227 / 275
砂城院邸は門から屋敷まで徒歩1時間
226
しおりを挟む
一行は顔色の悪いかつらに代わってウミの運転で屋敷に到着した。
「ソラ、かつらに頼めばコイツを貰えるぜ?
なんてったって、世界的な大企業の令嬢だもんよ。
かつらからすりゃ、こんな車を100台俺にくれたところで10円ガム程度の出費だ。
いや、それ以下だな。」
皆がかつらの住む屋敷を見て興奮している時、ウミはソラに欲望を隠す事なく話した。
「そんなのダメに決まってるでしょ。
ウミが自分の力で買わなきゃなんの意味もないわ。
私の事、ガッカリさせないでよね。」
ソラは武装を外しながらウミに言った。
「なんて頭の固い女だ。」
「なんか言った?」
「い、いや。俺はいつまでも、ポンコツに乗りたかねぇの。」
凄む妻に恐れをなした夫は口答えをせず下を向く。
「ポンコツなんて言うけどね。私、ウミが中古で買った可愛い軽トラックにはお金では買うことができない素敵な想い出がいっぱいつまっているの。
これからも大切な"軽トラちゃん"に乗りたいな。ダメ?」
かつらのオープンカーに執着するウミの発言でムスッとした表情のソラは、軽トラックへの思い入れを語ると何事もなかったかのように、可愛らしいえくぼをみせた。
「…おまえがそこまで言うなら、まだあのポンコツに乗ってやるけどさ。」
頭の中でウミは仕方なく中古で購入した白い軽トラックを思い出し、妻がいったいどこであのポンコツに惚れる要素があったか想いを張り巡らせているが、まったくピンとこない。
一行が屋敷の付近に近づくと自動で玄関が開いた。
「皆様いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
若い家政婦が出迎えた。
「顔色が悪いようですが、いかがなさいました?かつらちゃん。」
若い家政婦は緊張しているのか堅苦しい。
「ワタクシなら大丈夫よ。それより、みなさんをお部屋へお連れして。」
「おいかつら。おまえ、家政婦さんにちゃん付けで呼ばれるようになったのか?」
「ええ。家政婦さん達とは今までよりもっと親睦を深めたくて、ワタクシの方から頭を下げてお願いしたのですわ。
ワタクシの過去が過去ですので、みなさんはまだよそよそしいですけどね…。」
「やっぱりかつらちゃんは優しい女の子なのね。」
ソラはかつらに抱きついた。
好きなソラに抱きつかれた事で頬を赤くしたかつらは、古いロボットのようにカクカクした動きをした。
「ソ、ソ、ソラちゃん。あ、あのワタクシ、ソラちゃんの、おかげで、あのその、か、変われたのよ。」
声の大きいウミを中心に笑いが起きた。
「ちょっとみんな、笑っちゃ失礼よぉ。」
「姉貴に続いてあたしもかつらちゃんに抱きついちゃえ!」
姉に変わってかつらを正面から抱きしめたセラは、尻尾を振る子犬のように人懐っこい。
「あ、あん。」
「かつらちゃんて清楚だよね。身体も華奢で折れちゃいそう。」
アマチュアながら格闘技にのめり込み、"女のまま男の中の男"になるを信条としているセラとでは体格が異なって当然だ。
「ウチ、お姉ちゃんとハグした写真とセラちゃんとハグする写真も撮ったよ。
撮るのは好きだけどね、ウチもその輪に入りたくなっちゃった。」
ヒロコは隣にいるウミに一眼レフを持ってもらい、かつらの背後に回り抱きついた。
「あ、あ、あの、お二人の甘い息が。
ワタクシ、女性同士とはいえここまでは初めて。」
「ウミ、写真撮って!早く早く!」
「えっ?これどうやって撮るんだ?」
「もう、私にかしなさい。」
はしゃぐ3人娘を手馴れた手つきでカメラを撮る。
初めて一眼レフで写真を撮る妻を見て、夫は感心したのと同時にロックスターを目指している為、スポットライトが好きなウミは血が騒いだ。
「よっしゃ!」
テンションが上がっているセラとヒロコに前後から抱きしめられて、かつらはサンドウィッチ状態だ。
そんな3人娘の前にウミが気取って立ち塞がる。
「はっ?邪魔だからどいてよね。」
「俺が邪魔だぁ!?バンドのフロントマンなんだぜ?」
プロカメラマンであるヒロコに丁寧に教え込まれたカメラの腕前を生かし、偶然の産物である3人が抱き合うという場面をどうしてもソラは撮りたかったのだ。
「しつこいわよぉ!」
「うるせぇ!俺を撮れ!」
「いい加減にしてウミィ!!!」
ソラはどでかい雷を落とした。
「そ、そこまで怒鳴らなくてもいいじゃんかよ…。」
苦笑いをしている若い家政婦の両隣で凛として立っている家政婦が反応した。
「今ウミって言ったよね?お兄さんはこないだモモちんの件で、出会ったウミ君?
やっぱウミ君じゃん!久しぶりね。私だよサナエ!」
「おお!あん時、助けてくれた姉ちゃんか!?
アンタがいなきゃヤバかったんだ。」
「キャバ辞めて今はこっちで働き始めたんだ。
求人誌のシティワークに掲載されていてさ。
砂城院家は好待遇だったから応募しちゃった。
まさかここで再会できるとはね。」
「アイツらはどうなった?」
「まだ拘置所だよ。たぶん執行猶予がついて実刑はないと思う。
ずっとウミ君の事、心配してたんだ。
元気そうで良かった。」
「サナエさんだけじゃないよ。ねぇねぇ覚えてる?
覚えているわけないか。髪色も金髪から黒に戻しちゃったし。
クソ宗成から彼女を守る為、砂城院家まで、バイクを2人乗りした事を。」
「覚えてるぜ!あん時、アンタがいなきゃ俺はソラを救い出せなかったんだからよ!
アンタにも感謝してんだ。格好良い隼に乗っているマキによ!」
「覚えていてくれたとは!しかもさ、あたしの名前と単車まで…。
姉ちゃん嬉しいよ。」
「へぇー。マキもウミ君と知り合いだったんだ?」
「彼とは高校の先輩と後輩って仲。この子、彼女を守る為にここへあたしと乗り込んだんだよ。」
「ウミ君はやっぱ男だね!私の時も独りで戦ってたもんなあ。」
サナエはしみじみと当時を振り返っている。
「意外だぜ。姉ちゃん同士も知り合いだったんだな?」
歳上の女性2人に武勇伝を語られ、照れくさくなったウミは話題を変えた。
「サナエさんとは今まで面識はなかったね。」
「私とマキはここで働き始めて知り合った同期だよ。」
歳上のサナエはマキと目を合わせ、クスッと笑った。
色気のある大人の女性2人と仲睦まじく会話をしている最中、ウミはとてつもない殺気を感じていた。
「ソラ、かつらに頼めばコイツを貰えるぜ?
なんてったって、世界的な大企業の令嬢だもんよ。
かつらからすりゃ、こんな車を100台俺にくれたところで10円ガム程度の出費だ。
いや、それ以下だな。」
皆がかつらの住む屋敷を見て興奮している時、ウミはソラに欲望を隠す事なく話した。
「そんなのダメに決まってるでしょ。
ウミが自分の力で買わなきゃなんの意味もないわ。
私の事、ガッカリさせないでよね。」
ソラは武装を外しながらウミに言った。
「なんて頭の固い女だ。」
「なんか言った?」
「い、いや。俺はいつまでも、ポンコツに乗りたかねぇの。」
凄む妻に恐れをなした夫は口答えをせず下を向く。
「ポンコツなんて言うけどね。私、ウミが中古で買った可愛い軽トラックにはお金では買うことができない素敵な想い出がいっぱいつまっているの。
これからも大切な"軽トラちゃん"に乗りたいな。ダメ?」
かつらのオープンカーに執着するウミの発言でムスッとした表情のソラは、軽トラックへの思い入れを語ると何事もなかったかのように、可愛らしいえくぼをみせた。
「…おまえがそこまで言うなら、まだあのポンコツに乗ってやるけどさ。」
頭の中でウミは仕方なく中古で購入した白い軽トラックを思い出し、妻がいったいどこであのポンコツに惚れる要素があったか想いを張り巡らせているが、まったくピンとこない。
一行が屋敷の付近に近づくと自動で玄関が開いた。
「皆様いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
若い家政婦が出迎えた。
「顔色が悪いようですが、いかがなさいました?かつらちゃん。」
若い家政婦は緊張しているのか堅苦しい。
「ワタクシなら大丈夫よ。それより、みなさんをお部屋へお連れして。」
「おいかつら。おまえ、家政婦さんにちゃん付けで呼ばれるようになったのか?」
「ええ。家政婦さん達とは今までよりもっと親睦を深めたくて、ワタクシの方から頭を下げてお願いしたのですわ。
ワタクシの過去が過去ですので、みなさんはまだよそよそしいですけどね…。」
「やっぱりかつらちゃんは優しい女の子なのね。」
ソラはかつらに抱きついた。
好きなソラに抱きつかれた事で頬を赤くしたかつらは、古いロボットのようにカクカクした動きをした。
「ソ、ソ、ソラちゃん。あ、あのワタクシ、ソラちゃんの、おかげで、あのその、か、変われたのよ。」
声の大きいウミを中心に笑いが起きた。
「ちょっとみんな、笑っちゃ失礼よぉ。」
「姉貴に続いてあたしもかつらちゃんに抱きついちゃえ!」
姉に変わってかつらを正面から抱きしめたセラは、尻尾を振る子犬のように人懐っこい。
「あ、あん。」
「かつらちゃんて清楚だよね。身体も華奢で折れちゃいそう。」
アマチュアながら格闘技にのめり込み、"女のまま男の中の男"になるを信条としているセラとでは体格が異なって当然だ。
「ウチ、お姉ちゃんとハグした写真とセラちゃんとハグする写真も撮ったよ。
撮るのは好きだけどね、ウチもその輪に入りたくなっちゃった。」
ヒロコは隣にいるウミに一眼レフを持ってもらい、かつらの背後に回り抱きついた。
「あ、あ、あの、お二人の甘い息が。
ワタクシ、女性同士とはいえここまでは初めて。」
「ウミ、写真撮って!早く早く!」
「えっ?これどうやって撮るんだ?」
「もう、私にかしなさい。」
はしゃぐ3人娘を手馴れた手つきでカメラを撮る。
初めて一眼レフで写真を撮る妻を見て、夫は感心したのと同時にロックスターを目指している為、スポットライトが好きなウミは血が騒いだ。
「よっしゃ!」
テンションが上がっているセラとヒロコに前後から抱きしめられて、かつらはサンドウィッチ状態だ。
そんな3人娘の前にウミが気取って立ち塞がる。
「はっ?邪魔だからどいてよね。」
「俺が邪魔だぁ!?バンドのフロントマンなんだぜ?」
プロカメラマンであるヒロコに丁寧に教え込まれたカメラの腕前を生かし、偶然の産物である3人が抱き合うという場面をどうしてもソラは撮りたかったのだ。
「しつこいわよぉ!」
「うるせぇ!俺を撮れ!」
「いい加減にしてウミィ!!!」
ソラはどでかい雷を落とした。
「そ、そこまで怒鳴らなくてもいいじゃんかよ…。」
苦笑いをしている若い家政婦の両隣で凛として立っている家政婦が反応した。
「今ウミって言ったよね?お兄さんはこないだモモちんの件で、出会ったウミ君?
やっぱウミ君じゃん!久しぶりね。私だよサナエ!」
「おお!あん時、助けてくれた姉ちゃんか!?
アンタがいなきゃヤバかったんだ。」
「キャバ辞めて今はこっちで働き始めたんだ。
求人誌のシティワークに掲載されていてさ。
砂城院家は好待遇だったから応募しちゃった。
まさかここで再会できるとはね。」
「アイツらはどうなった?」
「まだ拘置所だよ。たぶん執行猶予がついて実刑はないと思う。
ずっとウミ君の事、心配してたんだ。
元気そうで良かった。」
「サナエさんだけじゃないよ。ねぇねぇ覚えてる?
覚えているわけないか。髪色も金髪から黒に戻しちゃったし。
クソ宗成から彼女を守る為、砂城院家まで、バイクを2人乗りした事を。」
「覚えてるぜ!あん時、アンタがいなきゃ俺はソラを救い出せなかったんだからよ!
アンタにも感謝してんだ。格好良い隼に乗っているマキによ!」
「覚えていてくれたとは!しかもさ、あたしの名前と単車まで…。
姉ちゃん嬉しいよ。」
「へぇー。マキもウミ君と知り合いだったんだ?」
「彼とは高校の先輩と後輩って仲。この子、彼女を守る為にここへあたしと乗り込んだんだよ。」
「ウミ君はやっぱ男だね!私の時も独りで戦ってたもんなあ。」
サナエはしみじみと当時を振り返っている。
「意外だぜ。姉ちゃん同士も知り合いだったんだな?」
歳上の女性2人に武勇伝を語られ、照れくさくなったウミは話題を変えた。
「サナエさんとは今まで面識はなかったね。」
「私とマキはここで働き始めて知り合った同期だよ。」
歳上のサナエはマキと目を合わせ、クスッと笑った。
色気のある大人の女性2人と仲睦まじく会話をしている最中、ウミはとてつもない殺気を感じていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

侯爵令嬢は限界です
まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」
何言ってんだこの馬鹿。
いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え…
「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」
はい無理でーす!
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。
※物語の背景はふんわりです。
読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる