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ラスト あれから

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駐車場にピカピカのスポーツカーが得意げに止まった。

ガチャ

ガルウィングドアから颯爽さっそうと出てきたのはウミだ。

メジャーデビューした時、ウミの音楽性に大変惚れ込んだスポンサーから貰った車だった。

ウミは玄関の鍵を開けてドカドカ足音を鳴らし意気揚々と部屋に入っていく。

部屋は真っ暗でカーテンもされていない。

いつもなら玄関ドアを開けた瞬間、笑顔のソラが抱き付いてきて手を引っ張ってくるはずなのに。

不審に思いながら各部屋の電気をつけて回るがソラの気配はなかった。

「ソラ、どこにいる?」

買い物でも行ったのかとウミは考えたが、過去に起きた筆舌に尽くし難い数々の出来事のせいで、独りで外出ができなくなる程のトラウマを抱えてしまっており、外出する際は必ずウミやセラが付き添って出掛けていた。

ではソラはどこへ?
静まり返った部屋で不安が募る。

ボロアパートに住んでいた時代のエピソードを思い出したウミは、居るはずがないとわかっていても探す場所がなくなった為、風呂場に行き浴槽を調べた。
エアコンがなく極貧状態だった頃、熱帯夜で寝付けなかったソラはシュノケールを装着して熱った身体を冷やす為、水風呂を浴びていた事があったからだ。

今では快適な生活をおくる夫婦だ。
当然といえば当然だが、風呂場でシュノーケルをしたソラの姿はなかった。

まさか、またミカミに襲われたのか?
いやいやそれはあり得ない。
ミカミなら有罪判決を受けて執行猶予なしの実刑判決を言い渡されている。

それならソラを付け狙った弱小YouTuberが再生回数を増やしに性懲りも無くやってきたのか?
全て棒に振ったニシ達の逆恨みでソラを襲ったのか?
或いは新手の変態か?

ウミはあらゆる可能性を張り巡らせて最悪な事態ばかり想定している。

ハッとした顔を浮かべたウミは焦る気持ちを抑え、隣に住む義妹のインターフォンを押す。

「はーい!ちょっと待ってね。」

義妹の普段と変わらない活発な声を聞いてウミは少しホッとしている自分に気付いた。

「お疲れさま!お義兄さん、どうしたの?」

セラは独りで玄関先で立ち尽くすウミを見た後、姉がいないのを不思議に思い通路を見回した。

「セラちゃん。自宅に着いたらソラがいないんだよ。
そんで、もしかしたらセラちゃんと一緒じゃないのかなと思って。」

早口でウミは話をした。

「えっ?姉貴いないの?」

白いオーバーオールを着たセラは義兄を見て首筋に手を当てている。

「あたしは今日仕事が休みだったから、姉貴から買い物の誘いがあるんだけどね、今日に限って連絡がなかったんだ。」

ソラはバンドで見事メジャーデビューを果たし、多忙を極めるウミを支えたいとの事で、やり甲斐のあった写真スタジオ・ヒロコを退職し専業主婦に専念していたのだ。

「セラちゃんとこも、いないってなるとどこへ行ったんだろ?
俺にゃ見当もつかなくてさ…。」

「姉貴に電話した?あたしはヒロコさんに電話をしてみるよ。」

ポケットからスマホを取り出したウミはソラに連絡を入れる。
待たされる呼び出し音から流れてくるのはウミのバンドの曲だった。
デジタル音痴のソラに再三頼まれて"オレンジ・ミュージック"から、曲をダウンロードして設定してあげていた。

「姉貴はヒロコさんとこにいないって。
ヒロコさんの隣にたまたま居たオオニシさんも今日は見かけてないって言ってた。」

「アイツ、いったいどこへ行っちまったんだ?」

「武装道具は部屋にある?
あるのとないとでは、今後の展開も変わってくるよ。」

「…いつもならドレッサーに一式置いてあるんだ。
なくなっていたから外出しちまってるって事だな。」

外出時の必需品である武装道具を装着しなければ、"日本一可愛い美少女"はあっという間に身元がバレ、つけ狙う変態達の餌食となるだろう。

「ちっくしょう!心配ばっかかけさせやがって!」

「…今ね、かつらちゃんにメッセージを送ったんだけど、かつらちゃんも心当たりがないって返信がきた。」

「ソラのヤツ、また家出をしちまったのかもな…。」

「お義兄さんは思い当たる節があるの?」

タイプは異なれど妻にそっくりな顔をした義妹が心配そうに義兄の瞳を覗きこむ。

「ミカミの件以降、俺の生活は一変した。環境がインディからメジャーシーンに変わったからな。
メジャーで音楽活動するようになってからアイツが家出をする以前より更に多忙になってしまってさ。
それからスタジオで缶詰になったり不規則な生活が毎日のように続いていたんだよ。
俺は殺人的なスケジュールをこなしながら、音楽に没頭していた。
もしソラがまた家出をしたんなら…たぶん…いや、きっと俺が原因だと思う。」

「姉貴の異変には気付いていた?」

「殺人的なスケジュールなんて言ったけど俺は充実していたよ。
なんだかんだ好きな事をやってるから楽しいしさ。
そんな音楽だけの生活を営んでいくなかで、夫婦の時間が少なくなった事に関し、ソラは不満こそ口にしても、これといった喧嘩をしなかったから、あの頃と違って理解してくれていたと俺は実感していたんだけどな…現実は違ったみたいだ。」

う~んと腕を組みセラは考えている。

「こうなったらシラミ潰しで姉貴を探そう。
あたしも手伝うからね!」

「ありがとう!セラちゃん、本当にありがとう!」

「あたし、ユウシンん家に行って聞いてみる。」

「俺はマンション周辺から探すよ。見つかったら電話をしてくれ。」

「うん。あっ、お義兄さん。ちょっと待って!」

セラは振り返ってウミを呼びつけた。

「いくら寂しいからって姉貴は身勝手過ぎるよ。
前回の家出騒動だってみんなを巻き込んで、あれだけ大規模な事件に発展したんだ。
これ以上、お義兄さんは姉貴に振り回されたらダメだね。」

ウミはなんて答えればいいかわからず、気まずそうに苦笑いをした。

「それと、ちょっと言いにくいんだけどさ…。」

オーバーオールのポケットに両手を突っ込みながら、セラはウミに目を合わせず、間を置いて言った。

「お義兄さんもちゃんと姉貴と密にコミュニケーションをとるべきじゃないかな。
夫婦なんだから姉貴と向き合う時間を大切にして欲しいなぁ。
姉貴にはお義兄さんしかいないからね。」

義妹であるセラのまっすぐな発言にウミは胸がズキズキ痛んだ。








































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