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招かれざる客…

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「こんなところで油を売っている場合ではないはずだ。
早く楽屋に戻るんだ。」

ニシは冷静な口調でギタリストに告げた。

「ニシ先生、コイツは俺の知人なんですが、さっき連絡があって迎えにきたんです。
中へ通したいんですが、ほら、その、彼らがね…。」

苦笑いを浮かべたギタリストは砂城院家の従業員に指をさした。
ニシは向けられた指の先を見ると、砂城院家の従業員と目が合う。

「ああ、それで外出していたのか。
関係者席ならまだ空きはあるが…彼はどなたかね?」

ギタリストとミカミは互いに顔を見合わせる。

と申します。」

は咄嗟に偽名を使いニシに伝えた。

「…カワミさんだね、まぁいい。
中へ入りたまえ。それより早く準備するんだ。」

「勝手は許さん。」

筋骨隆々の砂城院家の従業員が通路を塞ぐ。

「ニシ先生は俺のバンドのプロデューサーですよ。
プロデューサーが認めたのだから問題はないでしょう。
そこまでアンタらが邪魔をする権利はないはずだ。」

「身分証を見せろ。」

「だから彼はカワミだって言ってんでしょう?」

ギタリストは感情的に言い返した。
当のは顔を上げる事ができず、ただただビクビクして俯いている。

「今からおまえをボディチェックする。
おまえに拒否する権利はない。」

美人でスタイルの良い砂城院家の女が言うと、ミカミは途端に笑顔になって頷いた。

「脱げ。」

「はい!!」

「そこまでさせる必要があるのかよ。」

変装がバレてしまう事を危惧するギタリストが口を挟むものの、冷血な美人に命令されたミカミは性的な衝動にかられ、チノパンのベルトをカチャカチャ音を鳴らし外しはじめた。

「キミらは横暴過ぎやしないかい?
彼はバンドメンバーの関係者であって、それ以上でもそれ以下でもない。」

ニシは美人に脱ぐよう命令され、喜び赤面しているミカミの手を止めさせた。

「止めるな。さっさと脱ぐんだ。」

筋骨隆々の男がニシを突き飛ばし、ミカミのチノパンに手をかける。

「ちょっと、なんだ?なんでアンタなんだ?お姉さんは?おい、止めろ止めてくれ!」

「もういい!彼を会場に入れないので暴力行為はやめてくださいよ!」

その言葉を受けて筋骨隆々の男は手を止めた。
砂城院家の他の従業員達はギタリストの顔を一斉に見た。

「いいだろう。さっさとここを出ていくんだな。」

ミカミは肩を落としすごすご会場を出て行った。

「大切なライブをほっぽらかして、いったい全体どこへ行くつもりだ。」


こめかみ部分を指で押さえたニシはミカミとともに出入り口へ向かうギタリストを追った。

「いい加減にしろ。
神園のバンドは今、最高潮の盛り上がりなんだぞ!
このままではだなーーーー」

ギタリストはニシの言葉を遮った。

「知っていますよ。
このまま普通にライブを演ったところで、我々はウミの圧巻のライブに食われて終わりです。
俺らマイスクは完全敗北ですね。」

力量と埋める事のできない才能の差を痛感したギタリストの発言にニシは返す言葉がなかった。

「計画は予定通りいかなかったからな。」

ニシはそう言うと、目線をミカミに移した。
汚物を見るかのように。

「彼は何者だ?」

「彼?彼は、ウミのライブをぶっ壊す最後のウェポンですよ。」




























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