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第6部 日常の素晴らしさ
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(数日後)
ウミはドラマーのカズとスタジオ入りしていた。
「さすがだな、ウミ。」
「バカ言うな。
ちょいと事情があって足踏みしちまったから、腕が鈍ってる。
俺の理想から程遠いぜ。」
「そのレベルでも納得できないとは驚きだよ。」
カズはギターを演奏するウミのセンス、テクニック、独創性に唸った。
「そんなん言う為に話しかけたのか?
時間が限られてんだ。無駄口をたたいてねぇで気合い入れて練習しろよ。」
ウミはアンプに置いてあるコーラに口をつけてグイグイ飲む。
「よもやま話をするつもりはないんだ。
おまえの耳にも入れておかなきゃならない事があってだな。」
「なんだよ。早く言えよ。」
「ニシから連絡があったんだ。
スケジュールについて聞かれてさ、もし予定がないなら3ヶ月後、ウチのバンドと対バンしないかって。」
「ニシだぁ!?誰がすっかよ!アーティスティックのかけらもねぇニシの傀儡バンドなんぞとよ!
クソ喰らえと伝えておいてくれ!」
「まぁ、おまえならそういうリアクションをするよな…。でも、考えようによってはさーーーー」
「考えようもクソもねぇよ!
あんなガキ向けバンドとやったところで、こちらがなんならかの良い影響を受けれるとは思えねぇ。」
ウミは大切にしていたバンドの中心メンバーであったにもかかわらず脱退せざるを得ない状況を作ったプロデューサーを嫌悪している為、怒りにまかせ巻くしたてた。
「奴らはニシの力で着実に知名度を上げていて集客力もある。
逆に俺達は以前からついて来てくれた限られたコアなファンのみだ。
このまま地道に活動するのも大切だが、奴らと対バンをして俺らの実力をオーディエンスに知らしめる絶好の機会なんじゃないかなって思うんだよ。」
「何もわからねえ客ならこちらからお断りだ。」
「俺とウミで本物を教えるんだよ。」
本物という言葉にウミは心に響くものがあったようだ。
「本物、か。そりゃ俺らが本物だ。
それをガキバンドのファンに知らしめるってのは愉快かもな。
だけどよ、アイツらのツラなんざ見たかねえや。
それに何か裏があると思わないか?
なぜに俺らと対バンをしたがるんだよ。」
カズは椅子に座りながらドラムスティックを指先で器用に回している。
「うん。俺もそこが引っかかっちゃってね。
別に俺らじゃなくとも活きの良いバンドは、日本中に吐いて捨てるほど存在するってのに。」
「腹黒いニシの事だ。よからぬ事を企ててると思うぜ。」
「どうする?ウミ。この対バンの件は断るかい?」
少しの間、ウミはお気に入りのレスポールを見つめ珍しく思慮深く考えている。
「奴らとの対バン、受けて立つか。
ニシが何を仕掛けてこようが動じる事はない。
俺らは楽曲の良さ、ライブパフォーマンス、ロックのアティテュードも持ち合わせている。
ニシのバンドに引けを取るなんてこたぁないぜ。
寧ろ俺らの方が圧倒的に上だ。」
ウミはカズの目を見て言った。
「よし。じゃあ決まりだね。
奴らが企んでいたとしても、俺らはブレず俺らのプレイをすればいいって事だよな?」
「ところでカズ。なんでてめぇはニシの連絡先がまだあんだよ?
まさか裏切りか?」
「違う違う誤解だって。ニシから俺に電話してきたんだ。
奴は俺の番号を消去していなかったんじゃね?」
カズは潔白を証明しようと必死だ。
「フッ、まあいいや。
それよか、俺らはギターボーカルとドラムのみの構成で変則的だろ?
楽曲の世界観を表現するのはかなり難しい。
今からメンバー集めをしても間に合はない。そこがネックだ。」
飲み干して空になったペットボトルのコーラの水滴まで飲もうと顔を天井に向けた。
「ああ、新メンバーなら来週には合流するよ。」
「なっ、そんな話、俺は聞いてねえぞ!勝手な事しやがって!
どこの馬の骨かわからねえのに、おまえの独断で重要事項を決めやがって!」
「俺はおまえに何度も連絡したんだぞ!自宅にも足を運んだ。
教えたくてもおまえと全く連絡がつかなかったんだ。
トークでも新メンバーについてウミに伝えているはずだぜ?
既読がついてないから読んでないんだろうな。」
ウミはジーパンのポケットからスマホを取り出して確認した。
無視していたわけではないが、ウミはソラを探す為、駆けずり回っておりそれどころではなかった。
「あっ、ほんとだ。トークで新メンバー加入について連絡してくれていたんだな。
全然気づかなかったよ。まぁ、その、すまなかったな。」
ウミは後頭部に手を当てて苦笑いを浮かべた。
「まぁいい。おまえの身に何があったかは問い詰めないでおこう。
新メンバーは元々、俺らの熱心なファンらしい。
だからスムースに入っていけるんじゃないかな?」
「決めた!新メンバーに会いたいから、練習はここまで。
今すぐ会いに行くぞ!
おまえは連絡先知ってるんだろ?連絡してくれ。」
「来週あう段取だよ。彼らにも予定があるんだぞ?」
「バカタレ!時間がねえんだ。早く結束して音を固めなきゃならねえ。
嫁との門限だってあるんだしよ。」
「おまえ、さっきまで連絡つかなかった事でしおらしくしていたくせに、もういつも通りのでかい態度に戻りやがって。」
「この切り替えが早いとこが俺の良いとこじゃんか。
オラ、とっとと片付けて新メンバーに会いに行くぞ!」
ウミはドラマーのカズとスタジオ入りしていた。
「さすがだな、ウミ。」
「バカ言うな。
ちょいと事情があって足踏みしちまったから、腕が鈍ってる。
俺の理想から程遠いぜ。」
「そのレベルでも納得できないとは驚きだよ。」
カズはギターを演奏するウミのセンス、テクニック、独創性に唸った。
「そんなん言う為に話しかけたのか?
時間が限られてんだ。無駄口をたたいてねぇで気合い入れて練習しろよ。」
ウミはアンプに置いてあるコーラに口をつけてグイグイ飲む。
「よもやま話をするつもりはないんだ。
おまえの耳にも入れておかなきゃならない事があってだな。」
「なんだよ。早く言えよ。」
「ニシから連絡があったんだ。
スケジュールについて聞かれてさ、もし予定がないなら3ヶ月後、ウチのバンドと対バンしないかって。」
「ニシだぁ!?誰がすっかよ!アーティスティックのかけらもねぇニシの傀儡バンドなんぞとよ!
クソ喰らえと伝えておいてくれ!」
「まぁ、おまえならそういうリアクションをするよな…。でも、考えようによってはさーーーー」
「考えようもクソもねぇよ!
あんなガキ向けバンドとやったところで、こちらがなんならかの良い影響を受けれるとは思えねぇ。」
ウミは大切にしていたバンドの中心メンバーであったにもかかわらず脱退せざるを得ない状況を作ったプロデューサーを嫌悪している為、怒りにまかせ巻くしたてた。
「奴らはニシの力で着実に知名度を上げていて集客力もある。
逆に俺達は以前からついて来てくれた限られたコアなファンのみだ。
このまま地道に活動するのも大切だが、奴らと対バンをして俺らの実力をオーディエンスに知らしめる絶好の機会なんじゃないかなって思うんだよ。」
「何もわからねえ客ならこちらからお断りだ。」
「俺とウミで本物を教えるんだよ。」
本物という言葉にウミは心に響くものがあったようだ。
「本物、か。そりゃ俺らが本物だ。
それをガキバンドのファンに知らしめるってのは愉快かもな。
だけどよ、アイツらのツラなんざ見たかねえや。
それに何か裏があると思わないか?
なぜに俺らと対バンをしたがるんだよ。」
カズは椅子に座りながらドラムスティックを指先で器用に回している。
「うん。俺もそこが引っかかっちゃってね。
別に俺らじゃなくとも活きの良いバンドは、日本中に吐いて捨てるほど存在するってのに。」
「腹黒いニシの事だ。よからぬ事を企ててると思うぜ。」
「どうする?ウミ。この対バンの件は断るかい?」
少しの間、ウミはお気に入りのレスポールを見つめ珍しく思慮深く考えている。
「奴らとの対バン、受けて立つか。
ニシが何を仕掛けてこようが動じる事はない。
俺らは楽曲の良さ、ライブパフォーマンス、ロックのアティテュードも持ち合わせている。
ニシのバンドに引けを取るなんてこたぁないぜ。
寧ろ俺らの方が圧倒的に上だ。」
ウミはカズの目を見て言った。
「よし。じゃあ決まりだね。
奴らが企んでいたとしても、俺らはブレず俺らのプレイをすればいいって事だよな?」
「ところでカズ。なんでてめぇはニシの連絡先がまだあんだよ?
まさか裏切りか?」
「違う違う誤解だって。ニシから俺に電話してきたんだ。
奴は俺の番号を消去していなかったんじゃね?」
カズは潔白を証明しようと必死だ。
「フッ、まあいいや。
それよか、俺らはギターボーカルとドラムのみの構成で変則的だろ?
楽曲の世界観を表現するのはかなり難しい。
今からメンバー集めをしても間に合はない。そこがネックだ。」
飲み干して空になったペットボトルのコーラの水滴まで飲もうと顔を天井に向けた。
「ああ、新メンバーなら来週には合流するよ。」
「なっ、そんな話、俺は聞いてねえぞ!勝手な事しやがって!
どこの馬の骨かわからねえのに、おまえの独断で重要事項を決めやがって!」
「俺はおまえに何度も連絡したんだぞ!自宅にも足を運んだ。
教えたくてもおまえと全く連絡がつかなかったんだ。
トークでも新メンバーについてウミに伝えているはずだぜ?
既読がついてないから読んでないんだろうな。」
ウミはジーパンのポケットからスマホを取り出して確認した。
無視していたわけではないが、ウミはソラを探す為、駆けずり回っておりそれどころではなかった。
「あっ、ほんとだ。トークで新メンバー加入について連絡してくれていたんだな。
全然気づかなかったよ。まぁ、その、すまなかったな。」
ウミは後頭部に手を当てて苦笑いを浮かべた。
「まぁいい。おまえの身に何があったかは問い詰めないでおこう。
新メンバーは元々、俺らの熱心なファンらしい。
だからスムースに入っていけるんじゃないかな?」
「決めた!新メンバーに会いたいから、練習はここまで。
今すぐ会いに行くぞ!
おまえは連絡先知ってるんだろ?連絡してくれ。」
「来週あう段取だよ。彼らにも予定があるんだぞ?」
「バカタレ!時間がねえんだ。早く結束して音を固めなきゃならねえ。
嫁との門限だってあるんだしよ。」
「おまえ、さっきまで連絡つかなかった事でしおらしくしていたくせに、もういつも通りのでかい態度に戻りやがって。」
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