以上はかかる道のりをウミは30分もかからず帰宅していたのだ。
「お義兄さんは姉貴が見つかって嬉しいんだね。」
「えっ?」
セラに指摘されたウミは自分の感情に気付いた。
「電話だって1回目と2回目とじゃ、反応が全然違うもん。
ムエタイの試合で例えるなら、2回目はTKO勝ちしたくらい嬉しそうだったから。」
笑うだけでウミは答えなかった。
自分の喜ぶ感情に気付いたのと同時に、義妹に心を見透かされた気がして恥ずかしかったのだ。
「じゃあ、あたしはここまで。
後はお義兄さんが、姉貴と2人きりで話をしてよ。」
「セラちゃんは、ソラとは話さなかったのか?」
「うん。あたしは見つけただけ。
突然、消えた姉貴を説教してやろうとも思ったけど、それは止めたわ。
姉貴を叩き起こして部屋に無理やり連れ込む事はしなかった。」
セラはニヤニヤしながら続けて話す。
「だって姉貴はヒロコさんから撮ってもらった、お義兄さんのライブ中の写真を何枚も手に持ったまま、寝てるんだもん。
これは以前とはちょっと違うなーってあたしにもわかる。
お義兄さんもあの頃より姉貴の気持ちに寄り添ってくれてるじゃん?」
軽トラックの荷台の真後ろでセラはウミの背中を押した。
「さっきも言ったけど、あたしはここまで。
愛し合う姉夫婦に妹の出る幕はないもんね~。
末長くお幸せに!」
少しウミを揶揄いながら、マンションの入り口に帰っていった。
助手席の窓をウミは覗きこんだ。眠る妻はしっかり武装をしている。
何を話せば良いかわからなかったが、夫婦喧嘩にはならないだろう。
感覚的にウミはそう思った。
運転席側に回り、ドアの鍵を開け席に腰をかけた。
先ほどとは違い慌てふためく事はなくスマホをとった。
「お義兄さん姉貴がいたよ!」
「どこにいたんだ?」
「あたしらが住むマンションの駐車場!
お義兄さんのスポーツカーではなく、奥まったとこに止めてある軽トラの助手席で眠っているよ!」
「わかった。ありがとうセラちゃん。
俺は広範囲に及んで捜索していたから、ちょいと自宅まで戻るのが遅くなっちまうけど、できるだけ早く帰るよ。」
ウミは電話を切るまで何度も義妹にお礼を言っていた。
ソラのヤツ、なんだって軽トラなんかで寝ていたんだ?
運転免許もないし、1人じゃ怖がって車にも乗れないほどビビりなのに。
急傾斜の長い階段を軽快に下っていく。
スニーカーから鳴る足音はリズミカルで、弾んでいた。
自宅マンションに着くと、ウミはセラに連絡をした。
金髪に染めたショートカットの義妹がドアを開けてすぐやってきた。
「お義兄さん、あたしマジでビビったよ。だってさ、戻ってくんの早いんだもん。」
「身体を鍛えているセラちゃんの方が、おそらく俺より体力あると思うけどな。」
ウミは照れくさそうに鼻を人差し指で擦った。
1時間以上はかかる道のりをウミは30分もかからず帰宅していたのだ。
「お義兄さんは姉貴が見つかって嬉しいんだね。」
「えっ?」
セラに指摘されたウミは自分の感情に気付いた。
「電話だって1回目と2回目とじゃ、反応が全然違うもん。
ムエタイの試合で例えるなら、2回目はTKO勝ちしたくらい嬉しそうだったから。」
笑うだけでウミは答えなかった。
自分の喜ぶ感情に気付いたのと同時に、義妹に心を見透かされた気がして恥ずかしかったのだ。
「じゃあ、あたしはここまで。
後はお義兄さんが、姉貴と2人きりで話をしてよ。」
「セラちゃんは、ソラとは話さなかったのか?」
「うん。あたしは見つけただけ。
突然、消えた姉貴を説教してやろうとも思ったけど、それは止めたわ。
姉貴を叩き起こして部屋に無理やり連れ込む事はしなかった。」
セラはニヤニヤしながら続けて話す。
「だって姉貴はヒロコさんから撮ってもらった、お義兄さんのライブ中の写真を何枚も手に持ったまま、寝てるんだもん。
これは以前とはちょっと違うなーってあたしにもわかる。
お義兄さんもあの頃より姉貴の気持ちに寄り添ってくれてるじゃん?」
軽トラックの荷台の真後ろでセラはウミの背中を押した。
「さっきも言ったけど、あたしはここまで。
愛し合う姉夫婦に妹の出る幕はないもんね~。
末長くお幸せに!」
少しウミを揶揄いながら、マンションの入り口に帰っていった。
助手席の窓をウミは覗きこんだ。眠る妻はしっかり武装をしている。
何を話せば良いかわからなかったが、夫婦喧嘩にはならないだろう。
感覚的にウミはそう思った。
運転席側に回り、ドアの鍵を開け席に腰をかけた。
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