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「いやー、なんだかんだまとまってきたね!」
スタジオで練習後、馴染みのファミレスで2人きりになったオリジナルメンバーはやる気に満ちた表情で語り合っている。
ドラマーのカズが煙草の煙がウミの顔にかからないように反対方向に吐き出した。
「一時はどうなるかと思ったけどよ、新メンバーもライブに向けて頑張ってくれたと思う。
ニシの方へ靡いたボケどもより、ずっとフィーリングが合うぜ!」
コーラを水代わりにグイグイ飲んでいるウミは笑った。
「あの腹黒ジジイとロックを捨てたバカ共。
元々、ロックでもなんでもなかったのかもな。ペラペラの紙切れみたいな奴ら。」
「ただよ、そのペラペラだけどさ。
やっぱ妙なんだ。
なぜにペラペラは…ニシは対バンに我々を選んだんだろうなと。
なんていっても、ハコはまさかの"AAパイナップルホール"だぜ?
確かに着実に知名度は上げいたとはいえ、あんなでかいハコなんてなんの後ろ盾もない、インディーズの俺らじゃ逆立ちしたってギグはできなかったはずだ。
それなのにだよ?」
カズは真剣な顔でウミを見て言った。
「ウミ、俺はニシから連絡をもらった日から今日までずっと考えてるよ。」
「あー。」
カズの疑問にウミは天井のシーリングファンを眺めて考えた。
「前にも疑問に思って2人でニシ達の思惑について話した事があったな。
いまだに俺にもわからねぇよ。
そういうのは俺よか、カズの方が分析できるんじゃねえの?」
「いやサッパリわからん。」
「でもアレだ、確実なのは俺達は充実してる。
今のままモチベーションを下げずに本番当日に最高の状態で爆発すればいいだけ。
ニシが何を企もうがかんけいねぇよ。
考えたってわかんねえ事で、あんまし頭使わねえ方がいいな。」
「まあ…。」
「長居は無用。
俺はそろそろ帰るわ。
今まで以上にやるべき事はやれてるし、ダラダラここにいても意味ねぇ。」
****
「ウミィ、おかえり!
約束の時間より…おっと15分も早い!上出来です!」
ソラは腕時計で時刻を確認にした。
「かつらちゃんのお家に行ってから早、2ヶ月ちょっと。
あれからウミは遅刻をしない優等生です。
今夜もちゃんと約束の時間に帰ってきてくれてる。
はぁい、みなさんもご一緒にパチパチパチパチ!」
「みなさんて2人きりしかいないだろ。」
ニコニコ拍手をするソラをウミは照れつつも複雑そうな顔だ。
ロックスターを目指しているのに門限を設けられ、それに逆らう事をせず従順に守っている自分が情けなかったのだ。
「じゃーん!ウミの好きなハンバーグがお夕飯だよぉ。」
「おっ!これはありがたいぜ!
ファミレスでミーティングしている時もコーラしか飲んでねぇんだ。
もう腹ペコよ!」
炊飯器からご飯を盛ってウミの茶碗をテーブルに置いた。
「さっきまでセラも居たんだよ。
ライブの事をセラに話したら、ヒロコさんと一緒にライブ行くって。
そのヒロコさんなんだけど、ウミのバンドの撮影もしてくれるみたいだよぉ。」
「えっいいのか?そいつは嬉しいね。
なんせ、あの姉さんはプロだもんな。
前に作品を見させて貰ったろ?ビビった!人の心を掴む写真ばかりだったから。」
「フフフ。良かったウミが喜んでくれて。
ねぇ、冷めないうちに一緒に食べようよ。
私もこのハンバーグだけじゃない。
ご飯を作るって、毎日がライブみたいなんもんなんだからね。」
「あぁ、そうだな!いただきます!」
「いただきまぁす!」
(深夜)
なかなか浮かんでこねぇもんだな。
固まった肩と背中を自己流のストレッチをしてほぐした。
高速道路を走る自動車はライトを照らし、二重サッシで締めらた部屋にノイズをねじ込んでくる。
アナログを好むわけではないが、ウミは鉛筆で歌詞を書いている。
長年続けているこのスタイルに疑問を抱いたことはない。
コアなオーディエンスはおろか、バンドメンバーも知らない新曲。
今のところ完成してもバンドメンバーには知らせるつもりはなく、誰にもお披露目する気はない。
曲を作るのにはさほど苦はなかったが、歌詞がどうしても納得いかなかった。
「スゥ、スゥ。」
ソラがベッドのなかで猫のようにまるくなり寝息を立てている。
ソラの事なんだし、素直にソラを書けばいい。
ウミはシンプルな気持ちに切り替わると、時折り笑いながら、切なくなりながらーーーー原稿用紙を埋めていく。
鉛筆はようやく役割を与えられた。
ソラが買った電気スタンドは小さく優しい灯りで、ウミの手やノートや鉛筆を照らす。
スタジオで練習後、馴染みのファミレスで2人きりになったオリジナルメンバーはやる気に満ちた表情で語り合っている。
ドラマーのカズが煙草の煙がウミの顔にかからないように反対方向に吐き出した。
「一時はどうなるかと思ったけどよ、新メンバーもライブに向けて頑張ってくれたと思う。
ニシの方へ靡いたボケどもより、ずっとフィーリングが合うぜ!」
コーラを水代わりにグイグイ飲んでいるウミは笑った。
「あの腹黒ジジイとロックを捨てたバカ共。
元々、ロックでもなんでもなかったのかもな。ペラペラの紙切れみたいな奴ら。」
「ただよ、そのペラペラだけどさ。
やっぱ妙なんだ。
なぜにペラペラは…ニシは対バンに我々を選んだんだろうなと。
なんていっても、ハコはまさかの"AAパイナップルホール"だぜ?
確かに着実に知名度は上げいたとはいえ、あんなでかいハコなんてなんの後ろ盾もない、インディーズの俺らじゃ逆立ちしたってギグはできなかったはずだ。
それなのにだよ?」
カズは真剣な顔でウミを見て言った。
「ウミ、俺はニシから連絡をもらった日から今日までずっと考えてるよ。」
「あー。」
カズの疑問にウミは天井のシーリングファンを眺めて考えた。
「前にも疑問に思って2人でニシ達の思惑について話した事があったな。
いまだに俺にもわからねぇよ。
そういうのは俺よか、カズの方が分析できるんじゃねえの?」
「いやサッパリわからん。」
「でもアレだ、確実なのは俺達は充実してる。
今のままモチベーションを下げずに本番当日に最高の状態で爆発すればいいだけ。
ニシが何を企もうがかんけいねぇよ。
考えたってわかんねえ事で、あんまし頭使わねえ方がいいな。」
「まあ…。」
「長居は無用。
俺はそろそろ帰るわ。
今まで以上にやるべき事はやれてるし、ダラダラここにいても意味ねぇ。」
****
「ウミィ、おかえり!
約束の時間より…おっと15分も早い!上出来です!」
ソラは腕時計で時刻を確認にした。
「かつらちゃんのお家に行ってから早、2ヶ月ちょっと。
あれからウミは遅刻をしない優等生です。
今夜もちゃんと約束の時間に帰ってきてくれてる。
はぁい、みなさんもご一緒にパチパチパチパチ!」
「みなさんて2人きりしかいないだろ。」
ニコニコ拍手をするソラをウミは照れつつも複雑そうな顔だ。
ロックスターを目指しているのに門限を設けられ、それに逆らう事をせず従順に守っている自分が情けなかったのだ。
「じゃーん!ウミの好きなハンバーグがお夕飯だよぉ。」
「おっ!これはありがたいぜ!
ファミレスでミーティングしている時もコーラしか飲んでねぇんだ。
もう腹ペコよ!」
炊飯器からご飯を盛ってウミの茶碗をテーブルに置いた。
「さっきまでセラも居たんだよ。
ライブの事をセラに話したら、ヒロコさんと一緒にライブ行くって。
そのヒロコさんなんだけど、ウミのバンドの撮影もしてくれるみたいだよぉ。」
「えっいいのか?そいつは嬉しいね。
なんせ、あの姉さんはプロだもんな。
前に作品を見させて貰ったろ?ビビった!人の心を掴む写真ばかりだったから。」
「フフフ。良かったウミが喜んでくれて。
ねぇ、冷めないうちに一緒に食べようよ。
私もこのハンバーグだけじゃない。
ご飯を作るって、毎日がライブみたいなんもんなんだからね。」
「あぁ、そうだな!いただきます!」
「いただきまぁす!」
(深夜)
なかなか浮かんでこねぇもんだな。
固まった肩と背中を自己流のストレッチをしてほぐした。
高速道路を走る自動車はライトを照らし、二重サッシで締めらた部屋にノイズをねじ込んでくる。
アナログを好むわけではないが、ウミは鉛筆で歌詞を書いている。
長年続けているこのスタイルに疑問を抱いたことはない。
コアなオーディエンスはおろか、バンドメンバーも知らない新曲。
今のところ完成してもバンドメンバーには知らせるつもりはなく、誰にもお披露目する気はない。
曲を作るのにはさほど苦はなかったが、歌詞がどうしても納得いかなかった。
「スゥ、スゥ。」
ソラがベッドのなかで猫のようにまるくなり寝息を立てている。
ソラの事なんだし、素直にソラを書けばいい。
ウミはシンプルな気持ちに切り替わると、時折り笑いながら、切なくなりながらーーーー原稿用紙を埋めていく。
鉛筆はようやく役割を与えられた。
ソラが買った電気スタンドは小さく優しい灯りで、ウミの手やノートや鉛筆を照らす。
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