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これじゃどうする事もできねえよ!!

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エレキギター、ベース、ドラムを砂城院家の従業員が手際よく運んできた。

「なんとか間に合ったな。かつらには感謝だぜ。本当にありがとう!」

ウミは深々と頭を下げる。

「そんな、そんな。お気になさらないで。
ワタクシは出来る範囲の協力をしただけですから。」

「楽器をかつらちゃんに持ってこさせたってことは…。」

「まぁ、俺が独りでやってもいいんだけどよ、こっちの方がみたいで面白いと思ってさ。
別に開き直ったわけじゃねえけど。」

ソラに笑いながらウミは言った。
やる気が失せたのか冷静さを取り戻したのか表情や声のトーンだけではウミの状態を判断できない。

「ほら?お姉ちゃん。ウミくんはママを頼ったのよ。
見ていなさい?トリのバンドを食べてやるから!」

「ママの勘違いも甚だしいわ。
ねぇ、セラからもなんか言ってよぉ…。」

やる気満々の母を見てソラは額に手を当てソファにダラリと座りこんでしまった。

「ねぇ、マジなわけ?マジでこの後、お義兄さんと一緒にライブやるの?
そもそもあたしら、お母さんがドラムをやっていたなんて知らなかったし。」

「今まで言わなかっただけ。聞かれもしないしね。
それにね、セラ。
今更、嘘でーす!本当はドラムなんか触った事もないでーす!
なんて事をウミくんの前で言えると思う?
安心して!ママは腕に自信ありありよ!」

母はセラに近づき、革ジャンのジッパーを下ろすとインナーのシャツを手で強引に引っ張り始めた。

「なにすんのさ!」

「アンタ、服に着せられてるわよ。着慣れてないのがまるわかり。
それでパンクロッカーのつもり?
さっきから気になってママ、仕方なかったんだから。」

引っ張られたシャツはヨレヨレになり、セラの革ジャンから覗く乳房が大胆になった。

「嫌がってるじゃない!ママ、みんなの前でやめてよね!セラだって女の子だよぉ!」

「でも、この子は普段からかなり露出を好むじゃない?ねぇ、セラ?」

棘のある話し方だった為、言い返そうと思ったが、義兄の置かれた状況を考えれば母と口論するのは適切ではないと判断しセラは口をつぐんだ。

「お姉ちゃんはKISSをイメージしたの?
狙いは良いけど、まだまだね。
ママに任せなさい。」

母は長女のソラに近づいていく。

「ママやめてぇぇ来ないでぇぇ!」

「あ、あの、ちょっといいすか?ソラのお義母さん?」

頭を掻きながらウミが義母に話しかけた。

「あら、ごめんなさいね。今夜の主人公を置き去りにしちゃったわ。」

「…おっさん達とも話をしないとならないんで。」

「静かにしろってことよぉ!わかった?ママ?」

みんなから離れた場所にいるソラは語気を強めて言った。

「けっこう強引に話を進めてしまったが、ステージに上がってもらえる、かな…?」

「オガタ!お願いよ。神園くんに協力してあげて。」

オガタが難色を示す前に、瞼を閉じて祈るようにかつらは手を合わせて言った。

「…わかりました。お嬢様の頼みなら引き受けましょう。」

「ありがとう。オガタ。」

ウミはすぐさま、エレキギターをオガタに手渡した後、ヒロコを見る。

ウミと視線があったヒロコは全てを理解しており、柄シャツを着た大男の腕を掴んで言った。

「オオニシさん。無理言って悪いのだけれど、ヘルプしてあげて。
その代わりにと言ってはアレだけどさ、ウチ、オオニシさんの格好良い写真をたくさん撮るよ。」

「ヒロコさん、勘弁してくれ。
いくら世話になったヒロコさんの願いでも、こればっかりはお断りせざるを得ないよ。
俺は、えっと…オガタさんだっけ?
俺はオガタさんとは違って、ギターを辞めて30年以上は経つんだ。
ステージに上がるなんてとんでもないって!」

「オオニシさん!」

ヒロコはオオニシに抱きついたが目を逸らした。

「オオニシさんは、ダムドが好きなんだろ?1発目は"New Rose"でどうかな?
もちろん俺がギターだし、ぶっちゃけステージに上がるだけでいいんだ。」

ダムドと聞いてテンションが上がるユラは大喜びした。

「やるわよ!任せて!」

オガタは黙って頷いている。

「それなら、なおさら俺がステージに上がる理由はない。やはり断るよ。」

「オオニシさん?居るだけなら負担はないじゃない。」

姉妹の母ユラがオオニシに言う。

「…オオニシさんが断るのは当然だ。
単に俺がどうしても4人体制のバンドにこだわってしまっただけだから。
オオニシさん、申し訳なかった。」

ヒロコは、かつらとオガタの関係と自分達を比べて少しガッカリしている。

「でもな、俺も兄ちゃんを応援しているんだ。
ステージに上がってギターは弾けないけど、ローディーみたく裏方ならやってやる。
なぁ、それも悪くないだろ?」

「ありがとう!オオニシさん!ローディーがいると助かるぜ!」

ローディーの意味をわかっていなかったが、ヒロコとセラは笑顔になったウミとオオニシを見て、胸元で小さく拍手をして称えている。

みんなが盛り上がる中、輪から離れたソラだけは冷めた顔で見ていた。










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